加計学園の獣医学部新設を巡る疑惑で、政府が追い詰められるきっかけとなったのが、菅義偉官房長官の記者会見。文部科学省の内部文書について東京新聞の女性記者から厳しい追及をうけた菅氏は、答弁に窮して立ち往生。「文部科学省において検討した結果、出所や入手経路が明らかにされていない文書については、その存否や内容などの確認の調査を行う必要がないと判断した」という文言を繰り返したことで、国民の疑念を深める形となった。
都合が悪い話になると、聞かれたことに的確な答えを出さなくなるのが政治家や役人の常。同じ文言を繰り返して逃げる場合は、完全にクロと見なしてよい。
就任から1年となった鹿児島県の三反園訓知事が、記者会見で訳の分からない持論を展開。同じ文言を繰り返して記者団を呆れさせていた。
■「現状の報道をもってBPOに訴えるということはない」???
先月26日の知事定例会見。地元民放テレビの記者に「BPOに訴えるぞ」と申し向け、報道圧力をかけたとされる問題について聞かれた三反園氏は、記者と次のようなやりとりを行っていた。長くなるが、「一部を切り取った」と反論されないよう、質疑のすべてを紹介する。
(*BPOとは、NHKと民放各局によって設置された第三者機関「放送倫理・番組向上機構」のことで、問題があると指摘された番組・放送を検証して放送界や特定の局に意見や見解を伝え、一般にも公表することで是正を促す団体)
記者:マスコミの数社の人たちを知事室に呼ばれて、BPOを引き合いに出されながら番組の内容とかにご意見をされるというのは、ともすると報道機関への圧力ともとられかねないと思いますが、知事の見解をお聞かせください。
三反園:どなたを呼んだ時でしょうか。記者:知事ご自身が。
三反園:結構たくさん来ていただいているので、どなたを呼んだ時の話でしょうか。記者:どなたかというのを特定しないとお答えいただけないのでしょうか。
三反園:だって、たぶん呼んだ時、私も三十数年同じ立場にいましたのでよくわかりますが、オフレコで雑談も、たぶんよくするじゃないですか。やりますよね。どなたの時ですか。貴社ですか。記者:特定のというか、そういう話があったものでお話を伺いたいなと思いまして。BPO発言はあったか否かは。
三反園:だからどなたとの時の話ですか。たくさん会っているのでどなた。貴社ですか。記者:弊社も含めて。
三反園:言ったのですか、私が?記者:お伺いしているのですが。
三反園:私があなたに?記者:特に弊社に対しては、放送した内容に対して、BPOを引き合いに出してBPOに訴えてもいいんだぞというような発言が実際にありました。これは弊社に対してですね。それに対して真意というか、知事としてそもそもBPOというものを引き合いに出して,、送内容に対して発言されるというのが、ともすれば、見ようによっては、繰り返しになりますが圧力ともとられかねないと。ですから先の議会、県議会でそういう質問も上がったかと思うのです。一般質問でありましたよね。それに対して知事ご自身は、答弁に立たれずに、答弁されなかったので、この真意というのを、知事の言葉で考えて聞きたいということです。
三反園:それは、まずお答えしますが、オフレコで二人きりでたぶんお話ししたと思いますが、私自身は、いつも言っているのは、批判は結構ですと。こういう立場でいるので、マスコミは批判するのが仕事なのでどんどん批判して結構です、批判してください。それは謙虚に受け止めますということは貴社にも言ったかと思いますが、いろんな方に言っております。謙虚に受け止めますと。ただ、ひとつあるのは、間違った報道はしないでいただきたいと。間違った報道をすることによって、いわゆる県民は報道でしか知ることはできないわけですから、間違った報道はしないでいただきたいと,こういうことをずっと言っております。
そして、会話の時も、オフレコの話をということなので、私自身はオフレコということをこういう場でお話しするのはいかがなものかと思いますが、でも私自身は、すぐに、今すぐに、現状の報道をもってBPOに訴えるということを言ったつもりはありません。言っておりません、それは。私が言ったのは、批判はいいと。しかし間違った報道はしないでいただければありがたいと。そして、いわゆる公平・公正というものが大事じゃないか。ですよね。私の三十何年間の経験談みたいなものをお話ししたと思いますよ。私の三十何年間、コメンテーター、記者、キャスターをやっていた時の、自分の報道でどういうものを大事にしてきたかという話もしたと思いますね。そして、BPOができた経緯みたいなものもお伝えしたのではないかなと、そう思います。
私はこう思っているのです。現状の報道を見ていて、公平・公正に行われていると思っています。今も。思っているので、訴えるつもりもありませんし、これからもそのつもり、考えもありません。もうひとつあるのは、議会でお答えしたとおりでありまして、部長がお答えしたとおりであって、つまりBPOというのは放送業界が身内でつくった機関です。あなたもよく知っていますよね。身内でつくった機関なのですよ、実際に。しかも公平・公正に報道していればなんの問題もないのです。ですよね。圧力にも何にもならないじゃないですか。つまり公平・公正に報道していればなんの問題もないわけですよね。ないわけでしょ。
公平・公正に報道していないということではないわけでしょ。ですよね。そうしたらなんの問題もないじゃないですか。でしょ。私に権限があるわけではないですから。総務省あたりです。私もそういうプレッシャーの中でやってきましたからよくわかりますが、でしょ。だから、私、記者ともさまざまな意見交換をしていきたいのです、実際。記者の中での話も聞いて、それも県政運営に反映させていきたいのです。その点、やはり信頼関係も大事ですよね、いろんな意味で。だから、何回も言いますが、今すぐに訴えると言ったこともありませんし、今の現状、報道を見ていても、公平・公正に報道されていると私は思っています。だから訴えるつもりもありません。そして今後ともそういう考えに変わりはありません。それだけであります。だからまた、さまざまなご意見を聞かせてください。お願いします。
知事が圧力をかけたのは、質問している記者。分かっているはずなのに、三反園氏はわざわざ自分が脅した相手を聞いている。これは一種の威圧。相当たちが悪い。のっけからこの調子なのだから、その後の質疑がかみ合わないのは当然。三反園氏は、「現状の報道をもってBPOに訴えるということはない」という、訳の分からない話を持ち出していた。
「現状の報道をもってBPOに訴えるということはない」――。これは知事の思い、あるいは考えであって、答えにはなっていない。記者は「BPOに訴える」と言ったかどうかを聞いているのであって、知事は「言った」か「言っていない」かを答えるべきなのだ。記者経験がある三反園氏が、あえてこうした態度をとるということは、「言った」と認めた瞬間、責任を問われることが分かっているから。報道出身とは思えない姑息な姿勢である。記者とのやり取りにもあるように、6月県議会で自民党県議からこの問題を追及された知事は、自ら答弁に立つことを避け、県幹部に答えさせていた。これのどこが「謙虚」なのか!
■姑息
「BPOに訴える」を認めたくない三反園氏。別の質疑を挟んだ第二幕では、「現状の報道をもってBPOに訴えるということはない」を繰り返すことになる。以下、そのやりとり。
記者:先ほどの記者さんとのお話のBPOの問題ですが、記者さんの方はそういうお話しがあった、「BPOに訴えるぞ」ということを言われたと。知事はそういうことを言った覚えはないと。言われなかったということでよろしいですか、事実関係として。
三反園:さっき言ったとおりです。記者:もう1回お尋ねするのですが、言わなかったと、事実関係として知事は断言されるということでよろしいですか。
三反園:今の現状の報道をもってすぐに訴えるということは、そういうことを言ったつもりはありませんということです。記者:しかし、知事もマスコミ出身でよくおわかりだと思いますが、いわゆる知事、立場がある人、そういう方々から冗談めかしでもそういうことを言われると、我々は圧力というように捉えても仕方ないと思いますが。いかがでしょうか。
三反園:私も逆の立場にいたのでよくわかっています。わかっているからあえて言いますが、公平・公正に報道していればなんの問題もないのです、実際に。だからそういう、当然永田町にいましたよね。
記者:いましたよ。
三反園:ですよね。いろんな意味で権限のある方がいっぱいいらっしゃるわけじゃないですか。私も政府のことを批判もしてきました。そこで何が一番大事かというと、やはり公平・公正さなのです。公平・公正ということが、自分がそう思っていれば何を言われてもなんの問題もない、という思いでずっとやってまいりましたので、公平・公正にやっていればなんの問題もないのです、実際に。記者:公平・公正にやっていれば問題ないでしょうということは、それは批判をするなということに受け取られませんか。
三反園:いや、そんなことはない。だって公平・公正に報道していないのですか。記者:いや、していますよ。
三反園:だったら……。記者:していますが、批判も当然加味されますよね。
三反園:だから、ごめんなさい。何度も言っていますが、批判はどんどんしてくださいと言っているじゃないですか。記者:もう1回お尋ねしますが、知事はBPOうんぬんの発言はなかったという捉え方でいいですか。
三反園:現状の報道をもって今すぐに訴えると言ったことはありません。記者:現状の報道をもって今すぐ、では将来的に訴える可能性は。
三反園:将来的にもありません。記者:言ったことはない。
三反園:将来的にもありませんと言っているのです。記者:ないということですね。
三反園:現状の報道を見ていても、公平・公正に報道されていると私は思っています。だから訴えるつもりはありませんし、将来的にもそういうことをするつもりはありません。これはもう答えであります。それがすべてです。記者:関連です。知事は、将来も含めて、そういったことを言ったことはないと今おっしゃいましたが、「BPOに訴えてもいいんだよ」という言葉があったことは事実としてあります。弊社としても公平・公正に報道しているつもりがありますし、それに対して知事の中で、放送の仕方にたぶん納得がいかなかったのでしょう。それで「BPOに訴えてもいいんだよ。それだってできるんだよ」という発言があったことはお認めになっていただけますよね。
三反園:そんなことを言いましたか?私が言ったのは、要するに、現状の報道の中ですぐに訴えるということは言っていませんよね。記者:現状の報道の中で……?
三反園:報道の中ですぐに訴えるとは言っていませんよね。記者:ただ、「この前のこの放送はあんまりだよね」、「あれはおかしいんじゃないか」と、もちろん具体的な個別の報道に対して。
三反園:それは、雑談の中じゃないですか。記者:雑談ですか。
三反園:違いますか。二人きりで話した時、違いますか。記者:雑談ですか。
三反園:現状に対して、自分がこれまでやってきたこともあるし、やはり公平・公正を含めていろんな考え方をもっているわけでしょう。私も持っています、それは。実際問題いたわけですから。記者:雑談でBPOという言葉を、「訴えてもいいんだよ」という言葉をおっしゃったということですか。
三反園:いや、そこはちょっと私もそこまで記憶はないですね。記者:記憶にないですか。
三反園:だって、私自身は公平・公正に報道していると思っていますよ、実際に。記者:はい。
三反園:思っていますよ。
記者:ええ。
三反園:公平・公正に報道していれば、何の問題もないわけじゃないですか。
記者:そうですね。
三反園:はい。だから、公平・公正に報道されていると思っていますし、そして今後ともそういう考えはないと言っているわけです、実際。それが今の考えです。変わりません、だから。記者:その時とは思いが変わったということですか。
三反園:その時も、現状の報道をもってすぐに訴えるということは言っておりません、実際に。言っておりません。記者:現状の報道をもって訴えることはないというのは、つまり今後,公平・公正さが保たれていなかったらBPOに訴えることだってできるんだよというような発言だったということですか。
三反園:公平・公正に報道していればなんの問題もないじゃないか。つまりBPOができた経緯みたいなものも得々と説明しましたよね。
記者:はい。
三反園:ね、詳細は覚えていませんが。これまでの私の経験談やBPOがなぜできたのかと、不祥事がどんどん起こったので、自分達で身を律しなければいけないという形の中でBPOができたわけですよ。つまり、自分たちで作ることに意味があったわけですね。ね、わかるでしょう?自分たちで作ったわけです。だから自分たちで判断できるわけです、BPOは。記者:つまりあらためてマスコミの先輩としてそれをレクチャーしてくれたということですね。
三反園:そうです、はい。それはそういうことです。もしあったら、またどうぞ、一緒に。どうぞどうぞ、報道議論しましょう、一緒に。
ペテン師知事の「公平・公正」には笑うしかないが、話をはぐらかし、まともな議論を封じ込めるのだけは一流。BPO発言を認めず、最後は「記憶にない」で逃げていた。永田町での取材が長かったせいだろう、役人や政治家の最も悪いところが、三反園氏の身体に沁み込んでいる。まともな記者なら、関係のない話でごまかす相手には、「答えになっていない」とかみつくのが普通。報道出身でありながら、三反園氏には、その基本姿勢さえない。気に入らない報道だからといって「BPOに訴える」は、単なるクレーマー。三反園氏が歴代最低の知事であることは、疑う余地がない。