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【加計疑惑】文科省メールと文書(上) ― 背景に文科・農水両省の抵抗

2017年6月12日 09:15

1-岡山.png 安倍晋三首相の腹心の友が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題を巡り、松野博一文部科学大臣が9日、閣議後の会見で『官邸の最高レベルが言っていること』『総理のご意向』などと記された文書の存在について追加調査することを表明した。
 一連の文書を怪文書扱いしていた政府が、厳しい世論の動向を受け方針転換を余儀なくされた形。だが、実効性のある調査を期待するのは無理のようで、同日に会見した萩生田光一官房副長官は、さっそく問題先送りへの伏線を張っている。
 幕引きを急ぎたい政府・与党。しかし、公式記録に残された戦略特区に関する政府内の議論を精査すると、獣医学部新設が『総理のご意向』によるものだったことは歴然。俯瞰して見れば、文科省内の文書やメールが、国政の私物化を証明する重要な証拠であることが分かる。

■加計の身内がもみ消し宣言
 会見で、「資料が実在したとしても、それ自体が正しいかどうかは、その次の話だ」と発言した萩生田官房副長官。文科省の文書やメールが実在しても、『総理のご意向』が示されたという証拠がなければ、問題にはならないと言いたいらしい。だが、この人に加計学園問題について語る資格はあるまい。

 萩生田氏は、平成21年の総選挙で落選。24年に返り咲くまでの3年間、加計学園が運営する千葉科学大学で危機管理学部の客員教授として毎月10万円の報酬を得ていたことが分かっている。現在も同大学の名誉客員教授。いわば加計学園の身内ともいえる人間が、政府を代表して文科省文書の信憑性に難癖をつけ、もみ消しを宣言した格好だ。萩生田氏に発言させた段階で、政府側の姿勢はすでに公平性を欠いている。

20170612_h01-01s.jpg■分科会議事録に残る農水・文科両省の抵抗
 しかし政府がどうあがこうと、加計学園の獣医学部新設を認めた国家戦略特区での議論が、ある時期から「加計ありき」で進んだことは明らか。『総理』や『官邸の最高レベル』が指示しなければ、できない相談だった。

 昨年9月21日に内閣府の特別会議室で開かれた国家戦略特別区域会議「今治市分科会」。愛媛県今治市が申請した加計学園の獣医学部新設について話し合われたこの会議で、オブザーバ―参加していた農林水産省と文科省の官僚が、重要な発言を行っていた。司会進行は、文科省側に『官邸の最高レベルが言っていること』『総理のご意向』などと圧力をかけ、加計の獣医学部新設を認めるよう働きかけていたとされる内閣府の藤原豊地方創生推進事務局審議官。農水省と文科省は獣医学部の所管官庁で、分科会の議事録(右の文書参照)には次のように記録されている。

○藤原 本日は、関係省庁の文科省、農水省からも御出席をいただいております。一言ずつコメントを頂戴できればと思います。まず、文科省からお願いいたします。

○浅野課長 文部科学省の専門教育課長の浅野でございます。文部科学省としましては、日本再興戦略改訂2015、先ほど藤原審議官から参考資料2に基づいて御説明いただいた要件について、きちんと満たされるということを確認することが重要だと考えております。今後とも、農水省や厚労省とも連携をしていきたいと思っております。

○藤原審議官 ありがとうございました。それでは、農水省よりお願いします。

○林調査官 農水省の林でございます。農水省としましては、獣医学部の新設は、皆さん御承知のとおりでございますけれども、学校教育法に基づく文科省の告示により規制されているという中で、引き続き獣医師の需給に関する情報等を収集・整理して、必要に応じて文科省等に提供させていただきながら対応してまいりたいと考えております。今後ともよろしくお願い申し上げます。

 議事録に出てくる文科省の「浅野課長」というのは、これまで報じてきた「文科省メール」や「文科省文書」で明らかとなっている高等教育局専門教育課長の浅野氏。ここで浅野氏は、獣医学部新設に極めて慎重な姿勢だったことが分かる。浅野氏が言う『日本再興戦略改訂2015、先ほど藤原審議官から参考資料2に基づいて御説明いただいた要件」とは、獣医学部新設を検討する場合の条件。第2次・第3次安倍内閣で国家戦略特区担当相を務めた石破茂が提起したもので、次のいわゆる“石破4条件”とされるものだ。

 ①現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し、②ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要が明らかになり、かつ、③既存の大学・学部では対応困難な場合には、④近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。

 浅野課長の発言からは、文科省が、石破4条件を満たさない獣医学部新設は認めないという方針だったことが分かる。農水省も同じ。獣医学部新設を認めていなかった文科省の告示を持ち出した上で「獣医師の需給に関する情報等を収集・整理して、必要に応じて文科省等に提供」と述べており、学部新設は獣医師需要の動向などから認められないとする従来の方針を表明していた。文科・農水の両省の抵抗が、少なくとも9月21日の今治分科会までは続いていた証拠。状況が一変するのはこのあとで、そこに問題の文科省メールと文書が登場する。

(つづく)



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