学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、次々と存在が明らかになる“文科省加計文書”。安倍政権の歪んだ国政運営を示す重要な証拠物件だが、この問題の核心が文書の存否にあるわけではない。
注目すべきは、学部新設を決定するに至った過程。学部新設を決めた国家戦略特別区域会議(議長:安倍首相)の議論経過と政府が存在を認めた文科省文書を突き合わせると、諮問会議の議論が単なるアリバイに過ぎないことが明らかとなる。加計の獣医学部新設は、水面下で決まっていた。
■諮問会議民間議員、潔白を主張したが……
今月13日、国家戦略特区諮問会議の民間議員を務める八田達夫アジア成長研究所長、竹中平蔵東洋大教授、坂根正弘小松製作所相談役特別顧問ら4人が内閣府で記者会見し、「政策判断と決定プロセスはすべて正当であり、何らかの意向で歪められた事実はない」「首相から特に推進してほしいとの要請は一切なかった」などとして「総理の意向」によって行政が歪められたとする見方を否定した。しかし、諮問会議の議論経過を見ると、熟議の末の獣医学部新設ではなかったことが歴然。特区関係会議の議事録は、すべて“アリバイ”に過ぎない。
表に出ている記録では、加計の獣医学部新設をリードしたのが特区諮問会議の正当性を訴えた当の八田氏だったことが分かる。下は、昨年9月21日に開かれた諮問会議「今治分科会」における八田氏の発言だ(以下、発言部分は諮問会議議事録から抜粋)。
この段階で、八田氏は既に今治市が申請していた加計の獣医学部新設を「ぜひ推進していくべきだ」と述べている。八田氏は、特区ワーキンググループの座長として諮問会議にかける議論の前段階を仕切る立場。加計の獣医学部新設は決まったようなもので、あとは所管官庁である文部科学省や農林水産省の判断待ちだったと言ってよい。ちなみに、京都産業大学提出の獣医学部新設申請についてワーキンググループの会議が開かれるのは10月17日。京産大の申請を検討する前に、加計の計画にゴーサインが出ていたということだ。
次いで10月4日、議長である安倍首相を交えて開催された特区諮問会議で八田氏は、ワーキンググループを代表する形で次の様に発言していた。
■唐突に進んだ獣医学部新設の議論
じつはこの日の会議、加計の獣医学部新設問題は正式な議題にあがっていない。議論されたのは中山間農業改革特区 特区民泊などについて。獣医学部新設うんぬんについては、今治市について言及した委員の言葉をとらえて、八田氏が一方的に持ち出した話だった。その証拠に、この日の安倍首相のまとめでは、獣医学部新設について一切触れていない。下が当日の安倍発言だが、ここで首相は、「重点課題」について「農業の外国人材の受入れ」、「地域主体の旅行企画」、「小規模保育所の対象年齢の拡大」だと明言している。
記録された諮問会議の議論は、まさに表面だけのもの。10月4日の諮問会議で獣医学部新設について言及しなかった安倍首相のまとめ発言が、11月9日の諮問会議では、何故か“獣医学部新設を進めよ”という具体的な指示に変わっていた。仕組んだのは、首相に近い山本幸三特区担当相である(下の議事録参照)。
驚くべきことに、前回会議で首相が述べた「重点課題」を「先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置、農家民宿等の宿泊事業者による旅行商品の企画・提供の解禁」にすり替えている。前回会議で首相が「重点課題」としたのは「農業の外国人材の受入れ」、「地域主体の旅行企画」、「小規模保育所の対象年齢の拡大」。議題にもあがっていなかった獣医学部新設が、いつの間にか「重点課題」となり、関係各省と合意が得られたとする「本諮問会議の案」(議事録中の「資料3」)なるものまで用意されていた。つまり、肝心の議論が進められたのは水面下。裏で何もかも用意し、10月4日に開かれた会議の議論内容をねじ曲げ、あくまでも諮問会議で獣医学部新設を決めた形にしていた。核心に直結するのが、このインチキ諮問会議で配布された「資料3」の文書である。
「資料3」は、国家戦略特区において新たに規制改革を図るべき事項の案。この案は修正されることなく諮問会議の決定事項となり、獣医学部の新設が決まっていた。以下、当日の議事録。
一連の議論経過を見る限り、安倍首相もグルだったことは明らか。“加計の獣医学部新設”を決定付けたのが、「文書3」の文言であることも分かる。そして、ここに至る裏協議の過程をつまびらかにしたのが「文科省文書」なのである。
(つづく)