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三反園鹿児島県知事の原発停止要請に一言

2016年9月12日 10:30

鹿児島県庁・原子力発電所川内-thumb-260x164-14789.jpg 鹿児島県の三反園訓知事が、二度にわたって九州電力に申し入れた川内原子力発電所(薩摩川内市)の即時停止。九電の拒否は予想通りで、原発立地県の民意をもってしても、いったん動き出した原発は止まらないという原子力行政の歪みが証明された形となった。そうした意味で、立地自治体のトップが「原発を止めろ」と明言したことの意義は大きい。
 ただ、九電の即時停止拒否を「遺憾」としながら、同社の安全対策に一定の評価を与えた三反園知事の姿勢には、「本気で原発を止めるつもりがあるのか」(鹿児島市在住、40代男性公務員)といった懐疑的な見方も出ている。
 たしかに、川内原発をめぐる知事の一連の動きには疑問が残る。(写真は鹿児島県庁と川内原発)

スッキリしない一連の動き
 知事が九電に求めたのは、川内原発の即時停止。熊本地震で拡がった県民の不安を受けてのことだ。その上で、原発施設の点検・検証、活断層調査、避難計画への支援強化などを行うよう要請していた。
 これに対し九電は、「特別点検」の実施、地震観測点の増設、避難用福祉車両の追加配備などに応じただけで、即時停止は断固として拒否する姿勢。二度の停止要請を拒否された知事は、再度の停止要請を行わない意向で、焦点は定期点検後の知事の動向に移りつつある。

 ここまでの過程で疑問だったのは、知事の九電への要請内容。原発の即時停止だけを要請すればよかったのに、安全対策への支援などを盛り込んだため、九電の回答に対し「一定の評価」を与えざるを得なくなった。「止めろ」と言いつつ、逃げ道を用意した格好。ある県関係者の「事前に、落としどころをすり合わせしていたのではないか」という感想を、頭から否定することができないのは確かだ。スッキリしない。

 公約を守った知事の姿勢と、課題を浮き彫りにした功績は認める。原発立地自治体の知事が「原発を止めろ」と言ったことは、原子力ムラにとっては衝撃。脱原発派にとっては、大きな一歩である。首長に原発を動かす時の「合意」の最終権限はあっても、「停止」を命じる権限がないこともハッキリした。原子力ムラやそこに同調するメディアは、知事に原発を止める法的権限がないと言うが、立地自治体の首長だけに「合意」の権限を与えるという法的な根拠もない。いずれも原子力村が勝手に作ったルールに過ぎない。

 原発の即時停止を公約にした三反園氏が知事選で圧勝したことは、鹿児島県民の「民意」が示されたということ。原発推進派が多数を占めてきた薩摩川内市で、三反園氏の得票が前職の伊藤祐一郎氏を上回ったことは、象徴的な出来事だった。県民の負託を受けた三反園知事の要請を蹴ったことは、九電が民意を無視する会社であることを表明したに等しい。

 九電が知事の要請を拒否するにあたって根拠としたのは、新規制基準に基づき川内原発の安全審査を行った原子力規制委員会の“お墨付き”。原発に関する全ての権限を規制委が握っているからで、県民の命を、知事ではなく規制委が握っている形だ。三反園知事の動きが、こうした原子力行政の歪みを明らかにしたのは確か。その勇気には、敬意を表したい。それでも筆者は、知事の一連の動きと、それをめぐる報道の在り方には不同意である。

原発の議論、相変わらず30キロ圏内限定 
 不同意とする理由は一つ。川内原発の即時停止要請をめぐっては、知事も大手メディアも相変わらず「30キロ圏内」に特化した議論を続けているからだ。原発事故の避難計画は30キロ圏内に限定したもので、原発から35キロ、40キロ、50キロという距離にある地域の住民の安全は担保されていない。大多数の県民は避難計画の対象外。30キロ圏以外の住民を原発棄民にする議論の在り方は、間違いだと断言しておきたい。例えば、県都である鹿児島市の場合を考えれば分かる。

 同市の郡山地区は川内原発から30キロ圏内。避難計画は同地区だけを対象としており、大多数の鹿児島市民が、「原発棄民」にされている。下は、同市の避難計画に示された30キロ圏を示す図。対象は30キロを示す同心円の内側、画面で分かる通り左上のごくわずかな面積に過ぎない。

鹿児島市避難計画-thumb-400x343-16843.png

 鹿児島市の面積は約547㎢。原発30キロ圏内となる郡山地区は、その3%にも満たない面積だ。市の避難計画対象地域内は487世帯、879人(H27年4月1日現在。鹿児島市調べ)なのだという。一方、市全体の人口は約60万7,000人(H26年3月末現在)。鹿児島市の避難計画は、人口全体の0.1%の住民しか対象にしておらず、60万人以上の市民は、見捨てられた状況となっているのである。ちなみに、鹿児島市の市街地は、川内原発から40~50キロの圏内にすっぱり入る形。桜島を含めた市域のすべてだと、60キロ圏内に含まれている。

 福島第一の事故以降、「30キロ」という区切り自体がナンセンスであることはが実証済み。にもかかわらず、30キロ圏以外の市民は“勝手に避難しろ”というのが鹿児島県と市の姿勢だ。三反園知事が言う「不十分な避難計画」とは、30キロ圏内に限定して策定された現在の計画のこと。ゆえに、避難用の道路を拡げるとか、福祉車両を増やすなどという局地的な話で終わってしまっている。30キロ圏内の避難計画にしても、欠陥だらけで話にならないのが現状だ。

 原発の事故で緊急避難の指示が出るのは、緊急時モニタリングの結果、毎時500マイクロシーベルトの放射性物質が測定された場合だ。しかし、鹿児島県が県バス協会と結んだ災害避難に関するバス協定は、運転手が浴びると予想される放射線量が「1ミリシーベルト以下」の場合にのみ効力を発するとする裏の取り決めで、有名無実化されたものだったことが分かっている。500マイクロシーベルト×2時間で1ミリシーベルト。現実には、民間のバスは動かないということだ。鹿児島市の市営バスは協定に参加しておらず、バスの運転手は公務員。市側は「出動させる」と言うが、緊急避難に充てる2台のバスでさえ、動かない可能性がある。現時点で、原発避難に出動可能な乗務員は、管理職の3人しかいないからだ。いつ起きるか分からない原発の事故に、対応できるわけがない。
 
 30キロ圏内の避難計画は不備、それ以外の地域には避難計画そのものがない――三反園知事は、そのことの意味を理解しているのだろうか?知事が本気で県民の安全・安心を考えているのなら、限定的な避難計画の在り方を再考し、県土全域の計画を策定すべきだ。「全体の避難計画ができるまで、川内原発を止めてもらいたい」。これなら筋が通る。三反園知事の、今後の動きに注目したい。



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