天神地区の再開発計画「天神ビッグバンプロジェクト」を進める福岡市(高島宗一郎市長)が、将来起こりうる地震の被害予測を行っていないことが明らかとなった。
「天神ビッグバン」は同地区にあるビル30棟の建替えを誘導し、新たな空間と雇用を創出するという大型事業。地域人口が大きく膨らむことが見込まれているが、市は地震発生確率が高いとされる「警固断層」の揺れに伴う被害予測を作成しないまま、開発によってもたらされる果実だけを強調していた。
街の安全対策は後回し――派手なパフォーマンスばかりに明け暮れる高島市政の実相が浮き彫りになった格好だ。(写真は福岡市役所)
爆発的に増える天神地区の人口
福岡市が進める「天神ビッグバン」は、2024年までの10年間で同地区にあるビル30棟の建替えを誘導し、新たな空間と雇用を創出するという壮大な計画だ。市のホームページにある天神ビッグバンの説明によれば、建替えによって延床面積が444,000㎡から757,000㎡へと約1.7倍に、雇用者数は現在の39,900人から97,100人へと約2.4倍になり、建設投資効果2,900億円、経済波及効果8,500億円(年)が生まれるのだという(下参照)。
天神に沿って走る「警固断層」
計画発表以来、新聞・テレビは“夢の未来”であるかのような持ち上げ方。しかし、天神地区には九州でもっとも地震発生確率が高いといわれる警固断層が隣接しており、地震被害の拡大を危ぶむ声も上がっている。天神ビッグバンの計画対象地域は「西鉄天神駅」のすぐ先にある天神交差点から半径500メートルの範囲となる約80ヘクタール。下の図を見ても分かる通り、天神ビッグバンの対象地域と警固断層は、隣り合わせの関係だ。
無責任市政の証明
天神は、地震リスクの高い地域。そこに現在の何倍もの人を押し込もうという以上、行政が地震時の被害予測を行うのは当然の義務だ。リスクの程度が分からなければ、街づくり自体が不完全なものとなる。一体、どの程度の被害を予想しているのか――?福岡市に情報公開請求し作業の実情を確認した。それに対する市側の回答が下の文書である。
結果は「非開示」。福岡市は、天神ビッグバン実現後の地震被害について予測を行っていない。所管の防災・危機管理課によると、昼間・夜間を問わず、市として天神地区におけるビッグバン実現後の滞在人口数を算出しておらず、地震発生時の被害状況がどうなるかの予測ができていないという。
前述した通り、市が公表している人的数字の変化は≪現在の39,900人から97,100人へと約2.4倍になる≫という雇用者数の予測だけ。雇用を生む企業や商業施設が増えれば、ビジネス、観光、買い物に集まる人の数が爆発的に増えるはずだが、驚いたことにその想定自体ができていない。
現在、福岡市が保有しているのは都市再生特別措置法に基づいて設置された福岡都心地域都市再生緊急整備協議会(国、福岡県、福岡市、民間企業などで構成)が今年3月に公表した「天神・博多駅周辺地区都市再生安全確保計画」(以下、「安全確保計画」)の地震被害予測だけ。これは現状での予測であり、天神ビッグバン実現後の地震被害については一切言及されていない。
上掲の文書は、安全確保計画で示された地震発生に伴う帰宅困難者等の推計結果。天神地区における滞留者や帰宅困難者の数は、あくまでも現時点での災害発生を想定したものだ。天神地区において、身を寄せる場所がなく、帰ろうにも帰れないという「寄る辺(べ)のない帰宅困難者」の数を、平日12時で約2万人と見ていることが分かる。
天神ビッグバンが実現すれば、この何倍もの被害となることは必至。決して広いとは言えない同地区が大混乱に陥ることは想像に難くない。ちなみに、安全確保計画の冒頭「計画策定の背景と目的」には、次の様に記されている。
平成17年3月に発生した福岡県西方沖地震によって安全確認のために鉄道などが数時間にわたり停止し、買物客などの行き場を失った来訪者が西鉄福岡駅に隣接する警固公園などに集中し、混乱が生じました。 (中略) 発災時の来訪者への対応を定める本計画の策定は、「災害に強いまちづくり」を進める福岡市にとって重要なものであるとともに、地域の付加価値の向上及び都市の国際競争力の強化に資するものとなります。
天神ビッグバンはすでに動き出しており、関係企業の再開発計画が次々に発表されている。歓迎一色の経済界や大手メディアだが、地震の被害予測がないということは、一番重要な安全確保策が後回しとなっている証拠。はしゃぐ市長に迎合していては、市民の安全は守れない。