昨年11月の市長選で、25万票を集めて大勝し、2期目を迎えた高島宗一郎福岡市長(写真)の足もとがぐらついている。
きょうから福岡市議会が始まるが、与党会派である自民党市議団とは、衆院選における市長の対応をめぐって溝ができたまま。固い絆で結ばれていたはずの側近との間にも、すきま風が吹いているのだという。
盤石とは言い難い危うい状況。市役所周辺からは、またしても「国政転身」が囁かれる始末だ。戦略特区にご執心の市長だが、どうやら「裸の王様」(市職員の高島評)になりつつある。
冷え切った自民市議団との関係
市長選直後に行われた昨年12月の総選挙。市長は、福岡1区から立候補した井上貴博氏(自民)の選挙運動に付きっきりとなり、自民党市議団を怒らせる結果となった。同区では昨年、前々回の総選挙で選挙区から出馬した井上氏と、比例に回った新開裕司氏が、自民公認を巡って対立。党本部での調整もつかず、両人とも無所属で立候補するという異例の事態になった。井上氏を推す麻生太郎副総理、新開氏を抱える古賀誠元幹事長の代理戦争でもあったが、市長は市議団の制止を振り切り、井上氏だけを支援したのである。遊説にまで同行する熱の入れようだったが、顔をつぶされた形の市議団は怒り心頭。抗議文を突き付けたものの、市長からはなしのつぶてなのだという。両者の関係は、「修復不能」(市議会関係者)とまで言われている。軽んじられた自民党市議団が、これまで通り高島市長の暴政を追認するようなら、存在感ははますます薄くなる。新年度予算の審議が行われる2月議会を市長がどう乗り切るか――今後の市政運営を占う上で、重要な議会となりそうだ。
注目される人事
その議会との関係で注目されるのは市役所の人事。とくに議会承認が必要となる副市長の人事は見ものである。現在、福岡市の副市長は3人体制。 貞刈厚仁、中園政直、大野敏久の3氏だ。このうち県警OBである大野氏の退任は確実といわれており、後任人事が焦点となる。再び県警OBを招くのかどうかだが、県警本部は及び腰。「大野氏の副市長就任は県警が認めた人事ではなかった。福岡市には(県警からの)正式な出向者がいるはずだ。次を出せと言われても難しい」(県警OBの話)というのが本音なのだという。
残る二人の副市長、順当にいけば留任だが、女性副市長を望む声もあり、流動的と言ったたほうが良さそうな状況だ。いずれにせよ議会無視が当たり前となった市長だけに、突飛な人事で一悶着起こす可能性もある。人事が「否決」ということにでもなれば、緊張感も出てくるのだが……。
外郭団体トップの人事も見落とせない。幹部OBの処遇をめぐって、市長が思い切ったことをやる可能性はある。“気に入らない人物は追放、茶坊主は能力にかかわらず優遇”というのが高島流。市長選での高得票で傲慢さが増したと言われているだけに、顰蹙を買うような人事を行うことも予想される。ここでもまた、議会との関係がギクシャクしそうだ。
側近との間に距離
「裸の王様」――高島氏を評して、そう言い切る市の関係者は少なくない。保身と出世欲だけの側近職員に囲まれてはいるが、市長が心を許しているのは昨年3月に市顧問を退任した友人の会社社長だけだという。市の人事まで口を出し、市長選で事実上の統括責任者だった私設秘書もいるが、最近になって市長との間に距離ができ始めたらしく、「出身の北九州に返されるのでは」という話も出始めている。市役所内部での私設秘書氏の評判は最悪。市内の繁華街で派手に遊び回る姿も確認されており「カネ絡み」を疑う声も――。こちらの人事は、市長の後ろ盾である麻生副総理や中村明彦県議(小倉北区選出)の判断にかかっている。
絶えぬ「国政転身」の噂
そうしたなか、もともと国政進出への意欲が強かった高島氏に、またしても「転身」の噂が流れ始めている。狙いは来年。予定されているのは参院選だが、出馬するのは福岡2区なのだという。憲法改正に向けて、衆参で3分の2の議席を目指す安倍首相が、ダブル選挙に打って出るから、という仰天情報だ。安倍首相ならやりそうなことだけに、まんざらホラ話とも思えない。もともと市長は国政狙い。橋下維新の絶頂期には、東国原英夫元宮崎県知事と福岡市内で何度も密会。「あなたは1区、ぼくは2区」とばかり、出馬の可能性を探っていたほど。機会さえあれば「国政に挑戦します」と言い出しかねない。市議会との関係が悪化するようなら、案外瓢箪から駒という話になるかもしれない。無責任との批判も出るだろうが、市職員の多くはもろ手を挙げて「賛成」と言うはずだ。
ある市職員はこう話す――「国政に行くのなら、『明日にでもどうぞ』と言ってやりたい。新聞やテレビが何も報じないのをいいことに、市長はやりたい放題やってきた。職員の多くは『いい加減にしろ』と思っているはずだ。組織も議会も無視、目立つことだけは自分がしゃしゃり出るが、やるべき仕事は職員に丸投げ。福岡市政史上最低のトップが、過去最高の得票をしたというのだから滑稽としか言いようがない。とにかく、一日も早く消えてもらいたい」
こうした批判があることを、市長は知らないということだろう。だから「裸の王様」なのである。