700万円という異例の高額予算を組んだ米国出張を取り止めた高島宗一郎福岡市長。役所の出張では考えられない民間企業への業務委託まで行い、訪問先のサンフランシスコ市長をはじめ多くの関係者とアポイントを取っていたが、出発の1週間前にキャンセル。福岡市民には約190万円もの損害を与える形になっている。
旅行命令書に記された出張中止の理由は、「特区関連法の情勢急変」。しかし、市への情報公開請求によって入手した関連文書に記された出張の趣旨や目的は、特区関連法の成立を前提とした内容ではなかった。
「親しい代議士の選挙応援のため」――市関係者が漏らしていた出張中止の理由が、現実味を帯び始めた。
趣旨、目的は特区関連法と無縁
下は、米国出張を起案するにあたって、市内部でまとめられた「提案書」とでもいうべき文書だ。冒頭に「趣旨」とある。特区指定から8カ月で、次のステージに向かう重要な時期だと位置づけ、「福岡型エコシステム」の具体化に向けシリコンバレーの経験に学び、それを福岡に取り組むための情報収集を行って平成27年度予算に反映させるとしている。
福岡市の公表資料などによれば、「エコシステム」とはつまり創業支援の重層的な仕組み。高島市長が好んで使う言葉だ。自然界にある「生態系」のように、異なる企業同士が相互に協力・補完し、収益を上げる構造とでも言うべきもの。その福岡モデルを具体化するため、市長がお手本と仰ぐシアトルやシリコンバレーをを訪問し、得た情報を27年度予算に反映させるということのようだ。出張の趣旨と国家戦略特区が結びつくのは理解できるが、「特区関連法」をめぐる国会の動きとは結びつかない。特区関連法とは、特区構想を進めるにあたって弊害となる規制の特例措置などを規定するため、改正もしくは整備される関係法のこと。成立しようがしまいが、高島市政が目指す都市の姿が変わるわけではない。
次に、同文書に記された「出張の目的」。短くまとめられており、下にあるのがすべて。いずれの内容も、特区関連法の行方とは無縁のものだった。
出張の趣旨も目的も、特区関連法の成立を前提としたものではない。もちろん、衆議院が解散したからといって出張を中止する理由にはならない。そもそも、法案を巡る動きに左右されるような出張を、行政機関が立案するはずがないのである。市側が言う「特区関連法の情勢急変」は、米国出張中止の本当の理由を糊塗するための詭弁でしかない。
中止理由は「諸般の事情」
内部文書では、出張中止の理由を「特区関連法案の情勢急変」とした福岡市だったが、すでに調整を終えていた訪問先には、嘘はつけなかったらしい。中止にともない訪問予定先に出されたお詫びの文書は、次のような内容のものだった。
上掲の文書はひな型。サンフランシスコ市長や在サンフランシスコ日本国総領事など計11人に、ほぼ同内容の親書を送っていた。“諸般の事情により、米国訪問を延期”――そう書くしかなかったろう。これまで報じてきた通り、市の関係者が漏らした出張中止の理由は「福岡1区の井上貴博代議士の選挙応援をするため」。実際、市長は衆院選公示日の12月2日、市役所の業務時間中であるにもかかわらず井上氏の出陣式に参加し、以後も井上氏の遊説に同行するなど、選挙運動にのめり込んでいた。
(下の写真は、井上議員の選挙運動を行う高島市長。井上議員のFacebookより)
思いつきで米国行きを決め、市長選を挟むという非常識な日程。過大な予算と民間企業への調整丸投げ――。そのあげく、親しい代議士の選挙応援のため出張をキャンセルし、市民に尻拭いさせるというのでは、あまりに身勝手。辞任に値する暴挙であることは、疑う余地がない。