福岡市の高島宗一郎市長が、親しい代議士の選挙応援のために取り止めたとされる国家戦略特区絡みの米国出張。約1週間の予定で、IT関連企業が集まるワシントン州シアトル市とシリコンバレーがあるカリフォルニア州サンフランシスコ市を視察、現地の市長や経済人との意見交換に臨む予定だった。
起案されたのは福岡市長選を間近に控えた昨年の10月。出発は選挙後の11月末という有権者をバカにした計画だったが、よほど急いでいたのか、無理な組み立てを行っていた。本来、市の職員がやるべき業務を、民間に丸投げしていたのである。その実態は……。
米国出張の企画・運営を丸投げ
米国出張の計画段階における当初予算は約700万円。シアトル好きの市長が言い出しただけあって、異例の高額予算だ。このうち、市長及び職員の旅費合計は350万円あまり。残りは何故か「業務委託」にかかる予算だった。
福岡市は、この米国出張の現地での企画・運営を、日本人が代表を務める二つの現地法人に丸投げしていたのである。下は、業務委託契約を結ぶにあたっての仕様書。左はサンフランシスコにおける「創業促進支援業務」の、右はシアトルにおける「対日投資推進業務」の内容である。両市においての訪問先、意見交換の相手、会合のセッティング、通訳・専用車の手配まで、一切合切を任せるという内容だ。契約金額はそれぞれ195万円と157万8,000円。両社のノウハウに頼るとはいえ、随分な値段である。結局、出張は市長の身勝手でキャンセルとなったが、すでに両社が履行した業務については市側が支払わざるを得ない。それぞれの業務委託で履行された内容が矢印の下。この程度の業務に、サンフランシスコ分で757,000円、シアトル分で549,000円が支払われていた。
仕様書では明確になっていないが、二つの現地法人が履行した業務を見ると、サンフランシスコ市長との会談のセットまで民間に委ねていたことがわかる。通常なら行政機関同士でやり取りが行われるべきで、民間にやらせる仕事ではあるまい。これまでの市の手法は、現地に明るい機関や人物に照会をかけ、訪問先や会談相手を選定。その後、市の職員が具体的な段取りを決めていくというパターンだった。車や通訳の手配にしても、旅行代理店を通すのが一般的。なにもかも業務委託というのは極めて珍しく、市の幹部OBも「記憶にない」と言う。異例づくめの出張計画だったことは明らかである。
福岡市の国際交流に詳しいある市関係者は、次のように話す。
「重要な出張なら、時間をかけて準備を行うのが普通。もちろん、行政トップとの会談や会合のセッティングなどは、市の職員が担当する。出張先が慣れない土地だからといって、出張期間中の企画・運営の一切を民間企業に任せることはない。でなければ、責任の所在が明確ではなくなる。2件もの業務委託に頼った原因で、考えられるのはひとつ。今回の米国出張が、市長の思い付きからはじまり、さらに、市長の1期目の任期がわずかしか残っていなかったため、急ぐ必要があったということだ。本来市の職員がやる段取りの一切合切を、現地に詳しい民間企業に丸投げするしかなかったのだろう」
いったん中止された米国出張だが、市長は再度計画することを指示しているのだという。その時は、当然今回と同じような業務委託契約を結ぶことが予想されており、無駄遣いされる税金の額ははさらに膨らむことになる。この業務委託金額が妥当なのか、改めて検証が必要だろう。市の職員が走り回れば、十分の一程度の経費で賄えるとの指摘もあるが……。