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改ざんの証明
― 福岡市 タクシーチケット私的流用めぐり公文書改ざん(中) ―

2014年9月 4日 09:05

タクシー乗車伝票 高島宗一郎市長のタクシーチケット私的流用をめぐり、東京出張時の「出張命令書」が改ざんされた疑いが強まった。
 市は、今年6月に情報公開請求でHUNTERに開示した市長の「旅行命令書」を加筆・修正し、日程前日の東京滞在を、私用から公用へと変更していたが、HUNTERの取材によって、文書改ざんを証明する事実が明らかとなっている。

「精算日」に注目
 下は、今年6月にHUNTERが福岡市への情報公開請求によって入手した高島市長の旅行命令書。「成長戦略協議」に参加するために組まれた日程は、今年2月25日から26日までとなっている。25日の朝は『私用で東京滞在中』となっており、前日24日には上京していた形だ。このため、往きの航空券代は支給されていない。注目すべきはこの出張にかかった旅費の精算日で、「2月28日」となっている(円内に拡大表示)。市長は、出張から帰った翌日に、命令書に記載された航空賃42,870円、日当(食卓料)6,600円、宿泊料33,000円の合計「82,470円」を受け取っているのだ。

旅行命令(依頼)書

 そして次が加筆・修正された旅行命令書。手書きで『東京都千代田区』や『2/24 』を記入し、公用のため『前泊』した形にしている。備考欄は「公用前泊」に見合うように抹消や加筆がしてあり、旅費も「追給」で62,670円支払われることになっている。そして、精算日は「7月10日」(円内に拡大表示)。最初の精算から4カ月以上経って、再精算したことになる。しかも、年度をまたいでの行為だ。

加筆・修正された旅行命令(依頼)書

 もう一度、旅行命令書を書き換えたことについて、市側の主張を再掲しておきたい。

【市東京事務所説明】
 ・HUNTERの記者に対する情報開示が済んだあと、共産党から市長の出張に関する資料請求があり、文書を精査するなかで、「これ(問題の旅行命令書に記された東京出張)は、公用での前泊だった」と気付き書き換えたと、市企画調整部が話している。

【市総務企画局企画調整部企画課】
 ・HUNTERの記者に対する情報開示が済んだあと、いろいろなところから市長の出張に関する情報公開請求があり、精査するなかで間違いが分かり、書き換えた。

 間違いに気付いたきっかけは違うものの、市長の出張に関する文書を請求されたことで、書き変えに迫られたという点では一致している。その結果、文書を書き換えたということだが、24日の東京行きを「公用」としたため、支給されていなかった往路分の航空運賃及び宿泊費など「62,670円」を、追給という形で市長に払わなければならなくなる。『再精算』とはそういうことだ。

 ここで再精算について、いくつかの疑問が生じる。まず、2月28日の精算の時、旅行命令書が間違いであるなら、高島市長自身が気付いていたはず。公務のための前泊だったと分かっていれば、精算時に命令書の間違いを見落とすはずがない。さらに、受け取る金額が40,000円以上も不足したまま、精算の判を捺すとも思えない。

領収書 次に、精算時には「領収書」が必要となるが、情報公開請求で出てきたのは航空券を手配した旅行業者が発行した2月24日付の1枚だけ(右の写真)。領収金額は片道分の42,870円だ。24日の上京が「公用」なら、同時に往復分の航空運賃を払っていたはずで、より高額な領収書がなければならない。片道分の支払いを別にしたとするなら、もう1枚別の領収書があったはずだ。それがないということは、最初の精算が行われた2月28日の時点で、明らかに片道分だけを「公用」として認めていたことの証明なのである。

 そもそも、7月になって、「あれは間違いだった」などという話が、役所で通用するとは思えない。役所の会計年度は、4月1日から翌年の3月31日までだが、地方自治法は、その235条の5で≪普通地方公共団体の出納は、翌年度の5月31日をもつて閉鎖する≫と定めており、4月1日から5月31日までの出納閉鎖期間内に、前年度の未収金や未払い金についての出納上の整理を行わなければならない。2月にいったん精算が終わった案件を、年度が変わった7月に「再精算」するなど、通常はあり得ないことなのだ。そのせいか、7月10日に再精算しておきながら、今月3日の時点でも追給されるはずの往路の旅費62,670円は支出されていない(市側に確認)。

崩れた市側の主張
 じつは、再精算がなされた「7月10日」――すなわち、旅行命令書の書き換えが行われた日に、重要な意味があった。HUNTERの記者が説明を聞くため市総務企画局企画調整部企画課を訪れた2日。、同課の職員と次のようなやり取りを行っていた。

 記者 命令書が換えられたのはいつですか?
 市側 7月10日です。

 記者 10日に換えられた……。すると、このあと出た公文書は、全部換わったものということか?
 市側 そうです。これ(書き換えられた命令書)になってます。

 記者 7月10日以降の開示決定分は、換わっているわけですね。
 市側 そうです、そうです。

 記者 間違いないですか?
 市側 はい。
 記者 ほう。

 記者 7月10日以降に開示決定が出た情報公開請求分については、これ(書き換えられた命令書)が出てるんですね?換わってるんですね?
 市側 これ(書き換えられた命令書)を出させていただきました。

 記者 間違いないですね。
 市側 はい。

 そこで記者が取り出したのが、1枚の「公文書一部公開決定通知書」と、これに伴って開示された旅行命令書の束だった。決定通知を受けたのは、株式会社データ・マックス。HUNTERの記者の古巣であり、しばしば共同取材を行うことのある福岡のニュースメディアだ。同社が市に開示を求めたのは「福岡市長の平成25年度における出張に関するすべて」。HUNTERで市長の出張問題を取り上げる予定だったため、これを知っていたデータ・マックスの記者が7月4日に開示請求していた。HUNTERは、6月に入手した書類の精査を行う過程で、市側の開示漏れがないかを確かめるため、同社に断わり開示された文書を預かっていた。そして、下がデータマックスに出された決定通知。日付は「7月15日」となっている(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

公文書一部公開決定通知書

 前述した通り、市側は記者とのやり取りの中で、「7月10日」以降に開示した旅行命令書は、書き換え=再精算されたものだと明言している。HUNTERの記者は、この点についてしつこいほど念を押している。当然のことながら、データマックスが入手した今年2月の旅行命令書は、書き換えられたもの――のはずだった。しかし、この情報公開でデータマックスに渡された問題の旅行命令書は、HUNTERが6月に入手していた“書き換え前”のものだったのである。このあと、市側が立場に窮したのは言うまでもない。「ミスです」。そう言うのが精いっぱい。上手の手から水が漏れた瞬間だった。

 市側は、翌日になって「データ・マックスが開示請求したのは7月4日。制度上、請求時点での公文書が開示対象になるため、問題はない」(企画課)と言い出した。だが、この論法は通用しない。たしかにデータ・マックスが情報公開請求を提出した7月4日時点では、問題の旅行命令書は書き換えられていない。しかし、10日には原本に加筆・修正し、新たに印字した部分を貼り付けて新たな命令書に仕立てている。情報公開は「原本」の提示が原則であり、写しの交付を求めた請求者が確認を求めれば「原本」を閲覧させる義務がある。書き換えの事実を、放置することはできないのだ。当然、15日に開示決定した市は、請求者であるデータ・マックスに事実関係を知らせねばならない。最初の旅行命令書が間違いだったというなら、これをそのまま公開することなど許されまい。そうでなければ、≪日本国憲法の保障する住民自治の理念にのっとり、市民の知る権利を具体化する≫という福岡市情報公開条例の目的を達成することはできないのだ。市が開示決定をしたのは15日。データ・マックスの記者が関連文書の写しを受け取ったのは、さらにその数日後だという。「データ・マックスが開示請求したのは7月4日。制度上、請求時点での公文書が開示対象になるため、問題はない」との市側の主張は、成り立たない。

 市長のタクシーチケット私的利用を糊塗するため、巧妙に旅行命令書を改ざんしたまではよかった。HUNTERに文書を開示したのが6月。7月10日の改ざんなら、問題がない。これで共産党市議団の目も逸らすことができる――。そう考えていたのだろうが、データマックスへの開示分を見落としたことで、墓穴を掘った形。書き換えが「7月10日」だったことさえ疑わしい事態となってしまった。

 そして3日、書き換えられた旅行命令書の原本を確認するため、再度総務企画局企画調整部企画課を訪れた記者は、驚くべき事実に直面する。

以下次稿



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