高島宗一郎福岡市長の東京出張時の「旅行命令書」に改ざんの疑いが浮上するなか、市が問題の命令書に再び加筆・修正を加えていたことが判明した。
2度にわたる加筆・修正は、いずれも命令書のコピーをHUNTERに交付した後。今回の書き換えは、複数の関係者にコピーが渡された2日当日の夜から3日にかけて行われたとみられ、真相を隠したい市側の姿勢を露呈させた形だ。
度重なる修正に、根拠となる「領収書」が無かったことも明らかとなり、行政への信頼性を根底から揺るがす状況となった。
驚きの「再々精算」
問題の東京出張に関し、これまで福岡市がHUNTERに開示した旅行命令書は2種類。今年2月28日の精算時のものと、7月10日に書き換えられ、再精算した時のものだ。再精算にともない、命令書の下段に記された精算額は82,470円から145,140円へと膨らみ、62,670円が「追給」されることになっていた。少なくとも、今月2日までの命令書の記述はそうだ(下参照)。
ところが3日、書き換えられた旅行命令書の原本を撮影するため、再度総務企画局企画調整部企画課を訪れたHUNTERの記者に示されたのは、昨日コピーをもらったばかりの命令書ではなかった。下が3日17時時点の旅行命令書原本の写真だ。下段にある精算金額に赤い二重線が引かれ、新たな金額が書き加えられているのが分かる。改ざんの疑いがある文書に、さらなる加工が施された形だ。
信じられないことに、福岡市は、7月10日に書き換えられた旅行命令書のコピーをHUNTERに渡した直後、さらに問題の命令書を書き換えていたのである。精算日は7月10日のまま、再精算額は145,140円から134,040円に、追給額は62,570円から51,570円へと修正されている。疑惑が浮上するなかでの「再々精算」である。原本の撮影を思い立たなかったら、この事実は伏せられたままになった可能性が高い。4日になって、7月10日に書き換えられた命令書の写しを受けとったはずの報道他社や共産党市議団に確認したが、再々修正の連絡はどこにも入っていなかった。隠ぺい、ごまかし、嘘、改ざん……。ここ数年、市長がらみの疑惑が浮上した時のお決まりのパターンだ。
一体前日までの情報開示は何だったのか――。4日、改めて企画課に話を聞いたところ、記載内容を変えたことについては説明するのを失念していたためで、再々精算となったのは実際に「追給」作業に入ったからだという。ふざけているとしか言いようがない。
では、7月10日の再精算の時点で、なぜ正確な追給額が書き込まれなかったのか?領収書はあったのか?この点について問い質したところ、7月10日の再精算の時には、往きの航空券代の領収書が無かったことを認めた。再精算の根拠となる「領収書」がないまま、命令書を書き換えたというのだ。違法性が問われてもおかしくない格好だろう。
さらに、今回の再々精算の根拠について尋ねると、8月20日頃に市長から提出を受けた「領収書」だという。それから今日まで追給分の支出が行われていないのは、追給の手法について、財政局などと協議をしているからだとしている。
市側の主張
ここで、4日までの市側の説明を整理しておきたい。
1、2月28日に精算したが、秘書課の方から往路は「公務」であるから、企画課の方で旅行命令書を変更するように言われた。その後、企画課の職員が秘書課からの指示を失念していた。
2、7月になって出張に関する文書の請求が相次ぐなか、命令書の間違いに気付いた。そのため、7月10日時点で領収書がないまま再精算を行い、命令書を書き換えた。航空券代については、復路の金額を参考に、「推測」で記入した。
3、市長側が持っていたはずの領収書が紛失していたため処理が遅れたが、8月20日頃になって領収書が提出された。領収書は、再発行されたものと聞いている。
4、提出された領収書の金額に沿って、3日に再々精算のための修正を行った。追給の方法については、財政局などと協議中。
HUNTERの反論
いずれも、信じがたい。そう判断する論拠を示しておきたい。
まず、2月28日の精算についてだが、市側の説明通りなら、命令書の記述が間違いであることを承知していたにもかかわらず、高島市長が精算印を捺したことになる。これは、正当な決済とは言えず、違法性を疑うべき話であろう。一般職員が同じことをすれば、会計処理は行われないはずだ。さらに、秘書課の職員が企画課の方で旅行命令書を変更するように指示していたというが、往路分の領収書がないのに変更ができるわけがない。
次に、7月10日の再精算について。再精算に至った経緯は別にするとして、この時の精算においても往路の航空券代領収書は提出されていない。通常の事務手続きなら、根拠が無いのだから精算は不可能だ。しかし、ここでもまた市長の印が捺されている。違法性が疑われる事務処理は、二度目だったということになる。
ちなみに、「福岡市職員等旅費支給条例」は、旅費の請求手続について次のように定めている。
第11条 旅費(概算払に係る旅費を含む。)の支給を受けようとする旅行者及び概算払に係る旅費の支給を受けた旅行者でその精算をしようとするものは、所定の請求書に必要な書類を添えて、これを当該旅費の支出又は支払をする者(以下「会計管理者等」という。)に提出しなければならない。この場合において必要な添付書類の全部又は一部を提出しなかつた者は、その請求に係る旅費額のうち、その書類を提出しなかつたため、その旅費の必要が明らかにされなかつた部分の金額の支給を受けることができない。
条例を持ち出すまでもない。領収書もないのに「旅費を下さい」という無茶な願いが叶えられる会社が存在するだろうか。あるはずがない。根拠のない支出を行っていれば、会社はつぶれてしまう。一般社会において、到底容認されることのない話を、税金で成り立っている福岡市役所が主張しているのである。これはもう、まともな行政機関としての体を成していないことを意味している。組織的にやっているのなら、福岡市役所は犯罪集団だ。
再々精算については、論外。一度目の再精算は、HUNTERへの情報開示が終わった後。そして再々精算は、事実上二度目となった書き換え分命令書の開示の翌日……。意図的に情報隠しを行っているとしか思えない展開だ。一連の文書改ざん(あえて「改ざん」と断定するが)における命令権者は、他ならぬ高島市長。実態はどうあれ、残された公文書の上では、精算の度に市長が書類にハンコを捺しているのである。今回の件は、“職員がやったこと”で済む話ではない。
いったん嘘をつくと、それを糊塗するため第二、第三の嘘が生まれるものだ。市長の、2月の東京出張における旅行命令書の書き換えが、一度ならず二度まで行われたことは、まさに「嘘の連鎖」が顕在化したものだろう。
嘘が必要になった理由は推測がつく。HUNTERが、福岡市東京事務所に市長のハイヤー・タクシー利用状況を示す文書の開示を迫ったのが8月初旬。同時期に、共産党福岡市議団が市長の出張に関する資料請求を行っていたことが分かっている。2月24日のタクシーチケット使用が私的流用にあたることに気付いた市側が、旅行命令書を書き換えることで、市長の不正を隠そうとしたという見立ても成り立つ。本当の命令書書き換えは「8月」。そうした仮説に真実味が出てきた。