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疑惑の出張(下) 福岡市長の東京泊、無理やり設定の可能性

2014年7月30日 09:20

旅行命令(依頼)書 平成25年1月以降の東京出張を利用し、首都圏でのプライベートタイムを満喫していた高島宗一郎福岡市長が、それ以前の出張において、必要のない宿泊を設定し、より多くの夜を私的な時間に充てていた疑いが強まった。
 これまで報じてきたのは、片道分の旅費を自己負担する形で宿泊数を増やすという手法。ところが市長は、就任から間もない平成23年から24年の東京出張で、無駄とみられる「前泊」や「後泊」を設定。市職員らの目の届かないところで、私的な夜を過ごしていたという。こちらは全額公費のプライベート。公人としてあるまじきふるまいの数々に、批判の声が上がりそうだ。

疑惑の出張は就任以来
 これまでHUNTERが問題視してきたのは、平成25年1月から今年6月までの東京出張だ。片道分の旅費を自己負担する形で、正式日程の前後に「私用前泊」や「私用後泊」を加え、首都圏での夜を楽しむという手法。旅行命令による「公用前泊」および「公用後泊」を加えると、1年半で60回前後の夜を、東京で過ごす格好となっていた。

 それでは、市長就任から平成24年12月まではどうだったのか――高島氏が市長に就任した平成22年12月から今年6月1日までの、すべての東京出張について、前泊と後泊の状況を整理してみた。下がその一覧表だ。

前泊と後泊の状況一覧表

 平成24年12月を境に、出張の形が大きく変わっているのが分かる。25年1月からは、報じてきたように「私用前泊」「私用後泊」が頻繁になるのに対し、それ以前は一度もない。何らかの理由で、プライベートと公務を区別しはじめたということになるが、ここで重要になってくるのは、「出張目的」の変化だ。

 平成23年と24年には、「国との協議」「要望活動」「提言活動」といった、曖昧な表現の目的が散見されるのに対し、25年1月以降の出張目的は、具体的な会議の名称が記載されているものばかり。単なる「要望」や「提言」といった内容の不明確な目的はほとんどない。

 考えられるのは、市長就任から2年間あまり、喫緊の課題もないのに用件をつくり上京。形だけ公務出張という形にした可能性。もうひとつあるとすれば、実際には前泊、後泊の必要がないのに、むりやり東京泊にしたケース。じつは、前者・後者、どちらについても否定できる状況にないことが、これまでの調査や取材で分かってきている。

 その一例。平成24年11月7日、都内のホテルで 市主催の「福岡市ビジネスセミナー2012」が開催されたが、所管の福岡市経済観光文化局新産業・立地推進部企業誘致課が公表した日程では、セミナー自体は「14時~17時」、交流会は「17時15分~18時45分」。そして、下がこのセミナーに出席した高島市長の旅行命令書(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。備考欄には次のように記されている。

1月7日は用務終了予定時刻が20:30で福岡への移動手段が無いため後泊するもの

旅行命令 ビジネス2

 交流会の終了時刻は「18時45分」。どんなに長引いても、19時30分には終わるはずだが、命令書では用務終了時刻を「20:30」にしている。証拠として残る命令書の記述だけ、意図的に用務の終了時刻を1時間後に持ってきたとしか考えられない。

 公用のための前泊については、必要性が疑われるケースが多々ある。「公用前泊」の理由のすべてが、“翌日の用務開始に間に合わないため”というものだが、それぞれの会合の正式日程を調べてみると、開始時間が10時、11時というケースが多い。早朝に福岡を発てば間に合う会合でも、東京での夜の時間を確保するため、無理に「前泊」としていた可能性が高い。

必要のない「前泊」の例
 まったく必要のなかった前泊もある。平成24年4月19日から20までの日程で組まれたのは、≪「道州制推進知事・指定都市市長連合」設立総会≫参加のための出張。下がその時の旅行命令書だ。赤いアンダーラインで示したように「前泊」となっている。ただし、備考欄に前泊の理由は記されていない。

命令書 道州制

 一方、「道州制推進知事・指定都市市長連合」が構成メンバーの首長らに出した案内文には、会合日時が明記してあり、次のようになっている。≪平成24年4月20日(金) 12:30~13:30≫(下が実際の案内文書。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

命令書 道州制2

 会合の開始時間は「12:30」。その日の朝に上京すれば、十分間に合うわけで、会合に出席するための出張に、前泊の必要がなかったのは明白だ。これは、無駄な公費支出というより、不正ではないのか?

 この疑問に答えるように、東京出張に関するHUNTERの報道が始まってから、ある福岡市の元幹部が、匿名を条件に次のように証言している。
「(市長は)就任以来、福岡でも東京でも、好き勝手なふるまいを続けてきた。必要のない前泊や後泊を作り出してきたのは事実。出張費用を減らそうという意識は皆無だったということだ。何のためかと聞かれれば、飲食を中心とした「遊び」に精を出していたからとしか思えない。ひどい話だが、用務が済んだら『所在不明』になるのが普通。どこで何をしているのか、分からないというのが実情だった。いまもそれが続いていると聞いている。電話連絡がつくと言われればそれまでだが、こんな無責任な市長は、高島さんが初めて。市民の目が届かないのをいいことに好き勝手ばかりでは、職員への示しがつかない。いい加減、市民を愚弄するようなマネは止めてもらいたい」

 別の幹部OBの話も聞いた。
「昨年、市議会開会中に、フィットネスクラブで汗を流していたことがHUNTERの報道で明るみに出た。しかも平日の業務時間中の愚行だ。この時市長は、『何が悪い!』と開き直ったが、それとまったく同じ感覚なんだろう。『自分がルール』――そう思っているのではないか。一事が万事と言うが、市政運営も独善的。自分の意に沿わぬ職員や、公務員としての筋を通そうとする職員を、片っ端から異動させ、中枢からはずしてきた。批判的な職員には、大野(敏久)副市長をリーダーとするゲシュタポを総動員して監視させ、粛清する。恐怖政治の下には腐敗がはびこるというが、市政トップが出張を利用して遊んでいる様は、まさにその証明だろう。福岡市は死に体だ」

市民オンブズマン福岡・児嶋研二代表幹事の話
 こうした状況について、市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は、次のように話している。
「片道の旅費が自己負担とはいえ、公費出張において、私的な用件を理由に宿泊を追加し、自由時間を過ごすなど言語道断。極めて不適切だ。市長は、公私の区別がついていないのだろう。そもそも市長は市民に選ばれた身。ほかの市職員以上に厳しい倫理観が求められる存在のはずだが、市長にはそうした意識が感じられない。こうなると、本当に必要な出張だったのか、改めて検討する必要がある」

*高島市長の出張の裏で、何が行われていたのか――。長期取材の結果、解明されつつあるその実態を、来月の新シリーズで報じる予定だ。



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