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福岡市の情報統制 報道の独自取材は「BAD NEWS」のお粗末

2014年5月 9日 09:45

 庁舎内で職員が使用するパソコンの閲覧制限を強化するなど、組織内部での情報統制を進める福岡市(高島宗一郎市長)。その一環として、報道機関の取材を受けた場合の報告書提出が推進されてきたが、福岡市への情報公開請求で入手した報告書提出を求める内部通知文書から、市民目線とはかけ離れた役所の実態が浮き彫りとなった。
 取材報告をやかましく言う高島執行部の狙いは、役所側に都合の悪い報道をチェックすること。職員はもとより、市民をも信用しない市長の姿勢が、歪んだ行政を招いている。その内部通知の内容とは……。(写真は福岡市役所)

高島市政で進む取材報告強化
通知 取材報告強化の始まりは、平成23年6月に市長室広報戦略室長から出された右の文書。文書の内容を平たく言えば、市(市長とその周辺と言うべきだが)にとって気に入らない報道が見受けられるから、取材を受ける場合は、広報戦略室に報告しろというもの。同様のお達しは、このあと市長室長名でも出され、局や区、市教委といった部署ごとに周知徹底が図られていた。

 高島宗一郎市長が就任後に創設した広報戦略室は、市長による歪んだ市役所支配を推進するための実動部隊で、市長の友人だった会社社長を「広報戦略アドバイザー」(市顧問)に据えるなどして強権を発揮してきた。

 最初の通知の翌月、広報戦略室が示した報告マニュアルが下。取材報告を事実上義務付けるにあたって、それまでの通知で≪事業実施の推進力となる市民の共感・信頼を得る観点≫だの、≪質が高く組織的な対応が必要≫だのともっともらしい言葉を並べていたが、このマニュアルで、市長周辺の本性が剥き出しになっている。

通知別紙.jpg

 赤いアンダーラインはHUNTER編集部によるものだが、そこにはこう書かれている。 

≪スクープ記事の前日取材は、数字などの事実確認であったり、意外とあっさりしている場合が散見されます≫
怪しいと思われたら遠慮なくご連絡いただきますようお願いいたします

 広報戦略室がこだわっているのは、マニュアルに書かれた取材報告を求める場合の①。未公表案件についての取材を、報告義務を課す上での最重要案件とみなしており、報道側の動きに神経を尖らせているのが判る。ここには、市長周辺がスクープ記事を快く思っていない事情があからさまに出ており、≪怪しい≫という表現は正直な気持ちの表れといえよう。

広報戦略室支配
 感心できないのは、その後。≪ご要望があれば≫と断ってはいるが、≪取材現場の立ち会いや仕切りなどを行います≫と明記しているのだ。「原課」といわれる各部署の所管事項を説明する場合、専門的な知識はもちろん、事業実施までに積み上げてきた経緯を熟知していなければ正しく伝わらない。しかし、そうした現実を無視して、適格性を欠く報道課の職員が取材をコントロールしようというのである。これは、報道の正確さを求めているからではない。いかにうまく言い繕うか、言い換えればどう逃げるかを主眼に置いた考え方だ。市側がリークして書かせる記事以外のスクープ報道は、「悪」とみなしているのだろう。

 広報戦略室がしゃしゃり出る傾向は、市長が市民の声を踏みにじって強行した認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福祉保育協会)の移転説明会で顕著となっていた。昨年7月、マスコミ注視の中、市立中央児童会館で開かれた市主催の保護者説明会は、肝心の保護者が一人も参加せぬまま事実上の流会。ここに、報道課の職員数名が立ち会っていたことが確認されている。関係者の話によれば、この日、保護者不参加によって重苦しい空気が流れる会場の横で、広報戦略室報道課の人間と見られる職員が、携帯電話で「いっそ、職員を呼んで席を埋めておけばよかった」と軽口を飛ばしていたという。福岡市の広報戦略室とは、この程度のレベルなのである。

 ある市職員は次のように話す。
「広報戦略室支配というべき現状がある。取材報告をやかましく言うようになったのは、その一環だ。高島市長は就任後、戦略室を新設したが、これによって何でもかんでも市長周辺に情報が集まるような体制を作り上げた。市民の暮らしに直結するような、いわば市にとって一番大切な情報が欲しいからではない。市長にとって都合の悪いことや職員の動静をチェックするのが狙いだろう。
 市長が、お友達を顧問として迎い入れ、広報戦略アドバイザーなる肩書きを与えて市政に関与させたのも問題。顧問が多くの業者選定で選定委員を務めていたことに、犯罪の臭いを嗅ぎ取った職員は少なくなかったと思う。
 広報戦略室が権力を持ちすぎたことは、市政運営上も悪影響が出ている。戦略室のOKがなければ事が進まないというケースが多くみられ、どう見ても異常事態。専門的な知識もない連中が、格好ばかり気にして事業の姿をゆがめる危険性もある」。

「BAD NEWS」 
 報道の独自取材で市の不行跡が暴かれることは、市民にとってはGOODな出来事。税金の無駄遣いを無くすためにも、大いに奨励したいものだ。一方、追及される市としては、報道の独自取材を何とか止めたい。とくに外聞ばかり気にする高島市長は、市民の前で頭を下げるようなことはしたくない(実際、この市長は「謝罪会見」を嫌っており、たいていは部下に押し付けている)。前述したように、「未公表案件」に関する取材に神経質になっているのは、傷口を少しでも小さくしたいという気持ちの表れなのである。当然、市長周辺は報道機関の独自取材を忌み嫌う。取材報告強化の最大の目的は、まさに市政の暗部を暴く記事を抑え込むことにあるのだが、こうした市長周辺の思惑に早くから迎合したバカな部署があった。

 下は、平成23年2月に市環境局が、取材報告の流れについて解説した文書だ(赤い矢印はHUNTER編集部)。

BADNEWS.jpeg

 市側の情報提供による報道は「GOOD NEWS」、マスコミ独自の行政取材に基づく報道は「BAD NEWS」なのだという。これは、市民の「知る権利」を真っ向から否定する考え方であり、行政機関としては最低のレベルにあることを示している。役所の発表は「善」、報道機関の独自取材によるスクープは「悪」――。役人の発想といえばそれまでだが、これほど市民を愚弄した話はあるまい。報道は、権力を監視するという使命を担っている。いわば市民の目であり耳である。その報道の矛先をかわす事ばかりに腐心する市政が、まともであるはずがない。

 BAD NEWSには≪危機管理上の観点≫から対応すると但し書きがあるが、この場合の≪危機≫とは、明らかに市側の不行跡や税金の無駄遣いなどが暴かれた場合のことを指している。つまり、取材報告強化は、市長や組織を守るという後ろ向きの狙いから発せられたものなのだ。

幼稚な市政
 高島市政を一言で評するなら「幼稚」。見てくればかりを気にする市長の姿勢が福岡市のレべルを下げているのだが、その象徴ともいえるような通知文書もあった。問題の文書を作成したのは市教委。教育機関の元締めが作ったのが、報道発表の際の「資料作成」の留意点をまとめた文書である(下はその一部。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

教委.jpg

 内容より打ち出し方を重視、「全国に先駆けて」「日本一」「福岡市初」になどといった、本質とは関係のないところに神経を使う愚かさだ。この傾向は高島氏が市長になってから顕著で、市教委だけでなく、他の部署の発表ものでも同じような言葉が使われることが多い。

 市民の暮らしは二の次にして、観光やIT関連ばかりに湯水の如く税金を投入してきた高島市政。派手好きで外聞ばかり気にする市政の実態が、一連の通知文書で示されたと見るべきだろう。

 高島くん、報道は権力側の番犬ではないのですよ。



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