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NHK ― 「死に体」の証明

2014年2月 7日 08:50

鹿児島 1011.jpg 埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏が象徴天皇制を否定し、作家の百田尚樹氏は「南京大虐殺はなかった」と持論を展開したあげく、都知事選に出馬している候補者たちを「くず」呼ばわりした。いずれも「NHK経営委員」の所業である。
 一方、この方々がNHK会長に選んだ籾井勝人氏は、従軍慰安婦を事実上容認し、他国をあしざまにしたことに続き、NHKとして同局のラジオ番組に出演している音楽評論家や大学教授に、原発問題に触れないよう要請していたことを認めている。
 それぞれ個人としての主張とはいえ、放送局の不偏不党を義務付けた「放送法」の趣旨に著しく反するのは明らか。NHKは、すでに公共放送としての資格を失っていると言わざるを得ない。「死に体」ということだ。

長谷川三千子経営委員―象徴天皇制を否定
 すでに国会論戦の中で取り上げられた長谷川氏の文章は、新右翼として活動し、朝日新聞社内で自決した野村秋介氏の追悼文集に掲載されたもの。問題の箇所は次のように記されている。

≪野村秋介氏が二十年前、朝日新聞東京本社で自裁をとげたとき、彼は決して朝日新聞のために死んだりしたのではなかつた。彼らほど、人の死を受け取る資格に欠けた人々はゐない。人間が自らの命をもつて神と対話することができるなどと露ほども信じてゐない連中の目の前で、野村秋介は神にその死をささげたのである。「すめらみこと いやさか」と彼が三回唱えたとき、彼がそこに呼び出したのは、日本の神々の遠い子孫であられると同時に、自らも現御神(あきつみかみ)であられる天皇陛下であつた。そしてそのとき、たとへその一瞬のことではあれ、わが国の今上陛下は(「人間宣言」が何と言はうと、日本国憲法が何と言はうと)ふたたび現御神となられたのである≫

 報道機関の社屋内で拳銃自殺した野村氏を賛美するのも自由、天皇を現御神=現人神(あらひとがみ)に見立てるのもまた自由だ。しかし、この国では、天皇は「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」。戦前、戦中を通じ、天皇を「神」に祭り上げたため、引き起こされた悲劇を忘れてはなるまい。長谷川氏は、歴史を否定しただけでなく、国内外に危険思想の持ち主が国営放送の意思決定にかかわっていることを知らしめた。

 長谷川氏については、先月6日の産経新聞に寄せたコラムで、女性の社会進出が出生率を低下させたと主張し、男女共同参画社会基本法を批判していたことも分かっている。同氏が発信した一連の論は、常軌を逸しているとしか思えない。不可解なのは、なぜこのような人物が国立大学の教授でいられるのかという点。国の教育は知らぬ間に歪んでいたようだ。

 思想的に近いといわれる長谷川氏を、NHKの経営委員に就任させたのは安倍首相である。長谷川氏は「日本国憲法は全くめちゃくちゃな憲法」と罵り、『本当は怖ろしい日本国憲法』(共著)といった著作もある。憲法改正論者であり、戦前の日本を美化する言説が目立つ。「不偏不党」とはもっとも縁遠い人なのである。

百田尚樹経営委員―知事選候補を「クズ」呼ばわり 
 「この場で他の候補者のことを悪く言いたくはないですが、名前は言いませんが、日本のクズみたいなやつに投票してほしくないです」―こちらはNHKで長谷川氏とともに経営委員を務めている作家の百田尚樹氏の弁。東京都知事選挙に立候補している田母神俊雄氏の応援演説で発せられた。

 こうも言っている。
「1938年に蔣介石が日本が南京大虐殺をしたとやたら宣伝したが、世界の国は無視した。なぜか。そんなことはなかったからです」「極東軍事裁判で亡霊のごとく南京大虐殺が出て来たのはアメリカ軍が自分たちの罪を相殺するため」。

 演説のなかで百田氏は、何度も「他候補の悪口はあんまり言いたくないですが」と前置きしながら、繰り返し他候補の悪口を並べ立てている。あげくに、完全に開き直って、次のように話していた。
「私は実は去年からNHKの経営委員にもなっているんですが、NHKの経営委員がこんなこと言うてもええんか、と非難を受けたんですが、私はまたそこでツイッターで言いました。『ええんや』と『ほっとけ』と。私は別に何も怖いものないです。もう昔から好きなこと言ってきたんで」。

 「ええんや」「ほっとけ」を認めるわけにはいくまい。NHKは「公共放送」、偏った思想の持ち主が経営に関与することが許されるはずがない。自由に発言したいのなら、経営委員を辞任すべきなのである。

政権は危険思想擁護
 国会で経営委員の主張が追及されたことを受けた菅義偉官房長官は、「経営委員は、自らの思想、信条を表現することは妨げられていない。放送法に違反しない」と擁護したが、本心からそう言ったとすれば、こちらも危険思想の持ち主ということになる。

 受信料で成り立っているNHKの視聴者は、多様な価値観、歴史観を持っている。偏った思想・信条の持ち主ばかりがNHKに集っているとすれば、存在意義が問われる事態となる(もうなっているが)。

 安倍政権は、なぜ極端な思想の持ち主であることが分かっていた長谷川氏や百田氏をNHKの経営委員に抜擢したのか―答えはひとつしかない。首相の狙いが、国民への影響力が大きいNHKをプロパガンダのための装置に仕立て、憲法改正への地ならしを行うことにあるからだ。

籾井発言がもたらしたもの
 安倍晋三首相と同様、いやそれ以上に偏狭なナショナリズムを振りかざすNHKの経営委員たちが会長に選んだ籾井勝人氏が、就任会見で放った暴言は以下の通りだった。
 ― 従軍慰安婦は、「戦争をしているどこの国にもあった」
 ― 「韓国が、日本だけが強制連行したように主張するから話がややこしい。それは日韓基本条約で国際的には解決している。蒸し返されるのは おかしい」
 ― 「日本の立場を国際放送で明確に発信していく、国際放送とはそういうもの。政府が右と言っているのに我々が左と言うわけにはいかない」
 ― 特定秘密保護法については、「通ったので、言ってもしょうがないんじゃないか。必要があればやる。世間が心配しているようなことが政府の目的であれば大変だが、そういうこともないのでは」

 籾井氏は発言を取り消したものの、こうした人物がトップに就いたことで、NHKは平気で言論封殺行為を繰り返すようになった。同局のラジオ番組で「脱原発」を取り上げようとした中北徹・東洋大教授が、これを認められず降板。さらに、音楽評論家のピーター・バラカン氏に対し、東京都知事選が終わるまで原発問題に触れないよう要請していたことまで発覚している。

すでに「死に体」
 NHKがどれだけ理屈を並べても、ラジオ番組の内容を、脱原発に消極的な政権側の意向に沿うよう仕立てたことは事実。言論の自由を守るべき報道機関が、権力に媚びて自主規制したと見るべきだろう。

 さらに問題なのは、会長や経営委員の主張が問題視された場面を国会中継で流しておきながら、NHKがこの事態を「ニュース」としてきちんと報じていないことだ。

 安倍応援団で右寄りの読売、産経はさておき、NHKの経営委員が、象徴天皇制や南京大虐殺を否定する発言を行ったことについては、公共放送である以上、報じる義務があるはずだ。右寄り2紙以外の新聞各紙は比較的大きく紙面を使い、民放は一定の時間を割いてNHk経営委員や会長の発言を報じている。四六時中NHKを見ているわけではないが、昨日までの7時、9時の同局ニュース番組で、相次ぐNHK上層部による不適切発言を問題視する報道はなかった。ネット上の「NHKオンライン」を確認しても同じだ。自局の恥は報じないというのであれば、客観的な姿勢をもった報道機関とは言えまい。報道すべきことを放棄する現状が、すでにNHKが「死に体」であることを証明している。



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