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移転の中央保育園 入園者数偽装に走った福岡市
失政隠しに「夜間保育」の抜け道利用

2014年2月13日 07:45

 高島宗一郎福岡市長が風俗街への移転を強行した認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の入園児募集で、市がルールを無視して定員を埋めようとしている実態が明らかとなった。目的は入園者数の偽装。失政を隠すため、なりふり構わぬ手段に出た格好だ。
 HUNTERの取材によれば、中央保育園への入園事務を取り扱う中央区役所の担当課が、昼間の通常保育を希望する保護者に対し、定員割れ状態の「夜間保育」枠での入園を案内。不安視する保護者には、「大丈夫」と話していた。
 こうしたイレギュラーな案内を受けて同保育園を見学に訪れた保護者が複数おり、保育園側も困惑する状況。子どもや保護者の存在を軽視し、数合わせばかりを先行させる市側の態度に、関係者から強い批判の声が上がっている。

昼間保育希望者に定員割れの夜間保育枠をあっせん
 発端は、中央保育園に新年度からの入園を希望する複数の保護者らが、昼間保育を希望しながら「夜間保育」での入所を申し込んできたこと。同園を見学に訪れた保護者は、案内の保育士らに対し、

入園申し込みを行った中央区役所で、「夜間保育」なら枠があると言われた
延長保育制度を利用すれば、昼間同様の保育が可能との説明を受けた

 などと話したという。夜間枠の空きについては、6名あるいは8名などと具体的な数字を示された保護者がいたことも分かっている。
 こうしたケースが続いたことから、同園側は市に抗議したとしている。

 実際に中央保育園への新規入園を望んだある保護者の話を聞いた。保護者は、中央区役所で「昼間」の通常保育を希望したところ、応対した中央区役所子育て支援課の職員から「夜間保育」の枠があり、そちらでの入園申し込みなら可能だと説明を受けたという。抜け道利用の入園に不安を抱いた保護者に対し、職員は「保育園側は無理だと言うかもしれませんが、大丈夫」と明言していた。

 入園を希望していた保護者らの子どもは、いずれも0~2歳児。しかし、同園の募集では、すでに保育ニーズの高い0~2歳児クラスの定員が埋まっており、50人ほどが入園を断られる状況となっていた。1月中旬の時点で、確認されていた1次募集の数字は次の表の通り。0~2歳児クラスが定員をオーバーする一方、3~5歳児クラスと夜間は定員を割り込む状況となっていた(数字は昼間の255名についてのもの。左から、進級する在園児数、新規の入所希望者数、定員)。

園児表

 この後、1次募集の最終集計では、定員300に対し、0歳児26名、1歳児39名、2歳児44名、3歳児39名、4歳児43名、5歳児39名、夜間13名の計243名となり、「既にもう昼間はお断りをしなきゃいけないぐらいオーバーしているんですね」という高島市長の会見(1月14日)での発言が、実態を表していないことが分かっていた。

 2次募集が開始された今月になっても、3~5歳児のクラスは埋まらず、昼間は255名の定員に対し230名程度しか集っていない。さらに、目玉とされた夜間保育は、先週の段階でも定員45名に対し「15名」の入所希望しかないことを中央区役所が認めている。こうした事態を受けた市側が、ルールを無視して「夜間保育」の枠を埋めようとしたと見られる。

ルール破りのカラクリ 
 福岡市では、昼間の通常保育が午前7時から午後6時まで。延長保育は1~2時間がほとんど(4施設で4時間延長実施)。一方、夜間保育の時間帯は、午前11時から午後10時まで。夜間保育では、午前11時の前か午後10時の後のどちらかに「4時間」の延長保育が実施できることになっている。市側が抜け道の道具に使っているのが、この4時間の延長保育である。

入所案内 カラクリはこうだ。昼の保育を希望する保護者は、当然午前7時から午後6時までの時間帯に子どもを預けたい。しかし、0~2歳児のクラスはすでに定員オーバー。だが、午前11時からの夜間保育でも、朝の時間帯で4時間の延長保育を利用すれば、事実上昼の保育と同様の時間帯に保育を受けることが可能となる。市側は、すでに定員を超えた0~2歳児の保育希望者に、別途料金を払い4時間の延長保育を利用すれば、昼の通常保育と同じサービスが受けられるから「夜間保育」で申し込めと勧めているのである。とんでもない待機児童解消策だ。

 昼の保育を希望していた保護者にとっては朗報かもしれない。しかし、4時間の延長保育はあくまでも夜間保育の希望者に与えられた特別な場合への配慮。恒常的にこの制度を利用する保護者が増えれば、通常保育と夜間保育の区別が無用のものとなってしまう。さらに、現場である保育園側も、保育士の手配など運用面でかなりの無理を強いられることになり、保育環境に歪みが生じることは必定。これが認められれば、保育制度の根幹を揺るがす事態となる。なにより市は、1次募集で入園を断わった保護者に、なんと言い訳するのだろう。

困惑する現場 姑息な区役所
 中央保育園側は、入園希望の複数の保護者から、「昼間の保育希望でも、夜間保育の枠があるから入園可能」と区役所が説明した経緯を聞かされたことを認め、次のように話している。
「無理やり夜間保育の枠を埋めるようなことをされても、現在の状況ではお受けできない。現状では、300名の定員に対応できる保育士さえ集っていない。夜間保育希望者には、その旨を伝えている。昼間の保育希望者を夜間枠で入園させることは、たしかにルール無視だと思う。区役所には、電話で『無理ですよ』と伝えている」 

 これに対し、通常保育の希望者に夜間保育枠で入園するよう勧めた中央区役所側は、先週からのHUNTERの取材に対し、次のように説明している。

  • 夜間保育では、延長保育を利用できるという説明はした。しかし、入園できるとは言っていない。延長保育についての説明したのは、あとで「聞いていなかった」と言われると困るから。
  • 中央保育園から電話があったことは事実だが、「安易に入園できるなどと言わないで下さい」程度の話だった。ルールを破ったという事実はない。
  • 保護者の就業時間を見た上で、夜間の方がいいですよと勧めることはある。

 12日の取材に対しては、「中央保育園から電話などなかった。主任さんが何か苦情を言われただけ」などと言い出す始末で、記者が前回のやり取りを示すと、とたんに黙るといった状況。ひたすら「入園できるとは言っていない」ばかりを繰り返す。姑息としか言いようがない。

 記者は、区役所職員の「入園できる」という文言の存否など一切聞いておらず、昼間保育希望者に、夜間枠で入園しても延長保育を利用すれば大丈夫との説明をしたかどうかの確認を求めているだけだ。複数の保護者が区役所側の同じ抜け道利用法を真に受け、入園申し込みを行っているのは動かしようのない事実。もはや保護者の誤解や勝手な解釈とも言えない。埋まらぬ夜間保育枠に業を煮やした市側が、ルール無視で入園者数の偽装に走ったということだろう。13億円もの公費を投じた事業で定員さえ埋まらぬ現実を、何としても隠したい高島市政の実態がこれだ。

在園児保護者から怒りの声
 中央保育園の移転に反対してきた同園の保護者会関係者は、事実関係を知って次のようにコメントしている。

 ≪言語道断です。ここまで腐っていたのかという感じです。予想した通り、夜間の定員割れが現実のものとなっているのに、それを偽装するため、昼間の保育希望者を夜間枠で受け入れさせようとしているんですね。しかも、そのための方法として、延長保育という裏技を利用しろと市側が勧めている。もちろん、定員割れという事態を防ぎ、体裁を保ちたい高島市長の指示があると見るのが普通でしょう。

 保育園に入れたい保護者の足下を見て、「延長保育料を払えば入れてやるよ」と言っているようなものです。しかし、本音はただ夜間の定員割れを隠すためということですよね。

 「すみません。夜間保育の見込みが外れました。定員割れになりましたので、空いている人数分を昼間に回した定員で再度募集します」。福岡市がそう言えば済むことではないでしょうか。本気で待機児童解消に取り組むのなら、それが一番の解決策です。

 そもそも、補助金は私たちの税金です。夜間保育は、支出される補助金が多いわけですから、こういう詐欺みたいなことをして補助金をだまし取るような手法は、決して許されることではありません。市の暴走に巻き込まれた保育園も、たまったものではありません。

 1次募集で入園を断られ、市に無認可保育園を勧められて、結局、無認可保育園に子どもを預けることになった保護者もいます、おかしなことに、現行制度上、一度入園を希望すると、その子は待機児童ではなくなります。こんな状況で待機児童ゼロを実現したと言えますか?その上、入園児数の偽装・・・。開いた口が塞がらない。マスコミを利用して「市民のための移転」だとアピールしながら、裏ではこのような事をしている。やっていることは、市長の失政を隠すためのごまかしばかりです。中央保育園移転問題には、福岡市の市政の闇のすべてが詰まっていると感じます≫

 9億円をかけた疑惑まみれの用地取得、杜撰な計画、開園時期の遅れ、園児の災害時避難計画破たん、定員割れを隠すための入園者数偽装・・・・。かつて、これほどお粗末な福岡市主導事業があっただろうか。中央保育園移転は、高島市長が、現在の市立中央児童会館と中央保育園がある場所に、「商業施設」を建設すると言い出したことで始まった愚行だ。そこには、主役であるはずの「子ども」に配慮した形跡など露ほどもない。市長の失政は明らかである。



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