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僭越ながら:論

籾井発言の問題点と「安倍さまのNHK」

2014年1月29日 09:15

 こんな人物が会長を務める放送局のために、「受信料」を納めなければならないのだろうか。
 NHKの新会長になった籾井勝人氏が、25日の就任会見で見識のなさを露呈する暴言を連発。国内外から批判を浴びる事態となった。
 従軍慰安婦は「どこの国にもあった」、特定秘密保護法は「通ったので、言ってもしょうがない」・・・。“みなさまのNHK”を標榜する公共放送のトップのものとは思えぬ、低レベルの発言。「会長の職はさておき」との身勝手な姿勢に、記者団から会長就任の記者会見であることを指摘され、即座に発言撤回を言い出すというお粗末さだ。
 官邸の意向が働いた人事だったはいえ、籾井氏を会長に選んだ経営委員会の判断にも疑問符がついた格好。同時に、NHKの政権寄り(と言うより右寄り)姿勢を加速させる懸念が生じたことも事実である。

これが報道機関のトップか!
 問題の記者会見では、報道機関トップの発言としては到底容認できない「暴言」の数々が、次から次へと飛び出した。
 ― 従軍慰安婦は、「戦争をしているどこの国にもあった」
 ― 「なぜオランダにまだ飾り窓があるんですか」
 ― 「韓国が、日本だけが強制連行したように主張するから話がややこしい。それは日韓基本条約で国際的には解決している。蒸し返されるのは おかしい」
 ― 「日本の立場を国際放送で明確に発信していく、国際放送とはそういうもの。政府が 右と言っているのに我々が左と言うわけにはいかない」
 ― 特定秘密保護法については、「通ったので、言ってもしょうがないんじゃないか。必要があればやる。世間が心配しているようなことが政府の目的であれば大変だが、そういうこともないのでは」

 右の代表格である産経か読売のトップならいざ知らず、放送法で「不偏不党」を義務付けられた放送局の会長が発する主張ではあるまい。

 従軍慰安婦の問題については、軍による強制連行が「あった」か「なかった」かも含めて、国内の議論さえまとまっていない。仮に戦争の時代、他国にもあったとしよう。しかし、それが多くの女性に犠牲を強いた国としての責任を免れる理由になるのか?どう見ても、決して許されることのない話であり、籾井氏の言い分は、“こっちも悪いがそちらも悪い”という子どもの論法に過ぎない。他国のことではなく、日本がどう考えているかが問われる問題なのだ。個人的に右に寄るのは勝手だが、立場をわきまえろと言いたくもなる。

 従軍慰安婦についての認識について記者から聞かれると、「フランスはどうですか!」「ドイツはどうなんですか!」と逆切れ。傲岸不遜な態度と相まって、この人の人格まで知らしめる結果となった。

 報道機関の人間としても失格であることは、特定秘密保護法に関する記者団とのやりとりからも明らかだ。籾井氏は、こう発言している。「通ったので、言ってもしょうがないんじゃないか。必要があればやる。世間が心配しているようなことが政府の目的であれば大変だが、そういうこともないのでは」―つまり、国民の多くが懸念する「知る権利」を侵害されることや、知らないうちに犯罪者に仕立て上げられるようなことはないと考えているわけだ。

 言うまでもなく、特定秘密保護法は欠陥だらけの法案だ。山崎拓元自民党副総裁は、HUNTERの新春インタビューに応えて、法案審議の過程を「拙速」と断じた後、次のように語っている。

 『この法案の持つ恐ろしさというものが論じられています。戦前の国家、治安維持法の再現じゃないかという指摘さえあります。法案の一部に疑念が叫ばれて、国民の過半数が懸念を示している状況であり、思い切って修正が必要だと考えています。来年度の予算が成立した後、国会において速やかに修正すべきでしょう。世論の反発は明確であり、それに沿った修正をやるべきです。

 具体的には、政府が秘密を指定するという点はやむを得ないとしても、“政府の範囲”が全省庁になっているので、やはり従来通り、限定すべきだとい思います。外務省、防衛省、警察庁に限定すべきです。どの省庁もが安全保障にかかるという解釈を持ち出せば、秘密の範囲が無限に広がるからです』。

 霞ヶ関官僚が勝手に情報を選別し、都合の悪い事実を「特定秘密」に指定すれば、何十年、場合によっては永久に、国民は真実を知る機会を失う。主権者たる国民が、国の在り方について検証することを拒む法律が、まともなものであるはずがない。「通ったので、言ってもしょうがないんじゃない」では、権力の監視という報道の使命を放棄したに等しい。それさえ理解していない人物が、この国最大の報道機関のトップになった・・・。不幸なのは、この程度の人間が会長になったNHKのために、「受信料」を支払わされる国民だ。この際、受信料で成り立つ国営放送の在り方について、徹底的に議論するべきだろう。

編集された「会見要旨」
 会長の質の低さが、NHKの堕落に拍車をかけることも心配だ。1月25日、NHK広報局が問題の会長就任会見の「要旨」を公表したが、問題とされた部分について、「編集」がなされている。とくに気になる部分はこうだ(以下、太字部分はNHKが公表した「会見要旨」から)。

(特定秘密保護法)
個人的な意見は、差し控えたい。(Q.改めて大型番組で取り上げる必要はないということか)必要ならばやる。いろんな意見があるし、我々は、政府とピシッと距離を置いてやる。放送法のとおりにやれば、政府の言いなりにならない。

(いわゆる従軍慰安婦の問題)
会長職としてのコメントは控えたいが、どこの国にもあったということではないかと思う。それは、戦争をしている戦争地域ということだ。慰安婦そのものが、いいか悪いかと言われれば、悪い。日本だけが強制連行したみたいなことを言われているから、話がややこしい。補償について、韓国とは、日韓基本条約で解決していると思う。(Q.従軍慰安婦問題などについて、個人的な見解を番組に対して、反映するつもりか)ありません。

 特定秘密保護法についての記述では、実際のやり取りの中の「通ったので、言ってもしょうがない」が省かれている。また、従軍慰安婦についての発言からは、「韓国が、日本だけが強制連行したように主張するから話がややこしい」の「韓国が」が消されている。ドイツ、フランス、オランダについての発言に至っては、スッポリと抜け落ちており、発言全体のトーンを落とした形だ。「要旨」だからこれでいいというわけにはいくまい。まがりなりにもNHKは報道機関なのだ。であるなら、物議を醸している会長発言を、一言一句あますことなく、正確に公表するべきだろう。これは編集ではなく、改ざんに近い。姑息な手法が、現在のNHKの姿を浮き彫りにしている。

「神の国発言」とNHK
 平成12年、当時首相だった森喜朗氏が、ある会合における挨拶で「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知していただく」と発言した。いわゆる「神の国発言」である。政教分離や主権在民をないがしろにするとして問題になったが、一方でこの国の政治報道の歪みをさらけ出す。

 政権側は、発言についての釈明会見を開き問題の幕引きを図ったが、後日、この会見を切り抜ける方法を列挙した文書が、官邸の記者クラブ内で西日本新聞の記者によって発見されたのである。問題の文書は、内閣記者会に所属していた記者が、森元首相に逃げ道を指南するために作成したもので、政治部記者の権力癒着に非難が集中する事態へと発展した。この時、指南書を書いたのがNHKの記者だった。

 また、従軍慰安婦を扱った番組をめぐって、当時官房副長官だった安倍氏がNHK幹部と面会し「公平・公正にやれ」と圧力をかけていたことが分かっている。ことほどさようにNHKは政治権力に弱い。

「安倍さまのNHK」
 報道関係者の間で「みなさまのNHK」ではなく「安倍さまのNHK」と揶揄される現状がある。NHKの内部では、「特定秘密保護法」「辺野古」「原発」など、政権側に強い思惑がある問題についての扱いが慎重になっているのだという。

 あるNHK関係者は、次のように話す。「指摘されるような現状は、たしかにある。安倍政権発足後、NHKは、政治がらみのネタに極めて慎重になった。そこにもってきて昨年秋、(NHK)経営委員に、安倍首相シンパばかりを押し込んできた。4人もだ。狙いは首相の意中の人物を、会長に据えるためだ。経営委員会が会長を選ぶのだから、周到に人事をいじってきたのだろう。仕上げが籾井さんだったということ。現場では、政権の怒りを買わないよう、報道の内容が厳しくチェックされている。NHKは、もはやまともな報道機関ではなくなっている」。

 たしかに、会長の任命権を持つNHKの経営委員には安倍首相の“お友達”が多い。「永遠の0(ゼロ)」「海賊とよばれた男」で一躍売れっ子となった作家の百田尚樹氏と埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏は、ともに2012年の自民党総裁選で安倍応援団に名を連ねた。日本たばこ産業顧問の本田勝彦氏は、かつて首相の家庭教師だったという。海陽中等教育学校長の中島尚正氏も含め、いずれも首相と関係の深い人間ばかりだ。

 菅義偉官房長官は、会見で「信頼し、評価している方にお願いするのはある意味では当然」と、経営委員人事に官邸が関与したことを事実上認める発言を行っている。ちなみに、長谷川氏は今月6日、産経新聞に寄せたコラムで、女性の社会進出が出生率を低下させたと主張。男女共同参画社会基本法を批判し、物議を醸している。
 昨年、NHKの経営委員に就任した4人は、いずれも右寄り。安倍首相同様の思想・信条を持っており、韓国や中国に対し、外交上の配慮など考えてもいない方々ばかりなのである。

 経営委員会の委員長は、ANA総合研究所会長の浜田健一郎氏。浜田氏については12年、伊藤祐一郎鹿児島県知事に献金を行なっていたことが明らかになっており、こちらも政治との関わり方に慎重さを欠く人物だ。会長を選ぶ側である経営委員会自体が、政治にすり寄る体質の持ち主ばかりといった現状の中、籾井勝人氏が登場し問題発言を行ったということになる。すべてが官邸の筋書きに沿った流れであるとするなら、NHKの番組は、より右寄り、国家主義的なものばかりとなっていくだろう。

 「安倍さまのNHK」から、受信料を請求されるいわれなどない。



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