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福岡・保育園移転 土地選定の真相判明
市は承知 ― 土地転売のカラクリ

2013年12月19日 08:40

 行司役が相撲をとった形の買収劇で、巨額の税金が無駄に費消されていた。
 福岡市中央区にある認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転のため、福岡市が約9億円をかけて買収した新たな保育園用地取得過程の真相が、16日までのHUNTERの取材で明らかになった。
 市に移転用地を売却した福岡市の不動産業者が、最初に市側から受けたのは土地売り渡しの依頼ではなく、「物件探しの相談」。たまたま北九州の企業が、保有する問題の土地の売却先を求めていることを知っていた不動産業者が、問題の土地の存在を市側に紹介。市がその土地を移転用地として内定したことを受けた不動産業者は、いったん自社で北九州の企業から購入し、その後、市に高値で買い取らせていた。業者は、一連の土地取引で1億3,000万円に上る転売益を得たが、市側はこうしたカラクリについて、すべてを知っていたことになる。
(写真は、新中央保育園の工事現場)

真相 
 土地買収にかかわった複数の市関係者の証言によれば、平成23年の5~6月頃、保育園移転用地の確保に迫られた市側が、福岡市の不動産業者「福住」(市内中央区)に『適当な土地はないか』と相談。福住側は、北九州に本社を置く「徳増興産」が、保有している土地の売却先を探しているという情報を市側に伝えてきたという。その後、市側は福住に当該物件の買収意思を伝え、同年7月、市長を交えた「市政運営会議」で、保育園の移転と徳増興産の土地を「移転用地」とすることを正式決定していた。

 保育園移転用地を探していた市側から相談を受け、問題の土地を市に紹介した福住は、市が買収することを承知した上で、移転計画の方針決定から1ヵ月後の同年9月に徳増興産から約7億7,000万円で土地を取得。11月には市と土地売買に向けての協議を開始した。正式な売買契約は今年4月。8億9,900万円で市に転売している。福住が得た転売益は、1億3,000万円に上っており、経過からいって、物件を福岡市以外に売る意図はなかったと見られる。

 福住は不動産の仲介業務も行っており、問題の土地取引では移転予定地の所有者である徳増興産と市側を取り結ぶだけでよかったはず。その場合、土地代の他に発生するのは仲介手数料だけ。行司役のはずだった福住が、自ら相撲をとる形の土地取り引きにしたことで、転売益として1億3,000万円もの税金が同社に転がり込んだことになる。

市側説明は虚偽 
 これまでの市側は、職員が探した6か所の候補地の中で、問題の土地が唯一取得可能な物件だったとしていたが、関係者の話によって、この話が虚偽である可能性が濃くなった。

 HUNTERの取材に応えた市関係者の話によると、移転用地が候補地として検討対象になったのは、他の5カ所を調査した後。最後の最後になって、福住が当該物件を提示したことから、急遽第一候補に浮上したのだという。真相が判明したことで、土地取得をめぐる大きな疑問が氷解する。

 市側はこれまで、問題の土地を移転用地とする方針が固まったのは同年5月から6月初旬にかけてのことだと説明。市への情報公開請求で入手した資料によれば、同年6月の段階で6か所だった移転候補地が、市政運営会議が開かれた7月26日までの間に、こども未来局内部で2か所に絞られ、土地所有者の意思も聞かぬまま移転先を決めたとされていた。通常ならあり得ないことだった。

 しかし、今回の市関係者の証言が、不自然な土地購入をめぐる動きをスッキリしたものに変える。「ここしかなかった」―こう繰り返してきた市側の言葉の意味も、ようやく理解できるものとなる。福住側が提示した土地は、はじめから市が購入する約束だったのだ。移転候補地選定資料の中に、当該地の不動産登記簿謄本だけがなかったり、当時の現状写真が消えていた(市議会での共産党市議の質問に対する市側答弁)ことも、これで合点がいく。必要がなかったからにほかならない。種々の資料が、アリバイ作りのために作成されたため、不完全なものになったと見るのが自然だろう。

 もともと市立中央児童会館と中央保育園を合築して再整備する計画だったものを、唐突に商業施設優先と言い出したのは高島宗一郎市長。方針転換に困惑するこども未来局や市幹部に対し、市長は「ふたつ(中央児童会館と中央保育園)とも出してしまえ」と要求したとされる。そのため保育園がはじき出されることになり、市は新たな移転用地の取得に走ることに―。その結果、本来必要のなかった土地を購入したばかりか、相談相手に1億3,000万円もの追い銭を払う形となっている。
 すべてを知っていた市長が、背任で刑事告訴されるのは当然のことだった。



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