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福岡市・保育園移転 市長自ら「不適」を証明
それでも移転強行の構え

2013年7月17日 08:05

 用地選定にからんだ疑惑が噴き出した認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転計画が、在園児保護者会や市民の厳しい批判を受けて頓挫した。
 問題が拡大する前に決着をつけ、なんとしても移転を強行させたい高島宗一郎市長は、これまで拒否していた保護者らとの面談に応じる姿勢に転換。さらに、市長自ら移転予定地を視察するなど、“アリバイ作り”に懸命だ。
 しかし、動けば動くほど、指摘される移転予定地の問題点を浮き彫りにするという皮肉な形となっており、関係者の失笑を買う始末。お得意のパフォーマンスで市民の理解を得ようという魂胆だったらしいが、世の中そう甘くはない。

「面会拒否」一転の背景
 高島市長は今月初旬、中央保育園の在園児保護者会と面談することを決め、関係者に通知した。それまで「原局(事業の所管局)に任せる」「(面会を求める保護者会を)フェアではない」などとして、保護者会と向き合うことを頑なに拒絶してきた姿勢を、180度転換したものだ。面会拒否の方針を変えざるを得なかったことは、保護者会への説明が不十分だったことを証明している。

 4日の夜に市立中央児童会館で開かれた市主催の保護者説明会は、肝心の保護者が一人も参加せぬまま流会。前代未聞の事態を受けた市は、再三にわたって保護者らが求めてきた市長との面会を実現させ、「話は聞いた」という形で終結を図る構えだ。

 だが、市長面談のやり方は社会常識を無視した一方的なもの。しょせんは姑息なアリバイ作りの一環でしかなかった。
 日曜日だった7日、読売新聞の朝刊に、高島市長が保護者らと会って話を聞く方針を固めた、とする記事が掲載された。役所特有の新聞を使った地ならしである。
 この方針は、休日であるにもかかわらず、午前9時頃になって保護者会側へもFAXで送信されている。市の慌てぶりは相当なものだった。

通知文 問題はその内容だ。右がその通知文だが、どこにも「保護者会の要請を受けて」という一文は記されていない。あくまでも市長自身が《私として問題点を整理するため》の面談なのである。

 非常識なのは、面談日を9日か10日、いずれかの30分間としたこと。さらに、回答を文書送付の翌日となる8日の午後5時までと決め付けている点だ。
 保護者会の会長がこのFAXを見たのは、外出先から帰った夜9時過ぎ。他の関係者に連絡を回したものの、対応する時間がなさ過ぎることに一同頭を抱え込んだという。

 当然だろう。保護者会は、保育園に在園する子どもたちの両親の集まり。共働きで子育てに奮闘している親たちばかりなのだ。職場での勤務がある以上、勤務先と時間の調整を行う必要がある。人員配置の関係やらで、すぐには市長との面会時間を決められないという事情を抱えているのだ。
 しかも、日曜日に一方的に通知してきて、翌日の夕方までに決めろというのだから、一般常識からかけ離れている。上から目線で「会ってやる」と言わんばかりのやり方だったのだ。

保護者ら数十人、必死の「直訴」
 しかし、保護者会側は一歩前進と喜び、市側に面会時間の調整を依頼。さすがにまずいと思ったのか、市長サイドも日程の調整に応じ、16日夜7時から保護者らの代表が、市長室での面談に臨んだ。

 保護者会側の主張はひとつ。これまで要請していた“市長が出席する説明会”の開催だ。しかも、市長室前には詰めかけた50人以上の保護者らが、口々に現地での建替えや事業の見直しを訴えるという、異例の展開となった。まさに「直訴」である。
 これまで保育園の園長や市側は、「一部の保護者が」という表現で、保護者会の分断を図ってきたが、それが消し飛んだ瞬間でもあった。

墓穴
 中央保育園の運営を行っている「社会福祉法人福岡市保育協会」側との面談を行った市長は11日、保育園の移転予定地を突然視察した。テレビカメラや記者たちを引き連れた大名行列を待っていたのは、移転予定地前の交通混雑だった。わずか20~30名の人間が集まっただけで、付近の交通事情が極めて危険な状況に陥ったのである。 市長の身を守るため、市職員が壁を作って車を誘導するほどの混乱。緊急時における、300人もの園児や保育士らの避難が、いかに危険なものになるかを市長自身が証明した形となった。高島市長は、墓穴を掘ったというしかない。(下はその時の写真)

極めて危険な交通事情

 次いで市長が訪問したのは福岡県警中央警察署。保育園移転予定地付近の安全・安心を確立するため、市側と協議の場を設けるよう要請に出向いたとのだという。
 つまり、警察にお願いしなければ、園児らの安心安全が守れない場所であることを宣伝したようなもの。これまた滑稽というしかない。

背信
 市長自ら移転予定地の問題点を浮き彫りにしてみせておきながら、市内部で移転計画の見直しを検討する動きはない。「来週着工」との噂さえあるほどで、高島市長は、あくまでも移転を強行する構えだ。これは即ち、高島宗一郎という若い市長が、口先だけの政治家だったことを物語っている。

 改めて、これまでの市長発言を確認しておきたい。 
 就任直後、平成23年1月18日の市長会見では、懸案となっていたこども病院人工島移転問題の再検証について、次のように話していた。
『多くの市民がこども病院のアイランドシティへの移転を決定した経緯への不信感で、現在の市政に大きな不信感を抱いています。 その不信感を払拭するために、こども病院のアイランドシティ移転を決定したプロセスの合理性、妥当性について検証し、その中で現地建替え費用を1.5倍とするに至った不透明なプロセスも明らかにします。 また、広く公開する場で、様々な立場の人たちが検証を行うことにより、より多くの市民の理解を促します』。

 この日の会見では、こうも述べている。
『多くの市民が納得できる形で一つの結論を導き出すという地方自治としてのチャレンジを、私はこの福岡でしていきたいと思います』。

 さらに、平成23年5月24日の市長会見では、問題があれば病院の移転地変更もあり得るとまで踏み込んでいる。
『私は選挙公約で言っていましたとおり、もう一度、そのプロセスの合理性・妥当性を検証させてほしいと。そして、アイランドシティがいいとなったんであれば、堂々と胸を張っていくようにしようと。そしてもし、そのプロセスなどに関してですね、重大な問題があるのであれば、それは場所の変更もありえると、こういったことでお話をしてたわけでございます』。

 一連の発言と今回の中央保育園をめぐる市長の姿勢には、整合性がまったくない。こども病院人工島移転をいったん白紙の状態に戻し、検証を行ってから決めるという選挙向けのパフォーマンスが功を奏し、市長の座を射止めた高島氏。だが、なぜか中央保育園の移転に関しては、「議会で決ったこと」として計画の見直しを頭から否定している。裏に別の思惑があると見るのが自然。それが「利権」であると感じているのは、HUNTERの記者だけではあるまい。

 身内である福岡市職員からも、高島市政に対する“まっとうな”批判の声が上がっている。
 《私は福岡市の職員ですが、率直に言って今回の移転には反対です。違法でないからといって、パチンコ屋の裏、ラブホテルの2軒隣に市が土地を購入して保育園を建てることが許されていいはずがありません。市がやっていることが脱法行為であることは、多くの市民が気付いています。
 交通環境や災害時の安全性においても大いに問題がありますし、なにより今回の計画には子どもの成長を思いやる心が見えません。本当に残念です。
 高島市長がやっているのは、待機児童解消のための数合わせなのです。
 中央保育園の保護者や保育士さんたちは、休日に天神で自腹でのぼりやビラを作って活動されています。決して好きでやっているわけではないと思います。こうせざるを得ない状況まで関係者を追い込んだことを市は猛省すべきではないでしょうか。
 市民の生命と財産を守ることが我々の最優先事項であり、市民の幸せのため我々は働いているはずなのですから》。



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