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福岡市・保育園移転 背景に「土地転がし」
元市幹部天下り先企業に転売益1億3,000万円!

2013年7月11日 09:05

 社会問題化した福岡市中央区の認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転計画にからみ、市側に移転用地を売却した市内の不動産会社が、一連の取り引きを通じて1億3,000万円あまりの売却益を得ていたことが、関係者の証言で分かった。典型的な“土地転がし”である。
 問題は、移転候補地が内定した平成23年の7月頃、不動産業者に市の元幹部が顧問として入社していたこと。役所の天下り先に税金を原資とする巨額な利益を献上した形で、用地選定過程の不透明さの背景に、子育てとは全く無縁の事情があったことが浮き彫りとなった。
 これまで、災害時の避難経路が不十分なことや、風俗街という立地環境についての議論が中心となっていた移転問題が、新たな展開をみせはじめた。

確実となった「土地転がし」
 新たに分かったのは、福岡市の不動産業者が平成23年9月1日に北九州の会社から、のちの保育園移転用地を買収した際の価格。関係者の証言によれば、約7億7,000万円だったとされる(この点については、福岡市のニュースサイト「NET‐IB」が詳細を把握している模様で、きょうにも報じる予定だという)。
 この土地はその後、福岡市が中央保育園移転用地として今年4月に不動産業者から取得。契約金額は8億9,900万円だった。
 一連の土地転がしで市内の不動産業者が得た利益は、少なくとも1億3,000万円に上ると見られる。

 この話を裏付ける事実もある。問題の土地の不動産登記簿謄本には、福岡銀行と西日本シティ銀行が根抵当権を設定している。受付日は平成23年9月1日。福岡の不動産会社と北九州の会社との間で、売買が成立した日だ(下がその登記簿謄本の一部)。

登記簿謄本の一部

 二つの銀行が設定した極度額は、それぞれ「4億円」となっている。極度額とは、対象物件(この場合は土地)に担保される上限金額―分りやすく言えば、銀行が下した物件への評価といったこところ。つまり銀行が見積ったこの土地の価値は、8億円程度だったことになる。金融関係者の話によれば、極度額いっぱいに貸付が実行されることはほとんどなく、8億円の極度額なら、通常はその80%から85%、経営状態のいい会社でも7億円強が相場だという。福岡の不動産会社は優良企業で、7億5,000~7億6,000万円までは融資に応じることも考えられるという。そうなると、北九州の会社から土地を買った時の額とほぼ一致する。

「市政運営会議」方針決定が持つ意味 
 この土地については、平成23年7月26日、「市政運営会議」で移転候補地として内定。その約1か月後に、不動産業者が北九州の会社から買収していたことが分かっている。下はその不動産登記簿謄本の一部だ。

鹿児島 394.jpg

 その後の福岡市への情報公開請求で入手した資料によれば、北九州の会社が土地売却に向けて動き出したのが、市政運営会議の数日後―8月初旬だったことを裏付ける証拠も出ている。
 下の2枚の文書は、北九州の会社が、土地売却を進めるために敷地の境界確認を申請した時の文書。同社が出した土地家屋調査士への「委任状」の日付は「平成23年8月12日」、土地の図面取得日は同年「8月5日」となっていた。この時期、こうした動きとなっていたことは、9月1日に売買契約が成立していた経過からして当然といえよう。それにしても、市政運営会議の方針決定から時日を置かずに土地売買への動きが始まっており、偶然にしては出来すぎた話だ。

委任状 土地の図面

 ここに、福岡の不動産会社が、北九州の会社から土地買収を行う決め手としたのが、7月26日の「市政運営会議」の方針決定だったとの見立てが存在する。

 福岡市が保育園移転用地を探し始めたのは、同年5月。この事情を知った市内の不動産業者が、該当物件として目をつけたのが問題の土地だったという。北九州の会社は、自社開発のマンション物件売却が滞り、経営難に陥っていたからだ。しかも、近隣はラブホテル密集地。通常、買収して土地を抱えることには慎重とならざるを得ない物件だった。

 しかし、“福岡市が正式にその土地を買う”というお墨付きがあれば話は別だ。危険な土地でも安心して買収することができる。そのための道具立てとなったのが、「市政運営会議」の決定事項だったというのである。

 たしかに、これまで報じてきた市政運営会議の決定事項には不可解な点が多かった。下は、同会議が追認した市こども未来局作成による「事業総括シート」の一部だが、ろくに選定協議もしないまま、いきなり「候補地1」を移転予定地に決めている。「候補地1」が問題の土地であることは、度々報じてきた通りだ。

「事業総括シート」一部

 一連の流れが意図的に仕組まれたものだったと考えれば、候補地決定の基礎資料となった総括シートの添付文書(下の文書)で、数字が偽造されたことにも納得がいく。
 赤いアンダーラインで示した土地の予定価格には、土地の取得費について「候補地1」については(見込み)として『812百万円(552千円/㎡)』。これに対し「候補地2」は、『1,080百万円(1,227千円/㎡)』。1㎡あたりの価格に2倍以上の開きがある。

「総括シート」添付文書

 市側に土地取得費見込み額の算出根拠を求めたところ、“該当する文書はない”と回答。根拠のない数字を市の最高意思決定機関の説明資料に使うことは考えられないことから、再度市側に詳しい説明を求めたところ、「候補地1」については「路線価を参考に算出した」と明言。他方、「候補地2」については、当時の職員がどこからか聞いてきた「1坪400万円という噂」(市側説明)を参考に価格を決めたとしていた。ふざけた話だが、その話を証明する記録もない。

 市政運営会議での方針決定が、「候補地1」にお墨付きを与えるための道具立てだったと考えれば、すべての謎が氷解するのは確かだ。

見逃せない不動産会社への元市幹部天下り
 最大の問題は、市政運営会議の前後に、市の元局長級幹部が、市内の不動産業者に顧問として入社していたことだ。いわゆる「天下り」。その前後の外形上の事実だけを拾ってみると、次のような流れとなる。

【平成23年】

  • 5月 市が保育園移転用地を探し始める。
  • 7月26日 市政運営会議で唐突に「候補地1」を保育園移転用地として内定
  • この頃、元市幹部が市内の不動産会社に「就職」
  • 8月初旬 北九州の会社が土地売却への動きを加速
  • 9月1日 市内の不動産会社が北九州の会社から土地を買収
  • 11月 市内の不動産会社と土地転売の協議開始

 どう見ても出来すぎた話でしかない。この流れの中で、本来なら7億円台で購入可能だったはずの土地を、1億3,000万円も積み増しして取得したことになるのだ。しかも原資は税金である。

 見方を変えれば、市の天下り先を確保するため、わざわざ税金による土地購入価格のつり上げを許したともいえる。普通なら市政運営会議の直後から、北九州の会社に土地売却の可能性を打診しなければならないはずなのに、市側が動き出すのは11月になってから。転売益の確保を可能とするため、時間をかけたといわれてもおかしくない格好なのだ。

 市内部で、問題の土地を移転用地とする方針が固まったのは同年5月から6月初旬にかけてのことだという。「ここしかなかった」―HUNTERの取材に応じた多くの市関係者は、異口同音にこう繰り返す。しかし、他の場所も探したとしながら、「候補地2」の所有権者に、土地を手放す意思があるかどうかの確認さえ行っていない。“聞く必要がなかった”と言った方が正確だろう。
 また、同年6月の段階では、移転候補地が「6か所」だったはずなのに、これまた土地の所有権者に打診することもなく、選定対象から外している。これでは「探した」とは言えない。常識的に考えて、市長や副市長が参加する最高意思決定の場に、買えるのかどうかも分からない土地の情報をあげて、判断を仰ぐことなどあり得ない。
 仮に、「はじめに土地ありき」と市幹部の天下りがリンクしていたとすれば、市民に対する重大な背信行為となる。

移転問題の真の構図
 整理しておきたい。災害時における児童の避難経路確保や周辺環境について、何の考慮もなく、市の天下り先に転売益をもたらす土地購入を行った結果、児童や保護者を追い詰めた―これが中央保育園移転計問題の真の構図である。
 子どもを置き去りにした「はじめに土地ありき」に“天下り”がからんでいる以上、これがまともな子育て支援策であるはずがない。高島市政は狂っている。



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