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福岡市・保育園移転 許されない三つの理由

2013年6月26日 10:50

 福岡市中央区にある中央保育園(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転問題について、たくさんのご意見メールをいただいた。
 「反対意見を無視して、税金で土地を買うことができた理由が知りたい」、「福岡市はこども病院人工島移転問題の教訓を生かしていない」など、保育園移転用地取得の過程に疑問を抱く声が大半だ。
 一方、ラブホテルやパチンコ店が立ち並ぶ一角に保育園を建設することについては、「福岡市長の良識を疑う」、「子どものことをを考えているとは思えない」といった怒りの声のほかに、「もう待てない。保育所ができるのなら、ラブホテルの近くでも構わない」、「保育所整備が遅れると困る」などという切実な声もある。
 待機児童解消が求められる中、なぜ中央保育園の移転計画が認められないのか―その理由を整理しておきたい。(写真が問題の保育園移転用地)

理由その1・・・避難経路の不備
 公費約9億円を投じて市が福岡市内の不動産業者から買収した中央保育園の移転予定地は、下の図の通り、土地前面の道路が「国体道路」に向けての一方通行路となっている。道幅は5.5メートルしかない。移転用地の前から、国体道路側に向けてカメラを構え、この場所の置かれた状況を撮影したのが左側の写真である。
 

移転用地の前 撮影ポイント

 国体道路に抜けようとする車が信号待ちでズラリと並び、次々と車列が長くなっていく。雨の日、同じ場所を確認したが、車と傘が重なると、撮影さえできない状況だった。

 市の計画では、新たに整備される予定の保育園の定員は300名。それだけの数の0~5歳の子ども達を、この道路に誘導して国体道路まで避難させることがどれだけ危険か分かるだろう。定員に対する避難経路の不備は致命的といえる。

 避難経路にはさらなる問題がある。本来、保育園整備にあたっては、複数の避難経路を確保しなければならない。しかし、保育園用地の裏側にあたる一方通行路までは、既存のビルや駐車場があるため、出るにでられない。そこで市が考え出したのが、移転予定地に隣接するパチンコ店の「景品交換所」を通って、園児達を避難させるというプランだ。
 その入り口となるのが、下の写真、赤い矢印で示した部分にあるドアである。

ドア.jpg 60cm の段差があるフロア

 このドアは、福岡市側がパチンコ業者に頼んで、本来は壁だったはずの部分に後付けさせたものだという。そのため、ドアの幅は極端に狭く、子ども一人がようやく通れる程度でしかない。さらに、保育園側の敷地と景品交換所の床にかなりの高低差があるため、ドアを開けるといきなり60センチ下にフロアがある状態だ。右の図は、その状況を示したものである。

 非常時、いきなり飛び込んできた子どもが、60センチもの段差があることに気付くはずがない。その結果がどういう事態を招くか、容易に想像がつくだろう。
 市側は、いまになって「対策を考えている」と言うが、せいぜいできるのは階段かスロープの設置程度。危険極まりない避難経路を、子どもや保育士に押し付けることに変わりはない。十分な計画も立てぬまま、土地取得を優先した末の惨状と言ってもよかろう。

理由その2・・・風俗街
 下の写真は保育園予定地直近の、言わずと知れた「ラブホテルの入り口」である。右の図は移転予定地の周辺50メートル付近の状況を示したものだ。

ラブホテル入口 中央保育園周辺のラブホテル

 子どもたちが、ラブホテルの前を通る時(いやでも通ることになるが)、「ここはなに?」と聞かれた保護者や保育士はどう答えればいいのだろう?
 「風俗街であっても、保育所がないよりはまし」という考え方もあるだろう。しかし、中央保育園の整備事業に限っていえば、それは間違いだ。

 同園の保護者会や保育士らが主張しているように、無理にこうした場所を選ばず、本来の計画通りに児童館と保育園を合築し、他に同規模の保育所を整備すればいいだけの話なのだ。150人程度の定員をまかなうための保育所用地なら、いくらでも見つけることができるのである。

 高島宗一郎市長は、「他に土地がなかった」と言い訳しているが、それは日本中探してもないような定員300という非常識な規模の保育園を造ろうとしたからである。待機児童をゼロにするという政策目標を達成するため、子どもを犠牲にしていいわけがない。保育の現状もろくに知らないタレント市長の身勝手を許すことは、市政の自殺行為である。10億円以上の税金を投入する以上、市民の理解と共感が必要であることは言うまでもあるまい。

理由その3・・・疑惑の存在
 中央保育園の移転が許されない最大の理由は、理不尽かつ不透明な政策決定過程が存在することだ。

 中央児童会館と保育園の合築という従来方針から、分離整備への唐突な変更。しかも、定員150を300にするという無理な計画だ。背景に、児童会館と商業施設の併設を優先するという、高島市長の指示があることは疑う余地がない。

 その結果、保育園がはじき出され、さらに無理な定員増を図ったため、市民にとっては不必要な土地を買う破目になってしまっている。儲かったのは不動産業者だけだ。しかもこの間、市民には十分な説明など一切なかった。なにせ当事者である中央保育園の保護者らが移転計画に反対の声を上げていたにもかかわらず、今年4月に見切り発車し、疑惑の土地を買ってしまっているのだ。またしても「はじめに土地ありき」である。

 一連の土地選定過程に大きな疑惑があることは間違いない。移転が許されない最大の理由―疑惑の土地取得の実態について、明日から詳細を報じていく予定である。



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