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直方市 上頓野産業団地を追って(3)
― はじめに“土地”ありき

2012年9月 6日 09:00

gennpatu 23339246644.jpg 増税だけを決めて迷走状態に陥った永田町だが、どれだけ税収が増えても、行政の無駄遣いがなくならない限り、財政事情が好転することはない。
 無駄遣いの典型が土木工事を中心とした大型公共事業であることは言うまでもないが、地方自治体のやりたい放題が財政を圧迫するケースも後を絶たない。
 福岡県直方市が進めてきた上頓野産業団地造成事業もそのひとつだった。
 今年6月に連載を始めた本シリーズ、これまでのまとめと続報を3回にわたって報じていく。

事業費20億円超、収入は7億円の仰天計画
 直方市が平成19年から進めてきた「上頓野産業団地」造成事業は、市の北東部に位置する上頓野地区に3区画・約11ヘクタールにおよぶ工業団地を造り、企業誘致を図ろうというものだ。
 北九州市との境にある標高約560メートルの金剛山の麓にあることから、かつては「金剛山産業団地」の名称で事業計画が進められていた。

 平成24年度の一般会計予算が約230億円程度(特別会計などを含めた 総予算額は約370億円前後)である同市にとって、産業団地造成にかけた土地取得費と工事費などの合計約20億円は、かなり無理のある金額だったと言える。
 事業費のうち、約16億円は起債(つまり借金)でまかなっており、順調に土地が売れなければ一般会計から借金払いのカネを捻出する事態となる。
 通常の“事業”なら、土地を完売した時点でいささかなりとも市民の負担が減るはずなのだが、驚いたことに上頓野産業団地の造成は、完売しても巨額な「赤字」になることを前提に進められてきた事業なのである。

 kamitonno_H2408.jpg同市のホームページでも紹介されているが、3ブロック(A用地、 B用地、C用地)に分けられたそれぞれの分譲価格は次のとおりで、完売しても収入総額は7億1,500万円にしかならない。(右、直方市HPより)

  • A用地 有効面積16,000m2
    (分譲面積 24,300m2)→1億3,600万円
  • B用地 有効面積27,400m2
    (分譲面積 31,500m2)→2億3,300万円
  • C用地 有効面積40,700m2
    (分譲面積 54,900m2)→3億4,600万円

 前述したように、土地代や工事費などに約20億円をを使っており、残り13億円ほどは返ってくるあてのないカネということになる。ただし、これはあくまでも分譲地が完売したらという条件付きの話であり、土地が売れなければ状況がより深刻となる。
 産業団地に進出する企業が生み出す将来の税収を見込んだのかもしれないが、確たる保障もないまま次々に公金を投入しており、計画性のない無謀な事業展開は税金をあずかる市長の"背任行為"に等しい。

 昨年7月になってようやく契約にこぎつけたB用地の販売価格は2億1,932万円。予定価格を下回る形だ。今年になってA区画も売れたとされるが(なぜか売却額が公表されていない)、差額分のしわ寄せはもちろん“市民”に回される。

垂れ流された事業費 
土地 計画段階から分譲開始までの過程にも疑問ばかりが付きまとう同事業。支出の内容を検証すると、野放図に垂れ流された公費の額ばかりが目立つ。

 平成8年に直方市土地開発公社が土地を取得して以来、公社や市が委託した設計関連業務だけでも支出総額は1億7,206万4,450円に上る。

 工事費も、当初予算から大幅に増額されていた。
 入札の結果、平成19年10月に直方市と地場建設業者3社で構成される特定建設工事共同企業体(JV)との間で交わされた契約では、当初の請負金額が8億6,100万円だったものが、工事変更や災害復旧工事の追加で、10億円にまで膨らむ結果となっていたのだ。

 喜んだのは建設業者だけであり、尻拭いする状況となった市民はたまったものではない。“泣き面に蜂”という言葉があるが、工事が杜撰だったためか土地が軟弱なせいなのか、平成21年の豪雨で造成地の一角が崩れ、土地の売り出し時期が大幅に遅れた上、復旧工事に追い銭まで支払うハメに陥っていた。

最大の問題―買収された90ヘクタールの土地
 上頓野産業団地の最大の問題は、直方市土地開発公社によって平成8年に始まった“土地”にある。
 取得された土地は約90ヘクタール。このうち市が公社から引き取った土地は約30ヘクタールに過ぎず、産業団地として造成されたのはその中の11ヘクタールだ。
 市が公社から取得した30ヘクタールについて見れば、産業団地用地以外の19ヘクタールは“緑地”になっている。
 公社保有の土地は、依然として60ヘクタールも残っており、今後、徐々に市が買い戻していくことになるのだが、その使途は定まっておらず、環境保全林として残すのが関の山だという。土地買収につぎ込まれた公費は約10億円である。

 ところで、問題の土地は、産業団地を造成するという確固たる目的をもって買収されたものではない。
 そもそも10ヘクタール程度の産業団地用に、90ヘクタールもの土地が必要になるわけがない。何らかの理由で広大な土地を買い取った直方市が、買収した土地を持て余したあげく、むりやり産業団地を造成したと言った方が妥当な経緯があった。
 無謀な計画の背景には、無駄な土地の購入があったということだ。

つづく



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