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失政のツケ
福岡県直方市 上頓野産業団地を追って(1)

2012年4月26日 11:15

 福岡県直方市は、かつて石炭がこの国の基幹産業だった頃、産炭地・筑豊における交通の要衝として栄えた地方都市である。
 産業構造が変わったあとも極端に衰退することがなかったのは、北九州市に隣接するという地理的条件の良さと、二次、三次産業を軸にした市政運営が一定の成果を上げてきたためだろう。
 春に開かれる「のおがたチューリップフェア」や、遠賀川の河川敷に咲き誇る菜の花が象徴するように、明るいまちづくりが志向されてきたのは確かだ。

 一方、直方市は昨年、明治以来この地の変遷を見つめ続けてきた「JR旧直方駅舎」を惜しげもなく解体して"がれき"に変えてしまった。
 自らの歴史を否定する愚かな選択としか言いようがないが、市側は、保存を願う市民らの声を黙殺した理由として同市の財政事情の厳しさを挙げる。
 しかし、そうした事態を招いたのが、駅舎解体を決めた市長本人と彼を後継者に仕立てた前市長であることを、どれほどの市民が知っているだろうか。
 
 HUNTERは、地方都市を疲弊させる典型例として、同市のある大型公共事業をめぐる動きについて長期取材を続けてきた。見えてくるのは市政トップによる歪んだ行政運営の実態であるが、失政のツケはすでに直方市民に回されている。(写真は直方市役所)

「上頓野産業団地」
 gennpatu 528.jpg問題の公共事業とは直方市が平成19年から進めてきた「上頓野産業団地」の造成事業である。約11ヘクタールにおよぶ同産業団地は、市の北東部に位置する上頓野地区に造成されたもので、北九州市との境にある標高約560メートルの金剛山の麓にあることから、かつては「金剛山産業団地」の名称で事業計画が進められていた。

 同事業のための土地取得と工事費などに投じられた公費は約20億円。平成24年度の同市の一般会計予算が約230億円程度(特別会計などを含めた総予算額は約370億円前後)であることを考えれば、「上頓野産業団地」に費消された金額が同市にとっていかに大きなものであるか分かる。
 
 問題は、事業費の大半となる約16億円を「起債」、つまり借金で賄っていることだ。直方市の計画では、造成した産業用地を売却して市債の償還財源に充てることになっているが、土地が売れなければ、一般会計から特別会計に繰り入れを行なっての返済を余儀なくされる。市民が事業失敗のツケを支払う形だ。
(写真は、昨年取材時の上頓野産業団地)

はじめから「赤字」の驚くべき計画 
 ただし、すべての土地が売れたとしても、完全に元が取れるわけではない。信じられないことに、「上頓野産業団地」はもともと赤字になることを前提に進められてしまった事業なのである。
 
 同市のホームページでも紹介されているが、3ブロック(A用地、 B用地、C用地)に分けられたのそれぞれの分譲価格は次のとおりで、完売しても収入総額は7億1,500万円にしかならない。

・A用地 有効面積16,000㎡(分譲面積 24,300㎡)→1億3,600万円
・B用地 有効面積27,400㎡(分譲面積 31,500㎡)→2億3,300万円
・C用地 有効面積40,700㎡(分譲面積 54,900㎡)→3億4,600万円
 
 前述したように、土地代や工事費などに約20億円を使っており、残り13億円ほどは返ってくるあてのないカネということになる。ただし、これはあくまでも分譲地が完売したらという条件付の話であり、土地が売れなければ状況はより深刻となっていく。

 手持ち資金約4億円に加え、16億円を借金して20億円の土地を買った。しかし、思惑通りに土地が売れても7億円程度の収入しか得られず、9億円の借金が残るだけ。もともとあった4億円は戻ってこない。
 土地が売れなければ年間の売り上げからの返済額はさらに膨れ上がり、コストカットが続き、事業はジリ貧となっていく。民間企業なら倒産というケースだが、こんなバカな計画を実行する企業などあるはずがない。
 
 土地が売れればトントンになる予定だったというのならまだ理解はできる。しかし、直方市は計画段階から赤字を垂れ流すことを承知で事業を進めてきたのである。
 産業団地に進出する企業が生み出す将来の税収を見込んだのかもしれないが、確たる保障もないまま次々に公金を投入しており、計画性のない無謀な事業展開は税金をあずかる市長の"背任行為"に等しい。

 ムダな公共事業によって生じた財政難は、直方の歴史の証人とも言える旧直方駅舎解体という愚行を招いただけでなく、福祉や教育といった市民の暮らし向け予算の削減にもつながっていく。

 直方市民は、これから先何年もこの事業の尻拭いを続けていかなければならないのであるが、何故こうした愚行がまかり通ってしまったのか?
 答えを探すための取材は、地元の直方市だけでなく、関西から関東にまで及ぶことになった。
                                  
                                                

つづく

*本シリーズは、連休明けから週1回程度で記事を掲載して参ります。



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