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福岡市役所 飲酒禁止の波紋
思いつき市政の限界 

2012年6月 1日 11:30

gennpatu 233392444.jpg 高島宗一郎福岡市長が職員を対象に打ち出した1か月の飲酒禁止。全国ネットの番組でも取り上げられるなど話題にはなったが、拙速に過ぎる方針決定には疑問が尽きない。

 問題の本質を検証する前に、感情にまかせて発せられた「酒飲むな」だったことは明らかで、1週間経って関係者への追加説明を行うなど混乱が続く。

 就任から1年半。ものごとを深く考えず、思いつきで市政を動かす高島市長の手法に限界が見えはじめた。

拡がる波紋
 下の文書は、市が嘱託職員や臨時職員(つまりパートタイマー)に配布している「自宅外での飲酒について」と題するQ&Aだ。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

 飲酒禁止の対象や趣旨などを周知する前に報道が先行したため、あわてて協力要請や説明に追われたと見られ、福岡市内のある臨時職員には、まず飲酒禁止の「通知」が届き、さらに数日経ってこのQ&Aが送られてきたのだという。

 非正規職員の数だけでも数千人規模となるため、コピー代や郵送費もバカにならないはずだが、方針を打ち出してから1週間も過ぎて組織としてこんな文書を出さねばならない状況は滑稽としか言いようがない。

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 1か月の飲酒禁止がエスカレートしたらしく、「この機会に飲酒を伴わない懇親の場も広げていただきたい」とまで踏み込んでいる。これでは、酒場で会合を開くことを止めましょうと言っているようなものだ。断っておくが、これは正規職員ではなく、月に数回程度、"臨時職員"の役を果している人への文書なのだ。

 この文書を見た飲食店(福岡市中央区)経営者は、怒りを露わにして次のように話す。「冗談じゃない。ろくに家賃さえ払っていない屋台は保護して、まじめに営業している飲食業者を日干しにするつもりか。職員やパートまで入れて2万人からの人間が夜の飲食を禁止されるということは、その家族や周辺まで街に出なくなるということだ。それに加えて《この機会に飲酒を伴わない懇親の場を広げろ》とは、営業妨害以外のなにものでもない。胸ぐら掴んで『とっとと市長を辞めろ』と言ってやりたい」。もっともなご意見である。

矛盾する市長の言動
 5月22日の定例会見、記者から反対の声について聞かれた市長は、次のように答えている。
識者と言われる方が、コンプライアンス教育が大事ではないかというようなコメントを出していましたけど、やっぱり、でもそこはね、言いたいこともありますよ、それは、コンプライアンス教育、これまでずっとしてきて、してきて、で、やっぱりその中で、変わらない状況の中ではやっぱり同じことを言い続けられないし、やっぱりやり方というのは、これで変わらないんだったらやっぱり変えなきゃいけないし、やっぱり組み合わせが大事だと思うんでね。もちろん、根本療法のコンプライアンス教育等が大事なことはもうそれは百も千も一万も承知の上ですよ》。

 話が整理できていなかったらしく、タレント上がりの市長にしては珍しく日本語が乱れている。《やっぱり》が6度も出てくるあたりは、まるで子どもの演説だ。
 メディアで紹介されたコンプライアンス教育の必要性に言及したコメントを、自らへの批判と捉えたようだが、"識者"に向けられた言い訳は幼稚としか言いようがない。

 "識者"たちが必要性を説いているのは、コンプライアンス教育の回数ではなく、むしろ内容の充実と受け取る方が自然だ。問われているのは市が行ってきたコンプライアンス教育の質であり、飲酒がらみの事件が続いたことは、まさにその点に不足があったことを示唆している。

 真摯に各界の意見を受け止め、詳細な検証の上に立って事件の再発防止に取り組むべきである。

節操なくした市長
 ところで、"識者"からの思わぬ反論に興奮したのか、高島市長は自己矛盾に気付かなかったらしい。
 そもそも、こども病院や人工島といった重要課題の方針決定にあたり、市長が頼ったのはその"識者"たちだったはずだ。
 「こども病院移転計画調査委員会」、「アイランドシティ・未来フォーラム」、「屋台との共生のあり方研究会」。いずれも高島市長の発案で設置された組織だが、議論をリードしたのは"識者"と呼ばれる人たちである。
 結果的に、これらの出した結論を丸呑みし、責任転嫁した形で市民の目をそらしたのは他ならぬ高島市長。都合の良い時だけ"識者"を重用するというのでは、あまりに節操がなさ過ぎる。
 ちなみに、役所や政治家の都合に合わせる識者を世間では「御用学者」と呼ぶことを、市長は承知しておくべきだろう。

思いつき市政の裏で・・・
 若さと"発信力"で1年半を走ってきた高島市長だが、市職員や市民から向けられる冷やかな視線が増えていることは事実だ。
 原因が思いつきばかりの市政運営にあることは言うまでもない。市役所ロビーの改装や2階建てバスの購入など、公約にもなかった施策には惜しげもなく億単位の公費を投じてきたが、福祉をはじめ市民の暮らし向きに関してはこれといった成果を上げていない。出張を繰り返し、市職員や市民との対話に十分な時間を割くこともなかった。
 じつはこの間、市役所の組織に重大な問題が生じていることを多くの市民は知らない。思いつき市政の裏で何が行なわれているのか・・・。いずれ詳細を報じることになる。



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