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議員秘書のひとりごと

2018年3月 1日 08:20

0009-20110408_h01-01-thumb-280x240-239.jpg 新聞やテレビでお目にかかる永田町の出来事は、ほとんど国会議員が主役。舞台裏を伝える報道も、政治家たちの動きを追ったものばかりだ。衆議院議員465人、参議院議員242人。政策秘書、第一秘書、第二秘書に加えて私設秘書と、議員の3倍以上はいる「議院秘書」の活動ぶりや思いは、彼らが“黒子”であるため表に出ることが少ない。
 HUNTERでは、新企画として永田町で働く現役議員秘書が綴る「議員秘書のひとりごと」をスタートさせる。秘書の仕事柄、出稿は不定期となるが、日本の政治を支える議員秘書の実態を知る機会になれば幸いだ。今回は、その第1回。
(写真は旧タイプの秘書バッジ)

■エレベーター        
 裁量労働制に関する厚生労働省の異常データ問題を巡り、厚労省から報告を受けた与党議員からは「消えた年金問題をほうふつとさせる」などと政府の一連の対応に批判が続出している。議院と乗った議員専用エレベーターの中で、与党の先生方が「年金の時に似てきたな」「厚労省、なにやってんだか」と声を潜めて話す。

 ちなみに、国会の裏にある衆議院第一議員会館、同第二議員会館、参議院議員会館に設置されたエレベーターは、一般用と議員専用に区別されており、議院に帯同する秘書が議員専用に乗ることもある。衆議院会館のエレベーターは第一も第二も9基。議員専用は3機だ。一方、参議院会館のエレベーターは12基もあり、このうち議員用が半数の6基を占めている。

 運用は衆参で違っており、衆議院側は年中「議員専用」であるのに対し、参議院会館のエレベーターは国会閉会中なら「議員優先」、開会中は「議員専用」となる。参議院だけ運用が異なるのは、最初は通年で「議員専用」だったが、陳情客からの「不便」「おかしい」という声を聞いて、参議院の秘書会が改善を要求した結果だという。たしかに、12基中6基も議員専用というのは異常だが、国民の声を汲み取って動いたのが政治家ではなく秘書だったということを聞いて、複雑な思いを抱いた記憶がある。そういえば、「議員専用」に固執していたのは、意外なことに旧民主党の議員だった。

■消えた年金
 さて、私はかつて「消えた年金」問題が発覚する前から、年金受給者から相談を受けていたので、問題の根の深さを理解しているつもりだ。
 昭和30年代に年金制度が始まった頃は、各自治体の職員がお金を徴収し、帳面にスタンプを押すなどの方法で各個人が保管していたという。だが、その年金徴収用のスタンプ帳を何十年も保管している人はわずかしかいない。お役所に間違いはないはずだと皆思い込んでいたからだ。

 話は変わるが、銀行や証券などの金融機関では「人間は間違いを起こす」ことを前提にシステムを作っている。
 入金や出金は職員2人以上の確認がないと行えないし、訂正や変更に関しては、2人のうち1人は役職者の印鑑か承認カードがないとオペレーションできないシステムになっている。何らかの間違いがあっても、遡れば必ずミスを見つけ出せるシステムである。

 ところがお役人の世界にはこの発想がなく、「役人は間違いを犯さない」ことが前提になっている。
 つまり金融機関と違い、一人の職員が入出金の手続きをし、変更や訂正までを行うことが可能なのだ。職員が何らかのミスをした場合(入金漏れや、氏名・住所の入力ミスなど)、これを放置すると何十年もたった後、年金受給資格者が申請をしても見つからない事態が発生する。遡って調べてみても見つかる可能性はきわめて低くなる。

 それなのに当時の安倍総理は「消えた年金問題、一年で解決します」と発言してしまった。
 私は元金融マンとして「最後の一人まで見つけ出すことは絶対あり得ない」と確信していた。
 この当時の政権にできることは、「矛盾なく説明できる全ての年金受給者に支払います」と言うべきだったと思う。中には不正受給する者も出るかもしれないが、長年に渡ってまともな徴収・支給システムを作ってこなかった役所、それと管理すべきだった国会議員に責任があるのだから仕方ない。ほかに方法がなかったのである。

■裁量労働制
 「裁量労働制」について首相が「一般労働者よりも労働時間が短いというデータもある」と答弁したが、答弁の根拠となった厚労省提出の比較データが不適切だと判明し、首相が答弁を撤回し、謝罪する事態となった。その後もデータの中に不自然な値が多数見つかっている。

 厚生労働省が的確なデータを持っていると思っている人が多いが、確実なデータを把握せず、寄せ集めのデータをくっつけただけのものが多いのが実態だ。例えば「日本の労働者の平均所得」を問い合わせても答えは返ってこないが、「サラリーマンの平均年収」なら出せるという。約430万円だと答えが返ってきたが、公務員や自営業者になると全くデータがそろわない。厚労省なんてこの程度なのだ。

 裁量労働制には、野党が主張するように「裁量労働制で勤務時間の制限がなくなると、長時間労働を強いられる」という側面がある。だが、それに対する政府の「裁量労働制で勤務時間は短くなる」という反論は、じつは的を射ていない。労働の「質」が向上し、生産性が上がるかという反論をすべきだった。
 裁量労働制に関して、厚労省が出してきたデータが正確かどうか以前に、「労働時間」のデータを出して反論したこと自体が間違っていたのだ。

 国会で議論されている「裁量労働制」は全く議論がかみ合わないどころか、何ら成果を上げる見込みもない。電通の女性社員の自殺事件のような、「ブラック企業問題」や、派遣労働者が奴隷のような扱いを受ける問題は、日本の曖昧な雇用者・労働者の契約関係から生じているのであり、日本型雇用慣行というのは、労働者を守ってくれるものではないのだ。 例えば、国会で「裁量労働制」が議論される際、人工知能が活躍する時代に雇用制度がどうあるべきかという話は全く出てこない。

 現在の「大量生産型の雇用制度」を大前提にして、労働時間が長くなるとか短くなるとかばかり議論するのは時代錯誤も甚だしい。気がついたときには、大量の失業者が発生しているかもしれない。 出産後の女性の社会進出を妨げている日本型雇用慣行にもメスを入れなければならないが、誰もそんな話はしない。

 安倍政権は「裁量労働制」の拡大を急ぐために、厚労省が出してきたデータをよく確認もしないで使い、謝罪に追い込まれた。だが、裁量労働制を削除するだけで、働き方改革法案自体を引っ込めることはない。
 一方、野党も反対一辺倒で押し通すだろうが、予算案がすんなり衆議院を通過したように、結局は問題を抱えたまま圧倒的多数を持つ「数の力」で安倍政権が法案を通すことになるだろう。また大騒ぎするだけで、いつものように無意味な国会審議が続く。

■余談
 あ、そういえば、国会議員の秘書という仕事は不安定なもので、議員が落選したら秘書も即、浪人だ。政治家の中には、秘書を自分の家の執事、使用人と思い込んでいる人が少なくないようで、理不尽な命令はもちろん、気に入らなければ平気で「クビ」を宣告する勘違いもいる。国会議員の公設秘書は公務員であり、そうした意味では国民に仕えている。すると、奉仕する対象は議員ではなく国民だろう。働き方改革は、ぜひ永田町からやってもらいたいものだ。



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