「これは首を賭けてもいい。 もし、中国と日本が軍事衝突をすれば、朝日新聞は100パーセント、中国の肩を持つ。 朝日新聞は日本の敵だが、そんな売国新聞を支えている朝日の読者も日本の敵だ》――。ツイッター上にそう投稿した作家の百田尚樹氏だが、この主張を裏付ける証拠は示されていない。
これまでも度々問題発言で物議をかもしてきた百田氏だが、彼が吠える時はいつも言いっ放し。激しい言葉で相手を誹謗・中傷し、間違いだと分かっても見苦しい言い訳を繰り返し、謝罪もしないというケースばかりだ。“恥”を知るのが日本人の美徳だとすれば、百田氏は最低の卑劣漢と言えるだろう。
かつて、そんな百田氏と同じ方向性で、朝日新聞などに卑劣な犯行を繰り返したグループがいた。「赤報隊」である。
■沖縄への誹謗中傷―背景に百田発言?
昨年12月7日、米軍普天間基地所属の大型ヘリ「CH53」の部品が、基地近くにある保育園の屋根に落下するという事故が起きた。沖縄県民は怒り、当然ながら地元紙である琉球新報と沖縄タイムスは大々的に事件を報じた。
これに対し、百田氏は同月12日、DHCテレビがネット上でライブ配信を行っている報道番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』で、「(部品落下も報道も)全部ウソ」「捏造。ほぼ間違いない」と断言。「誰かが古いキャップ(部品)を持ってきて保育園の屋根の上に置いた可能性が高い」とまで言い切った。米軍発表を鵜呑みにした暴論だったが、飛行中のヘリをとらえた映像などから米軍発表の虚偽が証明済み。同じ月の13日には、基地に近接する市立普天間第二小学校の校庭に米軍へりの窓が落ち、小学生がケガをするという“事件”が起きている。
問題は、虎ノ門ニュースでの百田発言以後、部品落下の被害を受けた保育園や小学校に、「(米軍機の窓落下は)やらせだ」「小学校のほうが後に作られたくせに文句をいうな」「沖縄の人間は基地がないと生きていけないだろう」「自作自演」「住むのが悪い」などといった内容の誹謗・中傷が寄せられたことだ。宜野湾市教育委員会に確認したところ、小学校あてにかかってきた誹謗・中傷の電話は、12月28日までに31件あったという(メールやFAXは未集計。現在は沈静化)。一連の流れからみて、政権擁護の極右が、百田発言に踊らされた可能性は否定できない。
百田氏は、「永遠の0」や「海賊とよばれた男」を著したベストセラ―作家。発言を信じる国民は少なくあるまい。同氏が「部品落下は捏造」と断言すれば、被害者であるはずの沖縄の関係者が、逆に批判される立場へと変わることもある。それを狙っての発言なら、百田氏の罪は重い。
■沖縄蔑視で“でっち上げ”乱発
安倍政権にべったりの百田氏にとって、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移転に反対する沖縄県民と沖縄メディアは、我慢ならない存在なのだろう。沖縄蔑視の姿勢は見苦しいほどで、“でっち上げ”をあたかも事実のように公言してきた。
2015年6月には、安倍首相に近い自民党の若手議員らが党本部で開いた勉強会「文化芸術懇話会」で、沖縄の地元紙が政府に批判的だとの意見が出たのに対し、「沖縄の2つの新聞(「沖縄タイムス」と「琉球新報」)はつぶさなあかん」と発言。「あってはいけないことだが、沖縄のどこかの島が中国に取られれば目を覚ますはずだ」と持論を展開した。米軍基地の存在を否定する沖縄メディアは、中国の手先という短絡的な思考だ。
今回の朝日への攻撃は《中国と日本が軍事衝突をすれば、朝日新聞は中国の肩を持つ》→《朝日新聞は日本の敵だが、そんな売国新聞を支えている朝日の読者も日本の敵》→《(朝日新聞は)マジで潰れてもらわないといけない》という流れで、沖縄メディアを誹謗した時と同じ論理構成。悪質なのは、いずれのケースでも、彼の主張の核が根拠のない作り話であるという点だ。
自民党の勉強会で百田氏は、米軍普天間飛行場の周辺状況について「もともと田んぼの中にあり、周りは何もなかった。基地の周りに行けば商売になると、みんな何十年もかかって基地の周りに住んで、40年経って街の真ん中に基地がある。そこを選んだのは誰やねん。地主は大金持ちで六本木ヒルズに住んでいる」などと“でっち上げ”発言。沖縄戦当時、米軍が“銃剣とブルドーザー”で飛行場用地を接収したことや、強制的に土地を割り振られ、基地周辺で暮らすことを余儀なくされた住民側の事情があったことなどを知らぬまま、沖縄蔑視の姿勢を露わにしていた。
この時の問題発言はまだ続き、沖縄で米兵による性的被害が多発してきたことについては「沖縄の全米兵が起こすレイプより、沖縄人のレイプの方がはるかに率が高い」――。米兵の分だけ被害が増えることに気付いていないだけでなく、日本人の犯罪がきちんと裁かれる一方、米兵は基地に守られ、多くの沖縄県民が歯噛みしてきたという歴史もまったく理解できていない差別的発言だった。知識もないのに平気ででっち上げを公言し沖縄の主要メディアを攻撃する手法――。まともな言論人がやることではあるまい。
■赤報隊
百田氏には、1987年の憲法記念日に起きた朝日新聞阪神支局襲撃事件に関して、「赤報隊」が出した犯行声明を読み直してもらいたい。
「われわれは日本国内外にうごめく反日分子を処刑するために結成された実行部隊である一月二十四日の朝日新聞社への行動はその一歩である。これまで反日世論を育成してきたマスコミは厳罰を加えなければならない。特に 朝日は悪質である。彼らを助ける者も同罪である」
赤報隊の犯行は朝日新聞名古屋本社寮襲撃、同静岡支局爆破未遂へと続き、その後も敵の範囲を広げていく。
「リクルートコスモスは 赤い朝日に何回も広告をだして 金をわたした。今日 都内南麻布でリクルートに警告した。一か月たって 反日朝日や毎日に広告をだす企業があれば 反日企業として処罰する」
「貴殿は総理であったとき靖国参拝や教科書問題で日本民族を裏切った。今日また朝日を処罰した。つぎは貴殿のばんだ。もし処刑リストからはずしてほしければ 竹下に圧力をかけろ。」
気に入らないものを脅し、痛めつけ、排除し、抹殺しようとする発想には歯止めがきかない。歴史をひもとけばそんな例は枚挙にいとまがない。百田氏が、自説に批判的な相手を否定し一方的に攻撃する姿勢は、赤報隊と同じ。「永遠の0」の中で彼自身が批判的に描いた戦中の軍上層部の思考とも通底する。でっち上げと暴言に終始する百田氏が、本当にベストセラー小説の作者なのか――。疑わざるを得ない。