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18歳選挙権 学び舎覆う新たな闇
ある教師の独白

2015年10月15日 08:15

安保法 成立 今年6月、選挙権年齢を現在の20歳以上から18歳以上に引き下げる改正公職選挙法が国会で成立。来年夏の参院選で、18、19歳の約240万人が1票を投じることになった。
 18歳といえば高校生。授業で選挙のことが取り上げられることになる。参院選で安保法の是非が争点になるのは確かだが、教育現場では、安倍政権による法律制定までの過程をどう扱うのか?生徒、教員、保護者らに話を聞くなか、ある高校教師が匿名を条件に現在の思いを語った。
 HUNTERは、選挙年齢引き下げで変わる教育現場の様子を長期にわたって伝えていくが、今回はその2回目。以下は、公職選挙法改正に苦悩する教師の独白である。(参照記事⇒「18歳選挙権 授業で問われる戦争法案」)

教育現場に影落とす改正公選法
 学校は社会の鏡とはいえ、昨今、複雑化する現代社会における諸問題の解決を、何もかも学校に求めるかのような風潮があります。ITの発達とグローバル化する社会の要請から、情報教育や英語教育の改善が求められ、さらには家庭の問題のケアまで学校現場に求められる有り様です。めまぐるしく変わる学習指導要領や文科省の方針にも振り回され、教師は多忙に追われるばかり。勤務時間外が、月100時間を超える者も珍しくないといった状況があります。

 そうしたなか、今年6月に選挙投票年齢の18歳への引き下げが国会で決まりました。唐突な公選法改正が、学校現場に影を落としているのは言うまでもありません。安保法案同様、十分な議論や検討、シミュレーションなどなされないまま、“えいやーっ”と力づくで通された観がありますが、生徒・教師はもちろん、国民全体にとっても切望された法改正では決してなかったと言えるでしょう。教育現場に戸惑いが大きいのは当然です。

文科省指導に疑問
 教師は公平・中立を旨としています。歴史教育で近現代の教育が「不十分である」、「あまりなされていない」と批判されますが、これは既に以前から公平・中立の名のもとに、教師が配慮・委縮しているからに他なりません。たいていは自主規制です。

 法改正にともない、選挙や政治について、地歴・公民分野のみならず、広く多面的に教育を行うようにとの通知が来ています。一方の側を強調しすぎたり、一面的な見解を述べたりなど、偏った取扱いにならぬように指導することを求められますが、それこそ教師は委縮して、何もできなくなる恐れがあります。国は、教師に裁判所のようなバランスの取り方を求め、骨抜きの当たり障りのない議論をしろと言いたいのでしょうが……。

 私は、教師なら本音で生徒とぶつかるべきだと考えてきました。役所の窓口のように、立場で物を語ることはできません。仮に心にもないことを言ったり、体裁を整えるような嘘をついたりしようものなら、教師は簡単に見透かされて、二度と生徒との信頼関係を取り戻すことはできません。

 生徒の主体性を重視した積極的な問答学習、いわゆる「アクティブ・ラーニング」を文科省は推奨してきました。そこでは、結論を出すところまでの深い議論を求めています。しかし、政治教育については、結論を出すよりも結論に至るまでの議論の過程が大切である、などとお茶を濁しているのが現状です。つまり、中途半端。結局は生徒のやる気をなくすことになるでしょう。

 教師がいくら制限をしようと、生徒はスマホやパソコンを通して、多種多様なニュースや情報を得ています。教師の見え透いた配慮は、簡単に見抜かれてしまうのです。高校生ともなれば、架空の“ごっこ”話には興味を示しません。生徒は生の、リアルなものを、真実を希求するからです。国の都合で指導要領を変えても、生徒は物事の本質を見極めようとするはずです。安保法に関する政権の主張を、生徒がどう判断するでしょうか?

頭悩ます公選法の解釈
 制度改正によって、生徒も教師も公選法で処罰される可能性が出てきました。少年法との絡みも伏せたまま、いかほどの罰則になるかも周知されぬまま、脅しだけが先行しているようです。“選挙運動はできるが、アルバイトでやったら違反”。“戸別訪問は禁止されているが、地盤培養行為ならセーフ”――以上は選挙通に聞いた話ですが、こんなことまで教えなければならないのかと、正直ウンザリしています。ネット利用の選挙運動については、私たちだって知らないことばかりなんです。選挙がらみの話になれば、対象はまだまだ広がるでしょう。昨年、元大臣の女性政治家が、政治資金規正法違反に絡んで辞職しました。秘書や会計責任者が有罪判決を受けたのに、ご本人はのうのうと議員を続けています。生徒は「なぜ?」と聞いてくるでしょう。詳しく説明できるとは思えません。

どうする安保法の授業
 いちばん教師の頭を悩ませているのが、安保法であることは疑う余地がありません。私は、集団的自衛権や安保法を「違憲」だと捉えていますが、授業では政府の主張を軸に教えることが要求されるでしょう。ですが、生徒は必ず聞いてきます。「で、先生はどう思うんですか?」。全国の教師が、同じ悩みを抱えているはずです。国会議員には、なぜ拙速に公選法を改正したのか聞いてみたいところです。教育現場の苦労など、少しも考えなかったのでしょうが……。

 暴走する政権の前に、学問や言論の自由が、今や風前の灯火(ともしび)。安倍政権の姿勢を見ていると、政治が学び舎にまで介入する事態が憂慮されます。この国はおかしな方向に向かっている――本音の授業ができるなら、生徒にはそう話すでしょうね。やっぱり、処分ですかね……。



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