2020年東京オリンピックのメインスタジアムとして生まれ変わる「新国立競技場」をめぐり、事業を仕切る側とそれを監視する側で対立が生じている。前者は事業主体の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)、その監督官庁の文部科学省、そして都市計画に関わる東京都。対する後者は建築家、市民団体などだ。マスメディアもおおむねJSCらの計画には懐疑的な見方をしている。
7300億円とも言われる予算を投じる東京オリンピックは、今後の東京都政を左右する問題でもあるだけに、いい加減な計画は許されないが・・・・・。
(右が「新国立競技場」のイメージ図)
計画見直しの火に油を注いだのは
本件の経緯を簡単に整理しておこう。1964年東京オリンピックに合わせ、現在の国立霞ヶ丘競技場が完成。老朽化や国際基準に合わなくなったため、11年ころから建て替え案が浮上した。そして12年2月、国立競技場全面建て替え基本構想がJSCから打ち出された。
同年11月、新国立競技場デザイン案を選ぶ国際コンペで、建築家の安藤忠雄氏を委員長とする審査委員会が英国建築家のザハ・ハディド案を選出。高さ70メートル、延べ床面積29万平方メートルの威容を誇るこの建築案に対し、国立競技場に隣接する東京体育館を設計した建築家の槇文彦氏が13年9月、「景観を守るためにもこんな巨大な建築物はおかしい」と訴えた。
ここから疑問百出の事態となるのだが、そもそもなぜ1年間もこの問題が放置されてきたのか。要因はいくつか考えられる。
見通せていない長期コスト
計画に疑問を持つ人々の関心事は、どれだけの税金がこの事業に投入されるかだ。新国立競技場の建設予算は1,300億円、3,000億円、1,800億円と二転三転。13年12月には1,700億円となったが、結局、当初より400億円もアップしている。これを見る限り、文科省もJSCも100億円単位の税金をいともたやすく扱い過ぎだ。
折しも今年4月から消費税が8%となり、家計の負担がますます重くなる。1,000円、1万円のやりくりを考えなければならない一方で、こんなことがまかり通るのはおかしいと思うのが普通の市民感覚だろう。
また最低でも50年使うことを考えれば、それくらいのスパンで管理運営の長期コストを考慮すべきだろうが、おそらくJSCらはそこまで考えきれてない。
新国立競技場にはサブトラックは常設されない。陸上競技場として使うにはサブトラックが必須にも関わらず、現時点では仮設にするという。この問題を追及する「自民党無駄撲滅プロジェクトチーム」の座長である河野太郎衆院議員のブログによれば、JSCなどの見通しでは1回敷設するごとに14億円以上の予算が必要だそうだ。
さらに148億円かけて設置する開閉式屋根の維持費も、長期的にはいくらかかるか分からない。JSCらは年6,000万円と試算しているようだが、30年後に改修工事が必要だと考えると、年平均額がそれで収まるとも思えない。
国と都とJSCの調整をどうするのか
実は予算負担の按分も曖昧模糊としている。13年末には文科省が都に500億円負担するよう要請したという情報が流れたが、明確に決まっているわけではなさそうだ。
問題を複雑化しているのは、「国立」競技場という建物は国(文科省)の予算で、一方の周辺整備を含む都市開発は都の予算という、国と都の対立が背景にある。しかも猪瀬直樹前東京都知事が電撃辞任したことで、両者の調整役が不在となってしまった。
そこで浮上してきたのが「2020年東京オリンピック大会組織委員会会長」に選ばれた森喜朗元首相だが、そもそも彼は新国立競技場建設を推進する「国立競技場将来構想有識者会議」メンバー。同時に、日本ラグビーフットボール協会会長でもある。一方、現JSC理事長の河野一郎氏は、同協会の元強化推進本部長。「森氏の右腕」と評されている人物だ。森氏が国と都とJSCを、「都民の立場」で調整する可能性は低い。
やはり、その役割は新都知事に期待するほかなさそうだ。