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レンタルオーナービジネス「WILL」の闇(上) 蠢くジャパンライフの残党

2018年11月30日 07:45

ウィルホン.png マルチ商法で悪名を馳せたジャパンライフ社が2400億円という巨額の負債を抱えて破たんした。「ネットワークビジネス」と一見シャレた名前で呼ばれるようになった「マルチ商法」が、日本社会の奥深くまで根を張っているという現実がある。
 20年以上続く低金利政策の影響もあって、FXなど素人を対象にしたプチ投資市場は拡大している。長くなった「老後」への不安から蓄えを少しでも増やそうと、友人・知人をセミナーに勧誘し、気が付けば借金を抱えたまま孤立無援状態に陥る高齢者も多い。
 そうした実例の一つとみられる『willfon』を展開する「WILL株式会社」について、告発を受け取材した。

■深夜のファミレスで見慣れた光景――SNSで発展するネットワークビジネス
 大企業の内部留保が増える一方なのに対し、従業員の給与水準は低く抑えられたまま。アベノミクスで日本経済は活況を呈しているはずなのに景気の良さを体感できない、いわば“アベノミクス難民”とでも呼べそうな低所得層が、わずかながらの給与を少しでも増やそうと「不労所得」の甘い響きに誘われて手を出すことの多いのが、ネットワークビジネス(マルチ商法)だ。投資ブームの隙間を縫って勢力を拡大してきたネットワークビジネスだが、一部の富裕層が確信犯的に参入することはあるものの、そういった層は早期に利益を確定させたうえで素早く手を引く余裕がある。ネットワークの破たんで損をするのはいつも貧乏人――この構図はジャパンライフ社の破たんでも同じだった。

 米国発祥のマルチ商法は、先輩ディストリビューター(販売権者)が華やかな生活を見せつけたり、必要以上に前向きなポジティブ発言で会員を勧誘することが多い。夜のファミリーレストランでよく見かける、「分厚いルーズリーフの資料を開きながら、目を血走らせてまくしたてる男」と、「その男の前で居心地悪そうに下を向く気弱そうな若者」2人組(もしくは2対1など)の光景は、ほとんどがネットワークビジネスの勧誘現場だ。

 SNSが普及した近年は、FacebookやTwitterなどで、華やかにみせかけた日常生活の様子を頻繁に公開し、「~を始めれば、あなたもこんな豪華な生活ができる」などと勧誘することも多くなっている。不特定多数に対して手軽に情報を発信できる下地ができたという意味では、SNS社会はネットワークビジネスの隆盛に一役買っていると言えよう。

 ネットワークビジネスは、有名タレントや政治家などを人寄せパンダに使ったセミナーや講演会などで人を集め、会場を盛り上げて対象者の気分を高揚させたうえで、一気に契約させるのも特徴だ。ジャパンライフ社の勧誘方法がかつて国会で「集団催眠勧誘大会」と批判を浴びたように、冷静に考える時間や余裕を与えないという点では前述ファミレスの圧迫面接と同じ心理ゲームといえる。

■時代錯誤な「テレビ電話」をレンタル?――実体は中国製SIMカード
 破たんしたジャパンライフ社は、日本社会に巣食うマルチ商法のほんの一端にすぎない。取材班は、ジャパンライフ社の“懲りない面々=元社員”らからなる「残党」が、新たなレンタルオーナービジネスの根城としている企業について取材を進めてきた。きっかけは内部告発である。

 ジャパンライフ社でも役員を務めた新間寿氏が相談役を務めるその企業は、WILL株式会社(東京都渋谷区/2015年10月設立)。法人登記に名前はないものの、実質的オーナー(会長)とみられるのは「大倉 満」という人物で、大倉氏は自身が代表取締役を務める株式会社WORLD INNOVATIONの取締役・本田欽也氏をWILL社の取締役に送り込んでいるという。

 新間氏は新日本プロレスの専務取締役などを歴任した、プロレス界では「過激な仕掛人」の異名で知られる有名人だ。一時期、アントニオ猪木参院議員と近く、スポーツ平和党で幹事長も務めたことから政界、官界に広い人脈を持つとされるが、実態は定かではない。「引退した有名レスラーを呼べる程度の人脈しかないのに、自分を大きく見せることには長けた人物」(プロレス誌記者)というのが実像に近いのではないか。

 大倉氏はWORLD INNOVATION社の前身、「ドリームバンク」社時代の2011年に神奈川県警(海老名警察署)から詐欺罪などで家宅捜索を受けており、それについての大倉氏の反論文が月刊『WILL』(ワックマガジンズ)に掲載されるという、奇妙なできごともあった(当時の編集長は、『週刊文春』の元編集長・花田紀凱氏)。

 WILL社が展開しているのはジャパンライフ社と同様のレンタルオーナービジネスで、今年10月の国内売上は約50億円にのぼるとみられる。巨額の売上を生みだすビジネスモデルは拍子抜けするほど単純な反面、時代錯誤にも感じられる不可解なもの。客はまずWILL社から「テレビ電話」(実際は「SIMカード」/後述)を購入したうえでWILL社に送り返し、WILL社はそれを海外在住の日本人にレンタルし、そのレンタル料を客に還元することで「3年間で120%の利益を保証する」のだという。

 いまどき、中・高生ですらSkypeなどの通話ソフトで無料国際通話に親しんでいる時代に、テレビ電話の需要があるとは到底思えないが、じつは「テレビ電話」という形のある商品を売ることは、法律で禁止されている「ねずみ講」(商品を媒介せず「会費」のみ)との違いを明確にするために重要なのだ。

 「客が購入して受け取る→送り返す」という無意味な手間をかけているのも、実際に商品の移動があるとみせかけるためのトリックの可能性がある。というのも、売買の対象となっているのはじつはテレビ電話本体ではなく、原価すら不明のSIMに似た小さなカード(中国製)だからだ。WILL社はこのカードと「willfon」なる機器をつなぐことで日本のテレビ番組(違法コンテンツも含む)を海外で視聴できる、と謳っている。

 購入者は送られてきたテレビ電話8台分のカードをレンタル依頼申込書とともに『開封せずに』そのままWILL社に送り返し、WILL社はそれを海外のレンタル客に送っているとしている。しかし、かつてWILL社に在籍した関係者は「それらのカードはほぼレンタルされることはなく、事務所の片隅に放置されていた」と証言する。上司から「(カードを)開封するな」と指示を受けていた従業員もいることから、問題のカードが実際になんらかの機能を持っているのかすら疑わしい。

 「購入客はテレビ電話が世界で何十万台もレンタルされていると信じ込んでいますが、実態はほぼゼロ。ジャパンライフ社ですら10%台だったレンタル率が、WILL社の場合は1%にも満たず、内部資料にある数字では、ハワイ800台、フィリピン2000台、ロス1000台、タイ800台、トロント800台。総数で4~5千台程度です」(元社員)

 「〈設置料〉と呼ばれる顧客への支払い金だけで毎月20億円以上になっており、存続するために自転車操業するしかないのはジャパンライフ社と同じ構図です。WILL社ではジャパンライフ社の元社員が2年ほど前から増え始めており、そのころから売上が伸びている。ジャパンライフ社で使われていたのと同じ名簿を使って拡販している可能性が高い」(別の関係者)

 時代おくれのテレビ電話が売れるはずがないのは誰の目にも明らか。WILL社はすでに、テレビ電話(カード)の売上をレンタル料にまわす自転車操業状態に陥っており、すなわち購入者数が増えなければいつ倒産してもおかしくない状態にあるとみられている。

 消費生活について苦情や相談を受け付ける独立行政法人国民生活センターには、テレビ電話を商品とするレンタルオーナー契約についての相談が複数件寄せられている。被害者の拡大を懸念する消費者庁は今年9月から10月にかけて、WILL社を立入検査したという。取材班は立入検査について確認するためWILL社に対して再三取材を申し込んだが、「対応する」としたままいっさい連絡がなかった。

 消費者庁はその後も関係者への聞き取り調査を進めており、さらに国会関係者がWILL社の調査を始めていることもわかっている。早ければ年内にもなんらかの処分が下る可能性があり、師走を前にWILL社周辺は慌ただしさを増している。

■HPには記載のない「連鎖販売取引」でセールストーク
 WILL社は、テレビ電話のレンタルオーナー契約について、別の契約者を紹介すればそのマージンも得られるというマルチ商法で販売網を拡大してきた。ジャパンライフ社と同じ構図だが、WILL社のHPではそのことにいっさい触れていない。

〈WILL社HPに掲載された「事業概要」〉
① willfon(インターネット回線を使ったTV電話)、② willfonホーネットエブリィ(willfon経由で家電を遠隔操作できる高機能学習リモコン)、③ みてルン(映像通訳?)、④ 訪問看護ステーションWILL、⑤ Reflex恵比寿の間、⑥ みるフォンプロモーション(芸能事務所)

 どれも事業内容の説明があいまいで、実際に行われているかも不明な「事業」なうえ、テレビ電話を商品としたマルチ商法であることはどこにも書かれていない。国は連鎖販売取引を行う事業者に対して厳しい規制を課しており、『特定商取引に関する法律』で「連鎖販売取引についての広告」(35条)について定めているが、事業としてマルチ商法であることを表示していない以上、同法が定めた「商品又は役務の種類」「当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項」などの表示義務はない、と言いのがれるつもりなのだろう。しかし、取材班はWILLの営業拠店を取材した際、堂々と「連鎖販売取引」を名乗って勧誘を行っている実態をつかんでいる。

――(取材の音源から一部を抜粋)――
 記者:御社はどのようなビジネスをおこなっているのか。
 WILL社:お客さまには、当社で開発した「willfon」という、電話機の中にあるSIMカードのようなものを購入していただきます。そして、一度購入された商品をまたWILL社にレンタルするという形で送り返していただき、海外のホテルなどに置かれているさまざまな種類のwillfonを、海外出張した日本人や永住している日本の方々に提供して、その使用料をお客さまに「レンタル料」としてお支払いさせていただくかたちになっております。

 記者:購入料金と、それで得られるレンタル料金はいくらか。
 WILL社:ライセンスパックがひと箱に8台入っているものと、4台入っているものがございまして、8台の場合は59万6,160円でご提供させていただいております。レンタル料金は36回に分けて総額72万円を支払わせていただきます。

 記者:これはレンタルオーナー契約になるのか?レンタルオーナー契約だと、企業が途中でつぶれて元本が戻らないこともあるが、そういった心配はないのか。
 WILL社: はい。レンタルオーナー契約ですが、その心配は特にいらないです。大丈夫です。

 記者:申し込むにはどうしたらよいのか。
 WILL社:お住まいの近くの会場で開かれるセミナーなどに参加していただければ、詳しい話を聞くことができます。説明責任者から詳しい内容を説明させていただきます。

 記者:WILL社に知人や友人などを紹介するとマージン(儲け)などがあるのか。
 WILL社:こちらは連鎖販売取引というかたちをとらせていただいております。ご契約をされた後に勉強会に参加していただき、その後に他の方をご紹介していただくと、その分のお金が入ってくるかたちをとっています。具体的には1人紹介すると4万円、紹介したご友人が別の方を紹介すると、さらに1万円が入ってくることになります。ご友人を紹介ができれば元本は取り戻しやすいしくみですね。


 WILL社の営業担当者が勧める「セミナー」こそ、同社のビジネスの根幹をなす「大勧誘大会」だ。セミナーでは「人寄せパンダ」よろしく、タレントのコンサートや政治家の講演会などを開催するのがセオリーだという。次回は、WILL社に群がった芸能人の実名とともに、悪徳商法を取り締まる側の山口県警が、WILL社の会員勧誘を後押ししていた疑惑についても報じる。

(以下、次稿)

「WILL社」の広告塔に、初代タイガー・佐山聡氏や米米CLUB・石井竜也氏(下)



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