来年4月に行われる統一地方選挙まで残り半年を切り、福岡市でも朝夕、街頭活動に精を出す立候補予定者の姿が目立ち始めた。
そうしたなか、福岡2区の稲富修二衆院議員(国民民主党)が、最大地盤の南区で県議・市議候補の複数擁立を決め、有権者から「2人当選の見込みが薄い」「誰を支持したらいいのかわからない」「つぶし合いになるのでは」といった不安の声があがっている。一体何が起きているのか――。
(右の画像は稲富議員の公式HPより)
■党広報紙と後援会報で別の県・市議候補と握手
混乱を作り出しているのは昨年10月の衆院選福岡2区で大接戦の末、比例復活で当選した稲富修二衆議院議員。稲富陣営は、福岡2区(中央区・南区・城南区)のなかでとくに支持基盤が厚い南区において、現職の地方議員や新人の候補予定者と固く握手を交わす写真を掲載した2種類の広報紙を配布している。
下の画像は、南区で配布された国民民主党の広報誌「国民民主党プレス号外『みなみく』」。稲富氏と固い握手を交わしているのは、ともに南区選出の福岡県議会議員・大田京子氏(左)と福岡市議会議員・近藤里美氏(右)だ。福岡政界では数少ない女性議員として活躍する二人。広報誌には、今年6月に成立した働き方改革関連法に関する稲富議員のインタビューとともに、国政で大きなテーマになっている「働き方改革」について、県、市における女性活躍支援の取り組みについて紹介する内容を掲載している。「福岡市南区では、いなとみ修二衆議院議員(総支部長)を先頭に、大田京子県議会議員、近藤里美市議会議員の3名が連携して、『南区から変える』を合言葉に引き続き、活動してまいります」と書かれている。
一方、次の画像は、いなとみ修二福岡事務所が発行した「衆議院議員いなとみ修二 INA NEWS」。いわゆる後援会報だが、「みなみく」とほぼ同時期に配布されていた同紙では、「いなとみ修二の新しい仲間」として、稲富氏主催の政治塾出身の荒武みるき氏(左)と那珂川町(現・那珂川市)の元町議で現在は、稲富氏の公設秘書を務める森田俊文氏(右)が固い握手を交わしている。両名のプロフィールの写真には、荒武氏=「県政を改革」、森田氏=「市政に新しい風」とのキャッチコピーがあり、有権者に来年4月の統一地方選を意識させる内容となっている。
■無謀な複数擁立に冷ややかな目
国民民主党の支持率が0%台に低迷するなか、県議選や市議選の同一選挙区に複数の候補を擁立して、勝てるのか?この質問には、国民民主の関係者も首を横に振る。
「複数当選?無理。絶対無理。無謀だ。良くて一人。下手すれば共倒れだ。市議選や県議選は地元地域との“しがらみ”がモノを言う。衆議院議員の都合で新人を出馬させても、浸透するのは容易ではない。一番の問題は県議選南区での2人擁立。県議選は市議選より所属政党の党勢が影響するから、国民民主の当選自体が難しい。大田さんを根気よく育てるべきだったのに、それができないのは彼に器量がないから。わがままが過ぎる」
県議選の南区選挙区は定数4。自民2、公明1、旧民進系1が指定席になっている。自民二人はいずれも議長経験者で、強固な地盤を誇っており、公明の1議席も盤石とあらば、どうあがいても国民民主系で2人当選は不可能なのだ。
しかも、大田氏は稲富氏が見出した子飼いの地方議員。その大田氏が苦戦することが目に見えているのに、なぜ、稲富氏は無理を通そうとしているのか――。ある県政関係者は、こう解説する。
「稲富氏は、意に沿わない現職の大田氏、近藤氏に腹を立て、新たに荒武氏と森田氏を擁立するつもりだ」
稲富氏は、前回行われた党一地方選の南区選挙区で、副議長まで務めた福教組出身の県議に民主党公認を与えず落選させた。その時の県議選で、公認を与えて初当選させたのが大田氏だ。今度は自分が擁立した現職の大田氏に、刺客を差し向けるという異常な構図――。他党の県議会議員は、「地方議員は、地域の代表として議員活動に専念して党勢拡大を図り、支持基盤を固めるのが仕事だ。国会議員の駒ではない」と稲富氏の行動を冷ややかに見ている。
統一地方選の南区選挙区で、同じ稲富陣営の県議候補である大田氏と近藤氏、市議候補である荒武氏と森田氏が激突する公算が高い。南区における国民民主系の県議、市議の現有議席はそれぞれ「1」。つぶし合いが繰り広げられれば、同区における稲富氏の支持基盤が弱体化することも考えられる。支持率0%台の国民民主党の中で、争っている場合ではないと思うが……。