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警察OBが天下りのジャパンライフは「官邸案件」?
亀井静香元衆院議員のパーティー券を大量購入の過去も

2018年11月15日 09:35

20181115_h01-01.jpg マルチ商法まがいの「ビジネスモデル」が問題となっていた、ジャパンライフ株式会社(東京都千代田区)をめぐる捜査が本格化する可能性が出てきた。破産手続き中の同社は、11月12日に第1回目の債権者集会を開いたが、出席した山口隆祥会長が「誤解だ!」とキレる場面もあるなど、全国で7,000人(負債総額約2,400億円)を超えるとみられる被害の全容解明にはほど遠い状況だ。すでに全国で被害弁護団が結成されており、告発を受けた警視庁などでは詐欺罪や預託法(特定商品等の預託等取引契約に関する法律)、特定商取引法違反の疑いなどで捜査を進めている。
(写真は千代田区のジャパンライフ本社ビル)

■山口隆祥会長は札付きの「マルチ男」
 ジャパンライフが全国展開していたのは、同社が「レンタルオーナー契約」と呼称していた「預託商法」。顧客に磁気治療器などを購入させ、別の顧客にレンタルさせることで収入が得られるとしていたが、冷静に考えてみれば、レンタル料を払ってまで垢ぬけないデザインの「磁気入り衣類」を着るお人好しがいるはずもない。実態は、商品を購入させることで得た出資金を元にレンタル料を支払う「自転車操業」だったとみられており、2017年3月期末には約338億円の債務超過に転落していたにもかかわらず、事実を隠して勧誘を続けていたという。

 しかもこのシステムは、いわゆる「ねずみ講」のように、顧客を勧誘することで配当が得られる仕組みもあるため、消費者庁は特定商取引法の規制対象となる「連鎖販売取引」と認定していた。行政処分や罰則も伴う規制の対象になっており、要するに典型的な「マルチ商法」だったのだ。

 そもそも、創業者の山口隆祥会長は80年代に社会問題化したマルチ商法でも名前があがったことのある、札付きの人物だった。ジャパンライフの破綻は、ねずみ講からマルチ、そして現在は「ネットワークビジネス」と呼称を変えながら、不労所得の甘い響きで友人関係や親族関係をズタズタに切り裂く「悪魔のビジネスモデル」が深く日本社会に根をはっている現実を示したともいえる。

■警察と政界に深く食い込んだジャパンライフ
20181115_h01-02.jpg マルチ商法時代に警察権力の恐ろしさが身に染みた山口会長は、あえて警察や政権中枢に近づくというやり方で延命をはかってきた。まずは取り締まる側の人間を「用心棒」として迎える、「天下り」システムを利用した手法だ。

 山口会長が後任社長に迎えたのは、同じ群馬県出身で元警察官僚の相川孝氏(京都府警察本部長、中部管区警察局長を歴任/2008年に死去)。相川氏は一時期、マルチ商法などの悪徳商法を取り締まる警察庁保安課長を務めたこともあり、あまりにも露骨だ。警察官僚ではほかに元関東管区警察学校教務部長で、1981年2月から翌2月まで北海道警旭川方面本部長を務めた神田修道氏(1990年死去)を組織部取締役部長(後に常務)、山形県警本部副本部長だった佐藤恒夫氏を代理店指導部長に迎えている。

 警察官僚の大物OBである亀井静香衆院議員(自民党政調会長、元建設大臣などを歴任)とジャパンライフ社の関係も深い。2010年に亀井静香後援会が開いた政治資金パーティー、第6回「日本をどうする」セミナーでは、ジャパンライフ社から60万円が支払われている(画像参照)。ジャパンライフ社の関連団体の幹部には警察庁だけでなく内閣府や経産省、消費者庁などのOBの名前もあり、主に高齢者が老後のために蓄えた資金が、倫理観なき官僚に退職後のお手当としてバラまかれていた。

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 汚れた金に群がってきたのは官僚だけではない。ジャパンライフ社は「健康産業政治連盟」を設立し、顧客や販売会社から吸い上げた金を政治献金として多くの国会議員にばらまいてきた。かつて国会質問で名前があがっただけでも、「大勲位」中曽根康弘元首相(山口会長と同郷)、故・山口淑子参院議員、村上正邦元参院議員、故・二階堂進自民党幹事長、山口敏夫元衆院議員など、ある意味懐かしい有名議員の名前が並ぶ。

 政界工作は過去の話ではない。ジャパンライフ社が顧客獲得の際に使うパンフレットや商材には政治家や有名人の名前が並んでいるが、それらは現在も「集団催眠勧誘大会」(1985年の第103回国会商工委員会流通問題小委員会における指摘)の小道具として抜群の威力を発揮しているのだ。

 日本共産党の大門実紀史参院議員が入手したジャパンライフ社の「お中元リスト」には、安倍首相を筆頭に麻生太郎財務相、菅義偉官房長官、茂木敏充経済再生相らアベ友の名前が並んでいる。現内閣の一員で、ポスト安倍にも名前のあがる加藤勝信自民党総務会長は宣伝チラシにまで登場しているというから、マルチ商法=ジャパンライフ社が「官邸銘柄」だと認識されてもしかたあるまい。

 ジャパンライフ社をめぐる疑惑については、かねてから消費者庁の処分の遅いこと、警察による捜査がなかなか進まないなどの指摘が相次いでいた。官邸から横やりが入っていたのであれば当然大問題だが、ジャパンライフ社の関係者リストに委縮した捜査当局に何らかの政治的判断、「忖度」が働いた可能性も捨てきれない。公文書改ざん問題で板挟みになって自死した官僚、さらに国会でさらし者になっても官邸を守った佐川宣寿前理財局長の姿――官邸に逆らうことの怖さに加えて恭順することのうまみも知る彼らは、自分を守る危機管理能力だけは折り紙つきなのだ。

 前出の商工委員会流通問題小委員会(1985年)で質問に立った、共産党の故・藤田スミ衆院議員はこう発言している。

「こういうことは、政治家がちょっと頼まれたから気軽にやったという性質のものでは決してなく、明らかにジャパンライフ商法、詐欺商法の柱の1つに政治家が位置づけられ、政治家もまたその役割をはたしていた」

 まさにマルチ商法と政治家・官僚を結ぶネットワークの本質を突いた問題提起であり、30年以上経ても経年劣化しない鋭い指摘に、言葉を詰まらせる「心当たりの輩」は多いのではないか。権力の中枢にあるアベ友議員であればなおさら「知らなかった」ではすまされるはずはない。「自己責任」とは紛争地に赴くジャーナリストに向けられるべき言葉ではなく、疑惑の渦中にある権力者に向けられる、説明責任と同義的に使われる鋭い槍であるべきだ。



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