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九州の女性県議・市議で在任中の出産はたったの「2例」
緒方夕佳・熊本市議は「肥後のローザ・パークス」か

2018年10月 5日 09:30

熊本議会.png 赤ちゃんを抱いた女性を取り囲む、スーツ姿の「おじさん」たち。おじさんたちは眉間にしわを寄せ、なにか怒っているようにも見える――2017年11月22日の熊本市議会本会議の定例会を、たった1人の赤ちゃんが混乱に陥れた。緒方夕佳(ゆうか)市議(42)が生後7カ月の長男を抱いて議場に入場したために、開会が約40分遅れたのだ。議長側は「(傍聴人は)いかなる事由があっても議場に入ることはできない」とする規則を盾に同伴を認めず、同月29日の議会運営委員会で文書での厳重注意が決まった。
(右は乳児を抱いた緒方議員が、男性議員に囲まれる写真。SNS経由で海外でも拡散した(Twitterより)

■議員在任中の出産は、たった「2例」
 「乳児同伴議会」は全国ニュースにもなり、緒方議員は一躍「お騒がせ地方議員」として名前を知られることになる。海外メディアが伝えたことなどもあって、先進国中で異常に低い女性議員比率とも合わせて「前近代的な日本の議会」などと批判が相次いでいた。
 今年9月28日には、登壇した緒方議員が、「咳を止めるため」(緒方議員談)にのど飴を口に入れていたことがわかって議会が紛糾、「8時間も議会が休止した」と、またも全国ニュースになっている。

 緒方議員が、「乳児同伴」を根に持つ議会運営側に狙い撃ちされているようにも見えるが、本稿では「のど飴答弁」はいったん置く。緒方議員が「いまの議会は男性中心」と訴える背景を探るため、HUNTERでは九州各県の県議会と県庁所在地の市議会、さらに北九州市と久留米市を加えた18の議会にアンケート調査を行った。主な調査内容は3つ。下の表が、その調査結果だ。

(1) 議会所属の女性議員で、「在任中に出産」した例はあるか
(2) 現在の議会における女性議員の比率と議員の平均年齢、さらに女性議員のみの平均年齢
(3) 議員の出産、育児で支援制度はあるか(育休、産休、託児所、授乳室、院内保育所など)

表.png

 まず驚かされるのは、そもそも女性議員が圧倒的に少ないという厳然たる事実。回答のあった議会の総議員数854人に対して女性議員は86人だけ、九州・沖縄の主要議会において女性議員比率はたった10%なのだ。ちなみに国会議員に限った女性議員比率では、日本は先進国中最下位の140位(13.7%)。韓国(121位/17%)はおろか北朝鮮(126位/16.3%)よりもずっと下が定位置だ(191カ国中: Inter-Parliamentary Union)。

 「議員任期中に出産を経験した女性議員」にいたっては、長い歴史を持つ地方議会でも、緒方議員の他に1人しかいない(北九州市/2005年10月)。議員の平均年齢はおおむね60歳程度で、最も若い那覇市議会でも51.9歳というウルトラ高齢社会だ。もちろん、議会がその社会の縮図だとすれば議員の高齢化は避けられないのだろうが、しかしそれでは各自治体における女性の割合がおおむね50%を超えているのにもかかわらず、女性議員が圧倒的に少ないことの説明がつかない。

 議員が出産した際の支援制度も、鹿児島市が比較的充実しているだけで、最も多い回答が「無し」というのは男尊女卑の国・九州の面目躍如か。税金が支払われていることを理由に「政治家は出産や育児に時間をとられるべきでない」とするなら、極論すれば女性は公務員になれないということになる。

■肥後のローザ・パークス?
 1955年に、米アラバマ州モンゴメリーで起きた「バス・ボイコット事件」(Montgomery Bus Boycott)。12月1日、当時42歳の黒人女性ローザ・パークスは、自分より後に乗車した白人のために「席をあけろ」と要求する運転手の命令に背いて白人専用席に座り続け、人種隔離法違反容疑で逮捕された。この事件はのちにアフリカ系アメリカ人の権利獲得を目指す公民権運動が米全土に広がるきっかけとなり、ローザはキング牧師やマルコムXと並んで「公民権運動の象徴」として知られることになる。

 しかし客観的な事実を見るならば、ローザの行為は「法律違反」だった。法律は議会を経て制定された民意そのものだとする多数決至上主義者に言わせれば、ローザの行為は単なる「違法行為」でしかないため、他の合法的取り組みを通して自身の考えを訴えるべきだったと糾弾する者もいたという(その中には当事者であるアフリカ系アメリカ人からの非難も含まれていた。緒方議員の行為を非難する女性も多い)。

 しかし現在、ローザの行為は称賛こそされ、非難する者などまずいまい。人種による隔離という残酷な差別法は本来「無効」なのであり、従う必要のない価値観だったというのは常識だ。「法律を守るべき」という「正論」が守ろうとしていたのが結局、既得権者(=白人)の利益だったことは歴史がすでに証明している。

 ローザの勇気を緒方市議の行為に重ねることは、的外れにすぎるのかもしれない。しかし、たとえば市民や県民のために立ち上がろうとする女性がいたとして、「在任中に子どもを産んだ議員はほとんどいない」という事実の前で立ちすくむ者はいないだろうか。あるいは議員の平均年齢が60代だと知って、「子育て世代の意見は反映されない」と、政治にそっぽを向く若い世代が増えはしないか。

 ローザの時と同じように、緒方市議に対して「議員なのだから、いくらでも持論を訴える場があるはずだ」「決まりは守るべき」ともっともな〝お説教〟をする者もいる。しかしどうだろう。緒方議員がトラブルメーカーになることで熊本市議会の閉鎖性や融通の無さはたちまち世界中に知れ渡ることとなり、女性議員が置かれた過酷な現実にも光が当たった。

 何を隠そう本記事を担当した記者(男性)こそ、緒方議員が巻き起こした一連のトラブルがなければ、地方議会の女性議員が「政治か、出産か」という究極の二択を迫られていることなど、まったく知らなかったことを恥を忍んで告白する次第だ。もっと正直に言えば興味すらなかった。男性としての利権を無意識に享受していた点では、ローザを糾弾した白人たちとなんら変わらない。

 そもそも正攻法でお行儀よく地方議会の異常性を追及しようとしたところで、一人会派では何もできないことなど、お説教の主(ほとんどが男性)がよくご存知のはずだ。緒方議員はたしかに議会を混乱させたかもしれないが、何十年かかっても実現しなかった「目を向けさせる」ことには成功した。
安倍首相は「政治とは結果だ」とうそぶくが、さて緒方議員は議会に乳児を連れて来ただけで、「地方議会の闇を照らす」という結果を実現してしまった。言に従えば、最優秀の部類に属する政治家の1人だということになる。

■女性の力で誕生した、新沖縄県知事
 9月30日の沖縄県知事選で玉城デニー氏が当選した要因に、女性票を取り込んだ強さがあったことはまぎれもない事実だ。対立候補の強固な支持基盤である公明票の4割が玉城氏に流れたとみられているが、この4割も含めて対立候補から流れた票のほとんどが女性票だったという分析もある。

 職場からのしめつけや「つきあい」で、嫌々ながらも指示された候補者名を書いた男性陣に対し、良心と直感に従った女性たちのしたたかな行動力が「新時代沖縄」の扉を開いたとも言えるわけで、那覇市議会の女性議員比率が調査した議会中で最大の22.5%なのも、象徴的な符合ともいえるだろう。

 福岡県内の議会事情を良く知る識者は、「小学校単位での地域活動に積極的に取り組むことで得られる実績がなければ、市議会での当選は難しい」「女性が政治を志す際に多い理由のひとつが『子育てがひと段落したから』というもの。逆に言えば子育て中にそんな余裕はないということだ」と話す。

 女性の社会進出を進めるためには、一つひとつていねいに、より具体的に障壁を取り除く必要がある。共働き率は上がっているのに育児や家事、さらに介護の負担まで女性に集中していること、保育所や託児施設が少ないこと、病児保育の預け先がないこと、子連れの女性が町に出る際に肩身の狭い思いをすること(ベビーカーや子どもが泣くことを迷惑がられるなど)……。要するに、子育て世代のニーズを正確にすくいあげるためにも、その世代の代表を議会に送りこむことが必要なのだ。

 男性がすべきことは2つある。積極的に女性の社会進出を支えるか、少なくとも邪魔はしないことだ。何よりも父親の影が薄すぎることが、女性の社会進出を大きく妨げている。育休なんてとれない、毎日残業で時間がない、俺のほうが給料が多いから妻が家事をすべきだ、等々。それらの事情を働く女性の前で口にするときは、「すべて、やらないための言い訳」と一刀両断されることを覚悟しておいたほうがよい。

 寛容と他者を支えるやさしさこそ「男らしさ」であり、「女はひっこんでろ」式権威主義はローザが立ち向かった人種差別同様に過去の遺物だ。「九州男児」とは決して、力こぶを誇ることではない。

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今年9月24日、ニュージーランドのアーダーン首相(38)は、生後3カ月の娘ニーブ・ゲイフォードちゃんを同伴し、国連総会の「ネルソン・マンデラ平和サミット」に出席して演説した。ニーブちゃんには国連外交官用のID(身分証)も交付され、「ニュージーランド・ファーストベビー」の肩書が付されていた(Twitterより)



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