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戦闘は宿営地のそば “駆けつけ警護”付与に疑義
南スーダンPKO 「戦闘」の実態(下)

2017年2月14日 09:00

2-南スーダン1-2.jpg 防衛省が公表した南スーダンPKO部隊の日報とモーニングレポートから、「戦闘」が自衛隊宿営地のすぐ側で起きていたことが分かった。宿営地に隣接すると見られるビルに戦車砲の着弾があったことも記されており、自衛隊員に犠牲が出る可能性を否定できない状況だったと見られる。
 安倍政権は昨年11月、戦闘の実態を隠し、PKO部隊に安保法に基づく新任務“駆けつけ警護”を付与。首相や稲田朋美防衛相は、現地の状態について「落ち着いている」「紛争ではない」などと虚偽の説明を繰り返していた。政府の方針に、重大な疑義が生じている。

宿営地隣のビルに戦車砲弾
 公表された南スーダンPKO部隊の「南スーダン派遣施設隊 日々報告」(以下「日報」)と上級部隊である中央即応集団司令部の「モーニングレポート」によれば、昨年7月7日から10日かけて、同国の首都ジュバで兵士や一般市民など百数十人が亡くなる「戦闘」が起きていた(昨日既報⇒≪南スーダンPKO 「戦闘」の実態(上)≫ 。

 激しい戦闘が行われた7月8日の状況について日報は、「大統領派約90名、副大統領派約37名、民間人約25名が死亡」したと記述。同日の事態を説明したモーニングレポートで、戦闘が行われた地域を地図上に明示していた。下がその地図である。

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 自衛隊の宿営地は、ジュバ国際空港に沿った一帯。地図上では右中上部に位置する。8日に戦闘が行われたのは、オレンジ色の楕円で示された部分。宿営地の目と鼻の先だった。10日の戦闘はさらに宿営地に近く、自衛隊にとって最も危険な事態だったことがモーニングレポート記載の次の地図で明白となる。

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 地図上には、「激しい戦闘」「車両への襲撃」「RPG着弾」「TK砲を射撃」などと記入してある。すべて宿営地の正面。それも数十~数百メートルの距離だったことが分かる。RPGとは対戦車用の武器。TKとは戦車で、TK砲は戦車砲を意味する。事象の概要をまとめたページには、より詳しい状況が記されていた(下、参照。グリーンの矢印とアンダーラインはHUNTER編集部)。

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 トンピン地区とは宿営地周辺の地名。ウエストゲートとは、宿営地西側のゲートを指す。つまり戦闘が行われたのは宿営地のゲートのそば。そこにロケットランチャーの砲弾が着弾し、戦車砲が火を噴いていた。記述中の「トルコビル」とは、宿営地ほぼ真横に建つビルである。そこに弾着があったということは、自衛隊宿営地への弾着に等しい状況だったことを意味している。自衛隊員の目前で、戦闘が起きていたということだ。「巻き込まれに注意が必要」(日報の記述)どころの騒ぎではなかったと見られる。

間違いだった「駆けつけ警護」付与
 安倍内閣は昨年11月、南スーダンのPKO部隊に、安保法に基づく新任務「駆けつけ警護」を付与することを閣議決定。閣議決定を受けた稲田朋美防衛相は同月、部隊に対して正式な命令を出していた。駆けつけ警護とは、自衛隊の近くで活動する国連職員やNGOなどが武装集団などに襲われた場合に助けに向かう任務。自らを守る武器使用を超え、任務遂行のための武器使用が可能になるため、反撃した相手との「戦闘」になる危険性が高いとされている。実際に「戦闘」が起きた首都ジュバに派遣される自衛隊への駆けつけ警護付与に、疑義が生じるのは当然だ。

 日本がPKO部隊を送る場合、次の「PKO5原則」が守られることが前提だ。

  1. 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
  2. 国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
  3. 当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
  4. 上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること。
  5. 武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。

 南スーダンが内戦状態と認められれば、「停戦合意の成立」といったPKO参加5原則に反することは明らか。駆けつけ警護どころか、部隊派遣もできない。報じてきた通り、南スーダンの昨年7月頃の情勢はまさに「内戦状態」。自衛隊に犠牲が出る可能性が極めて高い状況だった。

 国会で、「憲法9条に抵触するから『戦闘』という言葉は使わない」と“本音”の発言をした稲田朋美防衛相。ジュバでの「戦闘」を認めれば、PKO部隊は撤退するしかない。同時に、駆けつけ警護付与が間違いだったことを認めることにもなる。「戦闘ではなかった」と虚偽を重ねるしかないのが現状だ。しかし、昨年7月に宿営地のそばで起きたのは紛れもなく「戦闘」。自衛隊員に犠牲が出ていてもおかしくない状況だったことは明らかだ。防衛省の隠蔽姿勢を見る限り、安倍政権は、南スーダンの実態を糊塗して駆けつけ警護の付与を決めた可能性が高い。



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