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「保守派」って何だ!

2016年8月19日 11:15

 最近、新聞を読んでいて引っかかる言葉がある。「保守派」という一語だ。記事の中では、「保守派の論客」「保守派の稲田朋美氏」といった具合に使われているが、以前は、あまり見かけなかった言葉。頻出するようになったのは安倍一強という現象が顕著になってからだろう。
保守の対義は革新。しかし、「革新派」などという言葉は新聞記事には出てこない。「保守派」の正体とは?

変貌する「保守」
 戦後の報道の中で、「保守」とはイデオロギー=政治思想の違いを示すための言葉だった。自民党が保守、社会主義・共産主義を信奉する社会党や共産党が革新。そういう色分けになっていたのは確かだ。どちらにも寄らないということで「中道」という言葉もあった。昭和30年の保守合同以来、自民党が一貫して守ってきたのは、自由主義経済、民主主義、日本古来の伝統文化そして象徴天皇の下の国家体制である。

 保守の中でも右寄りの強硬姿勢を持つ人たちをタカ派、平和主義的で穏健な主張を行う人たちをハト派として区別してきたのは周知の通り。「保守」とは、幅の広い概念だったと言えよう。

 一方、いま新聞が使っている「保守派」の“保守”は、明らかに意味が違う。安倍首相、稲田防衛相といった「保守派」の主張はおよそ次のようなものだ。

  • 従軍慰安婦の強制連行はなかった。
  • 南京大虐殺はなかった。
  • 東京裁判は戦勝国の一方的な裁き。認められない。
  • GHQによる押し付け憲法は改正すべき。
  • 太平洋戦争は侵略戦争ではなかった。
  • 8月15日には靖国参拝。

 一昔前なら、片寄り過ぎだとして距離を置かれた考え方だが、今やそれがトレンド。中国や韓国に対して、極度な敵対意識を持つのも特徴だ。そうした極端な主張が、保守を代表する形となっているのが実情だろう。保守の変貌に対し、新聞も右へならい。本来、首相や稲田防衛相などは「タカ派」あるいは「右派」とすべきところを、苦肉の策で「保守派」という曖昧な言葉でごまかしているに過ぎない。つまり「保守派」というのは、権力に怯えた新聞の、ご都合主義が生んだ造語なのである。

安倍氏は保守傍流
 ちなみに、自民党の中の保守本流とは、保守合同前の「旧自由党」の流れを受け継ぐ一群。吉田茂元首相と彼の下に集った「吉田学校」に連なる系譜をいう。池田勇人氏から続く宏池会=岸田派、田中角栄氏以来の額賀派などがそうだ。歴史的には「ハト派」の集団。穏健な思想を持つ政治家が多かった。

 保守の代表であるかのように思われがちな安倍首相だが、出身派閥は福田赳夫氏を祖にする旧清和会。現在の細田派で、こちらは保守合同前の旧日本民主党系。保守傍流といわれる流れで、タカ派的な集団として知られてきた。右翼とのつながりも深い。つまり、現在の自民党は危険な傍流の保守が幅を利かせているというわけだ。

守るべきものは……
 第二次安倍政権の誕生以来、「保守」の意味が大きく変わったのは事実だ。競って靖国に参拝する稲田朋美氏、高市早苗氏といった首相お気に入りの女性閣僚たちや、ソフトな語り口で事実上の戦前回帰を唱える櫻井よしこ氏などが脚光を浴び、日本会議などという極右思想を持つ集団が、国家の行く末に重大な影響を与えるようになった。これは大きな変革であって保守ではあるまい。

 そもそも、安倍首相をはじめとする「保守派」は、何かを守ろうとしているわけでない。首相が提唱してきたのは「戦後レジームからの脱却」。これは戦後の体制を打ち破るということに他ならず、旧来のものを守るということではない。首相はむしろ、戦後70年かけて築き上げられた平和国家の根幹を変えることに執着しており、現実にこれを実行してきた。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安保法……。もはやクーデターと言っても過言ではあるまい。

 重ねて述べるが、旧来のものを守るというのが保守なら、安倍やその周辺は絶対に「保守」ではない。しかし、永田町はもとよりマスコミもこうしたエセ保守に迎合する輩ばかり。その結果、「右派」「極右」と書くべきところを「保守派」などという曖昧な表現でごまかすようになっている。現状を嘆いているのは、筆者だけではないはずだ。守るべきものが、「戦前」であっては決してならない。



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