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東京都知事選 ドタバタの象徴

2016年7月19日 09:10

7月15日10時15分頃.jpg ドタバタの象徴と言うしかない。右の写真は、14日に告示された東京都知事選挙2日目の風景。都内港区に設置された選挙ポスターの掲示板に貼られていたのは、二人の候補者のポスターだけだった。
 大型選挙では、時間差はあっても告示日当日に主要候補のポスターがそろうもの。後出し出馬が常態化した都知事選とはいえ、選挙戦2日目で掲示板がスカスカというのは、極めて珍しい現象だ。有権者不在と言っても過言ではない都知事選。原因を作ったのは自民、公明のはずだが……。

スカスカのポスター掲示板
 東京都内のポスター掲示板は14,000か所。もちろん離島にも掲示板はある。全部貼るためには膨大な人手とカネが必要といわれ、政党や団体の支援を受ける陣営にとっても、大変な作業であることは間違いない。それでも、これまでの都知事選では告示日の午後までに主要候補のポスターが出揃うのが常。自民党の都連関係者も「2日目になってもスカスカの掲示板というのは、前例がない」と打ち明ける。

20160719_h01-02.jpg 告示日から2日目にかけて目立ったのは早くから出馬の意思を固めていた小池百合子氏のポスターばかり。野党連合が推すジャーナリスト鳥越俊太郎氏のポスターがチラホラで、3日目になってようやく自公推薦の増田寛也氏や他の候補者のポスターが目につくようになった(右の写真)。候補擁立で揺れた今回の都知事選を象徴する現象だ。

自民党主導で増田氏擁立
 ドタバタ劇の原因を作ったのは、言うまでもなく舛添要一前知事。政治とカネの問題でボロボロになり、任期を1年半残しての辞任だった。ただ、その前の猪瀬直樹氏はもっと酷く徳洲会からの5,000万円で任期3年を残して知事を辞任している。舛添、猪瀬両氏を都知事にしたのは自民党と公明党だが、これだけの混乱を招いておきながら、何の責任もとっていない。

 その自公が擁立したのが増田寛也氏。建設省の官僚から岩手県知事に転身し、第一次安倍政権や福田政権下で総務相を経験した官僚政治家だ。首相との近さや手堅さを評価されての与党推薦だろうが、自民党のお膳立てに乗った形の立候補で印象はあまり良くない。

 今月4日、東京23区の区長でつくる特別区長会の有志が増田氏に出馬要請。その後、同じく自民党寄りが多数の都内26市長でつくる「都市長会」の有志、13町村でつくる「都町村会」も増田氏に出馬を促した。首長らの一連の動きは自民党の仕掛け。東京23区の区長の元の職業を見ても明らかだ。

23区長.jpg

 23人中10人が元自民党都議会議員。他の区長にしても、選挙の折に自民党の推薦を受けている人ばかりで、野党系か完全無所属は数えるほどしかいない。特別区長会は、事実上自民党のコントロール下。都市長会も都町村会も同様の実態である。首長組織による異例の出馬要請は、自民党主導の印象を薄めるためのパフォーマンスに過ぎない。ちなみに、増田氏への出馬要請には小池氏の地元東京10区にある練馬、豊島の両区長が不参加。世田谷区長は、はじめからこの動きに同調していない。

 姑息な手段で増田待望論を盛り上げるつもりの自民党だったが、都連が出した「都知事選挙における党紀の保持について」という通知が思わぬ波紋を呼ぶ。通知は、党の公認、推薦候補以外の応援を禁じる内容だが、最後に記された≪各級議員(親族含む)が 非推薦候補を応援した場合は、党則並びに都連規約、罰則規制に基づき除名等の処分の対象となります。≫が一部議員や世論の反発を招いたのである。「親族」にまで増田支援を強要するのはどう見ても行き過ぎ。先行する小池氏への怒りや出遅れ感への焦りが、陣営の足を引っ張った格好となっている。

勝負に出た小池氏だが……
 一方、自民党を割る形で乾坤一擲の勝負に出た小池氏。都議会の冒頭解散など、思い切った公約を掲げて勝負に出たものの、本当に都民のための都政を実現できるかは疑わしい。

 テレビのニュースキャスターだった小池氏の政界入りは1992年の参院選。細川護熙元首相が結党した日本新党から出馬し、初当選を飾っている。細川側近として活躍の場を広げたが、同党解党後は新進党で小沢一郎氏にべったり、自民党入りしてからは小泉純一郎元首相にくっついた。小池氏が寄り添ってきたのは、有権者ではなく“時の権力者”。歯切れのいい演説で自民党や都議会を切って捨てる小池氏だが、よくよく聞けば上から目線であることが分かる。マスコミを利用することには長けている小池氏だが、都民の共感を得られる知事になるとは思えない。同氏の都知事選出馬は、安倍政権下で干された自分の国会議員としての将来に見切りをつけただけのこと。自民党の分裂騒ぎは、党内における権力闘争の結果と見ることも可能だ。

 都知事選は、小池、増田、鳥越の主要3候補が争う構図。このうち小池、増田両氏は自民党系の候補者だ。同党の分裂は、有権者のことを無視した党内事情によるもの。政治とカネで都政を混乱させた責任もとらぬまま、またしてもドタバタを演じているのである。つまりは政権党の驕り。告示2日前の立候補表明には驚かされたが、改憲勢力が3分の2の議席を占めた参院選の結果に危機感を持ったという鳥越氏の出馬理由には、それなりの説得力がある。



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