集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案の審議が大詰めを迎える中、軍人政治家が国会で質疑を交わす光景に背筋が寒くなった。頭に浮かんだのは、白黒映像でしか見たことのない戦前の帝国議会。軍人や軍人出身の政治家たちが幅を利かせた時代のことである。
「戦争ができる国」に向けてひた走る安倍晋三政権と自民・公明の姿は、まさに戦前の大政翼賛会。現在の国会の姿は、あらゆる意味でその頃と同じである。
安保法案は、きょう16日にも強行採決される見通しで、武断政治の前に、この国の民主主義や70年間かけて築き上げられた「平和国家」が、一気に崩れ去ろうとしている。
元軍人が戦争法案を賛美する茶番
戦前の内閣では陸軍、海軍からそれぞれ陸相、海相が閣僚に就任していたため、軍服姿が国会に登場するのが常。さらに、現役の軍人が国会の壇上に立ち、政党政治家を威圧していたのが当時の実情。武断主義で国を動かした結果が、昭和20年の敗戦である。
こうした状況を二度と再現させてはいけなかったはずだが、戦後70年の節目にテレビの国会中継で映し出されているのは、軍人政治家が戦争法案を賛美する光景だ。
14日、参院平和安全法制特別委員会で自民党を代表して質問に立ったのは佐藤正久参院議員(下の写真左)。「ヒゲの隊長」として知られる元自衛官だ。答弁する防衛大臣はといえば中谷元氏。こちらも元自衛官である。
経歴を調べてみると、中谷氏は陸上自衛官を4年間務めて政界入り、佐藤氏は20年以上を自衛官として勤務した後、参院議員に転身している。共に防大卒。先輩・後輩の仲である上、実働期間は違えど共に元軍人だ。
中谷氏は、自衛官出身で初の防衛庁長官(2001年4月~2002年9月)。2014年12月に、防衛相として2度目の入閣を果たしている。佐藤氏は、自衛隊のイラク派遣で第一次復興業務支援隊長を務めた人物。「ヒゲの隊長」として有名になり政界に転じたが、実戦部隊の指揮官を務めた筋金入りの「軍人」である。
現在、自衛官あがりの国会議員は中谷、佐藤両氏を加えて4人。あとの二人も自民党所属で、衆議院に中谷真一氏、参議院に宇都隆史氏がいる程度だ。
数こそ少ないが、今国会の最終盤、主要な役を演じているのは防衛相である中谷氏と、参院自民の顔となった佐藤氏。元軍人が、そろって国の方向性に影響を与えているのは確かだ。
きょうにも予定される安全保障関連法案の強行採決を前に、自民党の軍人政治家が交わすのは、手前勝手な法案解釈。戦争への懸念を示す大多数の民意を、“現場を知るのは俺たちだ”と言わんばかりの強弁で一蹴している。
軍人政治家が国を動かす様は、まさに現在の日本を象徴する光景と言えるだろう。
軍人政治家が主役の現実
かつて軍人上がりの政治家といえば、代表格が元海軍主計少佐の中曽根康弘元総理。その他、同じく元海軍主計少佐だった故・松野頼三氏(防衛庁長官をはじめ総理府総務長官、労働大臣、農林大臣などを歴任)など旧軍出身者の存在があった。だが、元軍人が国会でやり取りする光景を見た記憶はない。
自衛隊発足後、元自衛官が国会の主役となったのは、おそらく初めて。民意を無視した政権運営もそうだが、武断主義が甦った証しとも言えよう。背広を着ているが、中谷氏も佐藤氏も本籍は「自衛隊」なのである。
安倍首相は、憲法を歪め、戦争に対する歯止めを外した。さらに、時間的制約や地理的制限をなくし、実際に戦争ができる状態を作り出そうとしている。平和の二文字を掲げてはいるが、安全保障関連法案は紛れもなく「戦争法案」だ。自民党の公約には「国防軍」の創設が明記されていることも忘れてはならない。
民意を無視して行きつく先は、戦前以上の武断主義国家。その兆候は、すでに国会の場に現れている。