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AKB48「恋チュン動画」自治体バージョンの怪しさ

2014年4月 4日 08:30

恋するフォーチュンクッキー 昨年、AKB48が歌った「恋するフォーチュンクッキー」。ヒットする過程で、多くの民間企業や団体が楽曲に合わせて踊る「恋チュン動画」を作成し、ネット上に流したことで話題をさらった。
 一方、数々の自治体バージョンには「税金の無駄遣い」との批判も――。疑問に思ったHUNTERの記者が、複数の自治体に情報公開請求し、作成過程を調べたところ、鳥取県、神奈川県の各自治体バージョンの裏に、佐賀県在住の人物が絡んでいたことが分かった。神奈川県には、恋チュン動画作成を持ち掛け、鳥取県では動画作成業務までこなす活躍ぶり。ただし、鳥取県のケースにおいては、事実と違う話を申し向け、県から自らが関係する業者に仕事を回していた。この人物を特定するために行った追加の情報公開請求から、各県がこの人物の情報を隠す実態が浮き彫りとなった。

鳥取県の情報隠し
 鳥取県の恋チュン動画作成にかかった費用は、佐賀県や神奈川県を上回る約120万円。動画制作と振り付けに対する支援業務2件の委託金額の合計だ。同県が開示した資料には、佐賀県庁職員からの1通のメールがあった。これが動画作成の発端。問題のメールには次のように記されていた。

《AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」を企業、団体で踊りAKB公式Yuo tubeでアップするという動きが、はやっています。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、佐賀県verを古川知事も出演し、収録し、130万回を超える再生回数をカウントしています。
本日は、神奈川県verも公開され、黒岩知事も登場されておられます。
ついては、皆さんの県でも、恋するフォーチュンクッキーを踊りませんか???というのが今回のメールの趣旨です。
添付ファイルのとおり、佐賀県にあるリエゾンラボという会社が、画像編集、AKBとの交渉などを引き受けてくれます
つきましては、お手数ですが、別添のチラシを、知事さまにご高覧いただきますようご配慮いただければ幸いです。
なお、こうしたメールを各県へ送付することにつきましては、古川知事の了解を得ておりますので、ご理解のほど、よろしくお願います》》(下がメールの現物コピー)

 文脈からいって、メールに出でてくる《別添のチラシ》は、画像編集、AKBとの交渉などを引き受けてくれるという「リエゾンラボ」のもの。確認するため、鳥取県の要求通りに改めて情報公開請求し、開示されたのが下の「チラシ」である(赤いアンダーラインと書き込みはHUNTER編集部)。

“別添のチラシ”1  “別添のチラシ”2

《このたび、AKB48のシングル曲「恋するフォーチュンクッキー」を踊って、地域社会を活性化し日本を面白くしたい自治体のご支援をさせていただきたく、ご案内申し上げます》

《動画制作にご興味をお持ちいただける全国の都道府県の自治体の皆様へ以下の5つのご支援を実施することが可能》

 明らかに売り込み。見方によっては、自治体の宣伝に引っ掛けて一儲けし、合わせて恋チュンという楽曲の話題性をアップさせるための手口だとも言える。一石二鳥を狙った形だが、自治体事業の原資は「税金」。安易な発想には、開いた口が塞がらない。

 チラシを作成したリエゾンラボの「T氏」(開示文書では実名)については、明記してあるはずの問い合わせ先が消されており、実態をつかむことができない。公費支出に絡んだというのに、隠すのは不適当だろう。それとも、隠さなければならない理由でもあるのだろうか……。

謎のT氏 優雅な仕事ぶり
 「チラシ」の中でリエゾンラボが自治体側に提示した「支援」の内容とは、次の5項目だ。

1、振り付け指導(インストラクター派遣など)
2、撮影支援(ロケーションの選定やコンテンツ力アップ指導など)
3、編集作業
4、交渉支援(YouTube AKB公式チャンネルへの動画アップロードなど)
5、後方支援

 一方、鳥取県は、佐賀県の勧めに従って恋チュン動画作成を決め、紹介されたリエゾンラボ=T氏と接触。T氏が社員だという理由で、東京の企業「ホープス」に特命随契で動画制作支援業務を委託する。契約金額は「997,500円」(税込)。委託業務は、次の5項目となっている。

(1)業務に関する打ち合わせ
(2)撮影に関する支援・調整
(3)映像編集
(4)デジタルメディア・プレスリリース配信
(5)動画アップ後における広報支援

 リエゾンラボのチラシによれば、「振り付け指導」も可能だったはずだが、なぜか鳥取県は県内のダンススタジオに約20万円を払って、別途振り付け指導を委託していた。

 それでは、実際にホープスがやった仕事はどのようなものだったのか?ホープスが鳥取県に提出した「見積書」(下参照)に沿って検証してみた。

見積書

 見積り金額は「997,500円」。鳥取県との契約金額が一致しており、同県がホープス側の言い値で契約していたことが分かる。そうすると、見積りの内容そのままの業務が行われたことになる。詳細は、次のようなものだ。

1 打ち合わせ旅費(福岡⇔鳥取:1名)⇒60,000円
2 撮影支援⇒240,000円
3 編集⇒300,000円
4 デジタルメディア・プレスリリース配信⇒100,000円
5 広報支援⇒250,000円

 計950,000円に消費税がついて997,500円となるが、個別の金額には疑問符がつく。
 まず、240,000円だという「撮影支援費」だが、実際の撮影は恋チュン動画鳥取県バージョンに登場する各種団体などが、それぞれのビデオ撮影機器で行うことになっており、ホープスは実務に関与していない。編集に300,000円かかっているが、アップされた動画を見る限り、それほど手の込んだものとはなっていない。計350,000円にもなるデジタルメディア・プレスリリース配信や広報支援とやらも、よく分からないものだ。なにより、打ち合わせ旅費の60,000円は「福岡⇔鳥取」間の往復運賃で、この委託業務に関して、ホープス側が1度しか鳥取県に行っていないことは明白。あとはメールか電話でのやり取りに終始したことになる。ずいぶんと優雅なお仕事ぶりだった。

 ある動画制作業者は次のように話す。
「動画制作にかかる費用は、不透明なのが実情。定価があるわけではないので、吹っかけた者勝ちというところがある。税金使っての業務となれば、気分が大きくなって過大な請求をする業者もいる。鳥取県のケースについて高いか安いかと聞かれても、なんとも答えようがない。ただし、一つ言えることがある。そもそも税金を使って恋チュン動画を作る必要があるのか、ということ。もっと有効な地域の宣伝手法があるはずだ」――ごもっともである。

佐賀県の無責任
 リエゾンラボを鳥取県に紹介したのは佐賀県だ。その佐賀県に対しては、県職員が恋チュン動画作成を勧め、さらにリエゾンラボを紹介するために他の自治体に配信したメールの記録を情報公開請求した。が、返ってきたのは不存在通知(下がその通知書)。送信から90日経過しており、メールボックスから削除したのだという。

公文書不存在決定通知書

 他の自治体宛てにメールを送信した職員に直接話を聞いたところ、鳥取県をはじめ宮城、長野、三重、広島、徳島、宮崎の7県に同様のメールを送信、その内容は前述の通り、削除しているから分からないという。なぜリエゾンラボを紹介したのか改めて尋ねたが、「危機管理・広報課から依頼された」と前回と同じ回答だった。同県危機管理・広報課は、これまでの取材に対し、紹介理由を明らかにしていない。

 不可解なのは、恋チュン動画自治体バージョンの第一号である佐賀県が、他県にまで紹介したリエゾンラボを一切使っていないこと。同県の所管課は、「リエゾンラボという業者は動画作成に関わっていない」と明言しており、佐賀での実績を考慮しての他県への推薦ではなかったことが分かっている。佐賀県上層部もしくは県危機管理・広報課とリエゾンラボに、特別な関係があるとしか思えない状況だ。

T氏はホープスの「顧問」
 鳥取県の恋チュン動画制作支援を請け負ったのは、前述の「ホープス」。同県への取材では、リエゾンラボのT氏が、神奈川県と佐賀県における「恋するフォーチュンクッキー」公式認定動画の制作・支援を行ったと申し向けたため、T氏が「社員」(鳥取県の説明)だというホープスに、特命随契で業務を委託したことになっていた。

 確認のため、朝9時過ぎに「ホープス」に電話を入れたが、始業時間が遅いのか、誰も出ない。しばらくして記者の電話を鳴らしたのは、はじめての携帯番号だった。誰かと思えばホープスの社員である。会社にかけると、社員の携帯に転送されるようで、着信履歴を見て、折り返したらしい。

 ―― そちらにT(取材時は実名)さんという社員がいらっしゃいますね?
 ホープス いません。

 ―― Tさんですよ。唐津にいらっしゃるんじゃないですか?
 ホープス いーえ……。あ、あ、います、います。顧問でした。顧問です。顧問。

 なんとも心もとない対応だ。在籍確認のはじめには、きっぱりと「いません」。そして、あわてて「顧問」。帳尻を合わせた格好となってはいるが、不自然さは拭いきれなかった。結局、T氏については、よく分からないままだ。

AKB商法に一言
 AKB48の楽曲を否定するつもりはない。「恋するフォーチュンクッキー」も、元気が出る歌だと思う。しかし、AKB48を使った国や自治体の事業があまりに多すぎる。そこで儲かっているのは、広告代理店やその周辺の業者。一般庶民の暮らしが良くなっているわけでもない。

 恋チュン動画自治体バージョンに至っては、背後で蠢いた人物の情報を、関係した自治体がそろって隠すという異常な状況だ。これがまともな公費支出をともなう事業だとは思えない。なにより、芸能人に頼った地域振興は、一過性の効果しか得ることができないということを、関係者が自覚すべきだろう。AKB48を利用する業界人にも言いたい。税金を利用した商売は、いい加減やめるべきだ。

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