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ホークス誘致の舞台裏 筑後市・中村征一市長インタビュー(上)

2014年3月28日 07:00

中村征一市長 政治家や役所の不行跡ばかり取り上げているHUNTER。必然的に、ほとんど役所を褒めたことがなかったが、今回ばかりは全国にこのまちの良さを発信したくなった。とにかく、市長も、職員も明るい。役所で出会ったどの職員も、笑顔で挨拶してくれるのだ。

 福岡県筑後市。農業が盛んな県南部に位置する同市に、人気球団「福岡ソフトバンクホークス」の2・3軍本拠地が移転することになった。27日には、ホークスと筑後市が、立地の基本協定に調印。2016年春の開業を目指す。

 5県33自治体が名乗りを上げた本拠地誘致。勝ち抜いたのは、さして下馬評で名前の挙がらなかった筑後市。誘致決定までの過程を市側に聞こうと、中村征一市長にインタビューを申し込んだところ、市長がこれを快諾。自ら、約1時間にわたって筑後市の概況やホークス誘致までの舞台裏を語ってくれた。
(写真はインタビューに答える中村市長)

筑後市の現状
 ―― ソフトバンクホークスの誘致成功、おめでとうございます。まず、筑後市の紹介をお願いできますか?

筑後市役所 市長 筑後市は、先輩の市長さんたちが頑張ってくれたおかげで、企業誘致がかなり進んでいました。その為、ホークス誘致のベースになる交通アクセスが良かったということが、本市にとっての幸運だったと思います。鹿児島本線の駅も、この小さい市に3つもあります。国道はといえば、縦には「209」、横には「442」が通っており、筑後市内で交差しています。九州自動車道八女インターチェンジにしても、出口は八女市ですけど入り口は筑後市。そういうアクセスの良さが自慢です。

 ―― 市長は人口5万人を公約に掲げられていましたね?
 市長 筑後市の人口は、1月末現在で4万9,052人です。私が公約にかかげた「人口5万人」までの達成はまだまだですが。あと千人、何としても増やしてみたいと思っています。これからが勝負ですね。ソフトバンクホークスの拠点ができるので、一定数の人口増を期待しています。

 ―― その他の企業誘致も進んでいますね?
 市長 企業誘致の現状は、今ここに立地していただいている企業からいうと、大小いろいろありますが、ヤンマー建機、ロッテ、大日本印刷、ローム・アポロワイズ、九州カネライト、最近はホンダユーテックのオークション会場が移転してきました。442号のバイパス沿いには、大型の流通センターがきています。

 ―― 筑後市の特徴について、もう少し聞かせて下さい。
 市長 筑後は農業地帯です。そのための土地に恵まれているということが挙げられます。圃場整備も終わっていますし、大型機械もどんどん入れられます。平たん地では、小麦、大豆。丘陵地帯では、お茶、なし、ぶどう、ももが作られています。農業生産に適した土地柄であることは誇りですね。

市長記事.jpg市民・市役所 心を一つに誘致の決断
 ―― さて、ソフトバンクホークスの誘致についてですが、「よし、やろう」と決断されるまでの経緯を聞かせて下さい。
 市長 ホークスが2・3軍の本拠地移転を発表したのは8月2日でした。大牟田市が手を上げたのは8月5日。うちは、誘致を実現するためには、議会も一緒にやっていかないといけないということで、十分に打ち合わせをしました。その結果、ぜひ地元のためにということで本市としての話がまとまり、13日に正式表明したという流れです。私自身は、本拠地移転を聞いた瞬間から、なんとか筑後市に、と思っていました。以心伝心というか、職員や市民からも「ぜひ筑後に」という声が上がりました。心が一つになっていたということでしょうね。

好条件に自信
 ―― ソフトバンク側からは、どのような条件が出されていましたか?
 市長 ソフトバンクホークス側からの提案によれば、土地面積で4~6ヘクタールが必要ということでした。そして、ヤフオクドームから1時間以内。高速インターから20分以内といった条件でしたが、本市が提案した筑後船小屋駅そばの土地は、ヤフオクドームから高速に乗り、八女インターで降りてから到着まで約55分。条件は十分に満たしていました。高速を降りてから、10分とかからない場所ですから。ファーム本拠地予定地 地図

 ―― 自信があったようですね。
 市長 むしろ、市としての体制を組むまでが大変だったと思いますね。条件的にみれば、アクセスに問題はない。タマホームさんが持っている格好の土地がある。新幹線の駅がすぐそば。それから、周りに広大な公園がある。他都市にはないものがそろっていたと思います。自信はありました。なにより、市民や議会、職員の一体感がすばらしかったんです。
(右は筑後船小屋駅周辺図。筑後市提供)

自慢は職員手作りの「提案書」
 ―― 誘致に向けた動きの中で、特に印象深かったことは何ですか?
 市長 ソフトバンクに出した「提案書」。それは本当に私の自慢です。すべて職員の手作り。業者さんの手は一切借りていません。珍しいでしょう!役所の提案というと、専門業者に業務委託して、何百万円もかかるケースがほとんどですが、本市はすべてを職員だけの発想、そして努力でまとめ上げたんです。

 市長 自慢ついでに、もうひとつ。記者発表の時のバックパネルや誘致までの間に掲げたのぼり旗のデザインなど、すべて職員のアイデアです。どうです。すごいと思いませんか。ポスターにある、「みんなの夢が走り出す」という文言も、そうです。自発的に職員が創りたいということでそうなったんです。私は何も言っていませんから。すばらしい職員たちだと思います。ソフトバンクに提案書を持っていったら、電話がかかってきて『素晴らしい』と言ってもらいました。本当にうれしかったですね。

職員たちが考えたデザインの数々
(職員作成の「提案書」と、同じく職員たちが考えたというデザインの数々。お見事!)

 市長 職員自慢ならまだまだ言い足りません。誘致決定まで、船小屋駅の2階から、ホークス歓迎のメッセージキャンドルが見えるようになっていたんですが、職員たちは、夕方6時から夜9時まで、当番を決めて毎日火を点けに行ってくれたんです。頭が下がりましたよ。

決め手は?
 ―― 何が決め手だったと思いますか?
 市長 1次審査を通過して4つの都市が残りました。私もプレゼンに行きましたが、職員が作った、いわば地に足がついた提案だったから、聞かれたことに自信を持って答えることができました。土地の素晴らしさや交通アクセスの良さもありましたが、提案書の出来映えも決め手の一つだったと思います。

 市長 もう一つ。市議会が、全会一致で誘致に向けて取り組んでくれたことを忘れてはなりません。市議会議員はホークスのユニフォーム。職員は誘致活動のTシャツ。これで議会をやったんですよ。もちろん、ユニフォーム代5,900円は議員さんたちの自己負担。職員のは1,000円でした。

 市長 最大の決め手は、市、議会、そして市民が一体となって、それこそ心からホークスに来てもらいたいと願ったことでしょう。さらに、近隣自治体の協力も忘れてはなりません。

つづく

▶ ホークス誘致の舞台裏 筑後市・中村征一市長インタビュー(下)



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