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ホークス誘致で膨らむ「夢」
課題克服に全力傾注 ― 筑後市・中村征一市長インタビュー(下) ―

2014年3月31日 07:00

中村征一市長 人気球団「福岡ソフトバンクホークス」の2・3軍本拠地の誘致に成功した福岡県筑後市。県南地域の振興にも直結する出来事に、筑後市だけでなく周辺自治体の期待も膨らむ。
 ホークス誘致の先頭に立ったのは、現在2期目の中村征一市長。誠実な人柄に職員の信望も厚く、誘致成功の裏に市長と職員との信頼関係があったことを痛感させられる。インタビュー中の中村市長は、満面の笑顔で誘致成功までを振り返ったが、今後の展望や課題については表情を引き締めて抱負を語った。

団結した「筑後七国」―子供たちに「夢」を
 ―― 近隣自治体も協力的だったと聞いていますが?
 市長 新幹線を誘致するにあたって、本市と一緒になって取り組んできた5つの市と2つの町があります。すなわち、柳川市、八女市、大川市、みやま市、広川町、大木町、それに本市。5市2町で「筑後七国」と言います。筑後は恋の木神社があるから「恋の国」。八女はお茶があるから「お茶の国」。柳川は「水の国」。このように、全部「~の国」と名前をつけているんです。

 市長 八女市もホークスの誘致に手を上げていたんですが、10月6日の総決起集会には参加していただきました。久留米や大牟田、うきは、小郡など12市町も来てくれたんですよ。そこで、誘致成功の願いを込めて、約1万人の参加者といっしょに、ジェット風船をとばしました。

 市長 「筑後七国」には、少年野球チームがたくさんあります。本市も10チーム近くある。その子供達に「夢を」ということで、団結しました。つい最近、元ソフトバンクの選手で、サムライジャパンの監督になった小久保裕紀さんが本市に来てくれました。小久保さん、いいことを言ってました。
「1軍選手の華やかな姿だけではなく、2軍選手が1軍選手を目指して頑張っている姿を子供達が見ないといけない」
 私もその通りだと思います。そうした意味で、ホークス誘致が成功したことは、多くの子供たちに夢や努力の大切さを伝えられることにつながっていきます。

事業の流れは?
 ―― 本拠地の完成予定と今後の展望は?
 市長 2016年春の完成予定ですが、少し遅れるかもしれません。ソフトバンクさんが整備するのは、球場2つ、室内練習場、そして選手の寮です。50人くらいの選手が入寮するそうです。高卒や新人の選手は、5年くらいいないといけないらしいですよ。

 市長 工事は、残土を提供してもらっている段階。本格的な着工はもう少し先です。完成までには、資金と時間を要しますからね。ソフトバンクさんの持ち出しが40億から50億円。地元としては、当初10月の臨時会で1億8千万、次に1月に12億6千万の予算を認めていただきました。全体で14億4~5千万円の予算です。そのうち約10億円がタマホームさんの土地を買い、整備するためのものです。

本拠地予定地
(手前の土地が本拠地予定地。その向こうには筑後船小屋駅)

 市長 タマホームさんは、ただで使っていいですよと言ってくれたんですが、民間会社の土地を市が借りて、さらにホークスにということになれば、又貸しの形になります。それならきちんと買い取ろうということで、予算を計上しました。投資額以上に、筑後市や周辺に様々な良い影響をもたらしてくれる計画ですから、良かったと喜んでもらえるよう、市としても全力で取り組んでいきますよ。

 市長 道路アクセスの整備もやらなければなりません。現在、在来線の下をアンダーで抜いていけるよう、県道の整備をお願いしています。宿泊施設も必要です。そのためには、農地転用をはじめ様々な取り組みが必要になります。

展望と課題
 ―― ホークス誘致が実現したことで、筑後市内はもちろん、周辺自治体の人の流れも活発になるのではないですか?
 市長 先ほど話した「筑後七国」で、商工観光推進協議会というものをつくっています。ホークスがくる筑後船小屋駅を利用して、県南に観光客を呼び込もうという取り組みを強化しています。これは、ソフトバンク誘致が決まる前からやっているんですが、さらに加速させていくつもりです。

 ―― 筑後船小屋といえば、ホークスが来ることで、新幹線利用者が増えるといわれています。ただし、現在のダイヤ編成では、筑後船小屋に停車する列車が少ないですよね。JR九州にダイヤ編成などでお願いされることはないんですか?
 市長 JR九州の社長さんには、毎年、ダイヤ改正についてのお願いをしています。社長は、お客様が増えれば止まりますよと言われるんですが、私は、新幹線が止まればお客様は増えますよと言い返して(笑)。JR九州の社長は、筑後船小屋駅はこれから大化けしますよとおっしゃってくれています。ぜひ、ダイヤ改正を実現し、筑後船小屋の利便性を上げていきたいですね。

筑後船小屋駅  九州芸文館
(筑後船小屋駅と九州芸文館)

 市長 筑後船小屋には「九州芸文館」もあります。芸文館は、芸術文化関連団体やまちづくり団体等と連携を図りながら、芸術文化・体験・交流などさまざまな事業を展開し、公園や地域の魅力を発信する施設です。筑後地域の振興や発展に寄与・活用される事を目的として整備されました。運営主体は県です。これから益々利用者が増えると思っています。

 市長 駅周辺には、公認プールも出来ます。市民向けの25m室内温水プールと50m屋外公認プールですね。さらには、市で整備した温泉もあるんですよ。2年前に施設ができて営業を始め、多くの人で賑わっています。川の駅 船小屋「恋ぼたる」といいます。この温泉は鉄分が多く、色がついているんですが、源泉掛け流し。膝、肩、腰が痛い人は1ヶ月も通うとよくなるといわれています。炭酸も含んでおり、リハビリにも使っていただけますよ。

 市長 さらに、県がこのエリアをフラワーゾーン(花公園)として整備しています。ものすごく広い面積で、菖蒲園も造ります。お茶園もあって、四季折々の花が咲き乱れることになります。もともと船小屋は桜の名所。堤防にはずっと続く桜があったんです。県にお願いして、さらに100本以上増やしてもらいました。訪れた方々を、いっぱいの花で迎えたいですね、

 ―― ソフトバンクの2・3軍本拠地が完成すれば、商業施設建設への期待も出てくるのでしょうね?
 市長 商業施設の話は、ソフトバンクさんとはまだなんです。なんといってもまだ農地なので、そこまで話は進んでいないんです。しかし、ゆくゆくは実現させたいですね。

中村征一市長 ―― 最後に、市長の今後に向けた決意をお聞かせ下さい。
 市長 誘致が決まって、“良かったですね”と言われますが、それで終わりではありません。じつは、これからが大切なんですね。筑後市に来る人たちに、どうやったら足を止めてもらって買い物などをしてもらえるか、滞在をしてもらえるか―我々は、真剣に考えていかないといけません。筑後七国のなかでも、いま以上に観光客を呼び込む工夫をすることが必要です。さきほど述べたように、課題も山積しています。全力でやりますよ!

 市長 ここ(筑後)で年間40試合くらいする予定だと聞いています。2軍の球場の客席が3,000席。いまのところ1軍の試合の予定はありませんが、外野を芝生にしようという話も出ています。そうなると5,000~6,000人入るかもしれない。ぜひそれが実現して、1軍のオープン戦も考えてもらえるといいですね。

 市長 あ、もう一つ、言いたいことがある。筑後市は朝8時半始業なんですが、8時25分から全員でラジオ体操をやっています。私の自慢です(笑)。

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 市長も説明役でそばについた職員たちも、驚くほど表情が明るい。ソフトバンクホークスの誘致が実現し、高揚感に満ちているのは確かだろうが、それだけではないようだ。

 職員を信用し、すべてを任せて悠然と構える市長。そうした市長を信頼し、寝食を忘れて職務を遂行する職員。筑後市役所には、「信頼」という絆が息づいている。同市がホークスに提出した「提案書」が、すべて職員の手作りだったという話は、傾聴に値するものだ。ホークスとの関係があり、中身を見せてもらうことはできなかったが、地元を知り尽くした職員たちが、精魂込めて作り上げた提案書が、説得力を持っていたのは事実だろう。業者による、見栄えだけで中身のない企画書が幅を利かせるなか、職員の情熱にすべてを委ねた市長の決断は見事というしかない。

 ホークス2・3軍本拠地の建設工事はこれから。様々な困難もあるだろうが、この市役所と市民は、一体となって明日を切り拓いていくだろう。

 インタビューの間、市長は一度も自身の自慢話をしなかった。出てくるのは、職員の自慢だけ。最後も、職員と続けているというラジオ体操のことを、うれしそうに話していた。名市長だと確信した。


◀ ホークス誘致の舞台裏 筑後市・中村征一市長インタビュー(上)



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