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諫干・潮受堤防開門の問題点

2012年11月 5日 11:10

 4日、農水省は長崎県に対し、「国営諫早湾干拓事業」(諫干)にともない建設された潮受堤防の開門を、来年12月から実施すると伝えた。
 長崎県や関係自治体は反発を強めているが、平成22年に福岡高裁が潮受け堤防の排水門を5年間開けて調査するよう国に命じる判決を下しており、法的に開門を止めることは難しい状況となっている。
 開門調査にともない、影響を受けると見られる農業被害対策に海水淡水化施設などの建設費として数百億円かかる見込みで、総額2,500億円以上の税金をかけた事業がさらなる巨額公共事業を生み出す構図だ。
(写真は諫早側排水門)

「ギロチン」で注目された干拓事業 
 潮受堤防は全長約7キロ、平成元年に始まった「国営諫早湾干拓事業」のため諌早市高来町と雲仙市吾妻町との間に設置された。
 堤防の閉め切りが行われた平成9年に、ずらりと並んだ鋼板がドミノ倒しのように落とされていく「ギロチン」と呼ばれた光景が映像で流されてから、全国的に注目される存在となった。
 それまで、諫早湾干拓事業が大きな政治課題として取り上げられることが少なかったのは事実で、ギロチン以降、諫干はムダな公共事業の象徴となってきた。
(下は、堤防上にある事業概要の説明看板)

堤防上にある事業概要の説明看板

 堤防の上には「諫早湾干拓堤防道路ふるさと農道」(平成19年供用開始)が併設され、佐賀県側から島原半島に抜ける道路として利用されている。
 潮受堤防の内側は「調整池」だが、水質が悪化していることは堤防の上から排水門の外側と見比べただけで分かる状況だ。(下の写真左が「調整池」、右が堤防道路)

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根強い地元の反発
 開門調査が実施されると、水質が悪化している調整池の水を冒頭の写真にある排水門を開けて海に流すことになる。有明海の海流が元に戻ると歓迎する漁業者がいる一方、汚水が有明海全体に悪影響を及ぼすことを懸念する声もある。

 問題は、調整池に海水が流入することによって起きるとされる近隣農業への被害や防災面だ。
 潮受堤防は、諫早湾干拓事業によって増えた農地の用水確保や、水害で苦しんだ諫早の防災対策の切り札とされた事業。国の都合で開けたり閉めたりされてたまるかという地元住民の声は根強い。

 諫早側の堤防近くで地元の人の声を聞くと、諦めと怒りの言葉しか出てこない。
「国は無責任。農業をやれと奨励しておいて、今度は止めろと言う。開門すれば塩害で作物はだめになるさ。もう農家はできん(できない)」(50代男性)。

「よその県の人には分からん。水害で苦しんできた諫早のことはどうでもいいのか。干拓地で農業をやってきた人たちの生活の糧はなくなっていいのか。ムダな公共事業と言って、何でもかんでも堤防が悪いと批判する。有明海の環境悪化は全部堤防が悪いことになってるが、ほんとにそれだけか。民主党政権になってろくなことはない。騒ぎ出したのは菅(直人・元首相)じゃった。許さん」(60代。男性)。

 こうした声への対策として、農業用水の確保のために海水淡水化、農・漁業者への補償、新たな防災対策などが必要となり、数百億円規模の予算が計上される見通しだ。
 巨大公共事業が引き起こした問題にさらなる税金投入を余儀なくされる構図は、土建国家の病状が重篤であることを物語る。

縮図
 もともと、潮受け堤防の閉め切りによって有明海の水質が悪化するとの指摘を無視したのは国だ。
 事業実施の前提には「環境アセスメント」があったはずだが、閉門の結果が海の環境悪化だったとすれば、アセスの評価が間違いだったことになる。
 公共事業にともなう環境アセスは、事業実施の道具に過ぎなくなっており、すでにその価値を喪失していると言っても過言ではあるまい。

 諫早湾干拓が構想されたのは昭和30年代だ。食糧事情や農業を取り巻く環境が変化する中、昭和から平成に至る時期に、本当に大規模干拓地の必要性があったのかという疑問も残る。

 諫早湾干拓事業は、走り出したら止まらない日本の公共事業の典型で、批判をかわすために防災や農業用水といった理由があてがわれた側面は否定できまい。そうした意味で諫干は戦後日本の縮図でもある。

 地元の要望、環境アセス、そうした一連のアリバイを揃えた上で、巨大な公共事業が進められてきたわけだが、数千億円の血税が費やされた諫干で、環境を破壊し、隣県の住民がいがみ合う事態を招いた責任は誰が取るのだろうか。



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