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「生産性」と「産めよ殖やせよ」 安倍政治に重なる戦前

2018年7月30日 09:05

DSC05865--2.jpg 「産めよ殖やせよ」を国のスローガンに掲げた昭和16年(1941年)、日本は太平洋戦争に突入した。
 77年経った平成最後の年、政権政党の国会議員が月刊誌で「LGBTのカップルは生産性がない」という主張を展開し、厳しい批判を浴びる状況に――。少数差別の裏には、“女性は子供を産むのが当然”という考えがある。
 女性に「国のために子供を産め」と迫る愚かな政治家が増えたのは、安倍晋三という極右政治家が政権を担ってからだ。第1次安倍政権の発足以来、大臣や党幹部が何度も同様の発言を行い、物議を醸してきた。一連の発言に通底しているのは「個人より国家」という全体主義的な考え方である。

■LGBTをネタに朝日攻撃
 問題の主張は、月刊誌「新潮45」が8月号で企画した《日本を不幸にする「朝日新聞」》に、自民党の杉田水脈という女性の衆議院議員が寄稿した「『LGBT』支援の度が過ぎる」の中で展開したもの。この中で杉田氏は、子供を産まないことを『LGBTのカップルは生産性がない』と決めつけ、LGBTについて報道する朝日新聞の姿勢を攻撃していた。声の小さな少数派が、朝日攻撃の材料に使われた格好だ。

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■納税者の権利を否定
 LGBTとは、「性的少数者」の中の女性同性愛者(レズビアン;Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ:Gay)、両性愛者(バイセクシュアル:Bisexual)、 性同一性障害(トランスジェンダー:Transgender)といった人たちの総称で、各単語の頭文字を組み合わせてできた表現だ。杉田議員は寄稿文の中で、子供をつくらないこうした人々への税金投入を否定する見解を示していた。安倍首相夫妻もそうだが、税金を払っていても子供がないカップルや独身者は、みんな「生産性がない」ということになる。納税者への税金投入が無駄だと主張する国会議員は、おそらく杉田氏が初めてだろう。

 政治家には自由な発言が担保されているが、杉田氏のばかげた主張は自民党の政権公約にも反している。同党が昨年の総選挙にあたって公表した政権公約には、『性的指向・性自認に関する理解の増進を目的とした議員立法の制定を目指す。多様性を受け入れる社会の実現を図る』と記されているからだ。しかし、自民党では首相と距離を置く石破茂元幹事長や野田聖子総務相以外に、杉田氏の暴論を咎める動きはない。

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■“狂気”を宿した女性議員
 では、杉田水脈とは一体何者なのか――。彼女の経歴をさらってみた。2012年の総選挙で日本維新の会から出馬し、比例近畿ブロックで復活当選。次世代の党に移った2014年の選挙では落選し、自民党公認を得た昨年の総選挙では、比例中国ブロック17位で2期目の当選を果たしている(現在は首相の出身派閥「細田派」所属)。

 これまでの発言や主張を確認してみたが、所属してきた政党の色そのもの。「南京大虐殺も従軍慰安婦も嘘」「憲法改正に賛成」「国防軍創設」「保育所増設に反対」「総理の靖国参拝賛成」などなど、ウルトラ右翼としか言いようのないものばかりだった。「男女平等は、絶対に実現しえない反道徳の妄想」という過激な発言もある。なぜこうした“狂気を宿した人物”が国会議員のバッジをつけているのか分からないが、自民党そのものが、杉田氏の暴論を容認する組織に成り下がったということだろう。これは多様化ではなく、安倍政権になって顕在化した“歪み”とみるべきだ。

■安倍政権下「産めよ殖やせよ」の大合唱
 かつて、女性を「産む機械」と蔑んだのは、第1次安倍政権で厚生労働大臣を務めていた柳澤伯夫氏(引退)。この時以来、“国のために子供を産め”という考え方が安倍政権の共通認識になっているのではないか。以下、安倍政権下で問題視された発言の数々である。

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 杉田議員が「生産性」という言葉を使ったことは、女性を、子供を産む機械だと考えている証拠だろう。会見で、杉田氏の主張について聞かれた二階俊博幹事長は、「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観、考えがある」として、事実上「LGBTのカップルは生産性がない」を容認する姿勢をみせたが、その二階氏自身、6月に都内で行った講演の中で「子供を産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」などと発言していた。

 菅官房長官や山東昭子参院議員の発言も方向性は同じ。女性は、子供を何人も産むべきだと考えている。多様な生き方を否定し、少子化の責任を国民に押し付けているようなものだ。自民党議員による女性蔑視は今に始まったことではないが、安倍政権になってから女性に関する暴言・失言が繰り返されるのは、自民党が本音をむき出しにするようになった証でもある。

■重なる「戦前」
 杉田氏の政界入りを後押ししたのは右派の論客である櫻井よしこ氏で、自民党に誘ったのは安倍首相なのだという。いずれも「国家」や「国益」を声高に叫ぶ全体主義者。少数の声と真摯に向き合う気持ちなど、これっぽっちもない人たちなのである。モリ・カケ、日報といった不都合な話から逃げ回る一方、カジノ法や参院議員を6人も増やす改正公選法を強行採決した安倍政権。数の力で世論をも蹴散らす政治が、少数派に配慮するはずがない。

 昭和16年(1941年)に閣議決定された「人口政策確立要綱」のスローガンとなった「産めよ殖やせよ」は、戦前の厚生省が掲げた「結婚十訓」の中の一つで、後には「国のため」という言葉が続く。要綱は、兵力や労働力の増強を目的としたものだ。軍事国家のために子供を産むことを奨励した戦前と、「戦争ができる国」を目指す安倍政治が重なる。



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