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日大反則タックル問題 監督辞任で済まない理由

2018年5月21日 08:30

日大.png 来年、創立130年を迎える伝統ある大学の誇りが、たった一人の指導者の暴走に汚された。
 日本大学アメリカンフットボール部(通称:フェニックス)の選手が、関西学院大学との定期戦で危険なタックルなどの反則行為をした問題を巡り、同部の内田正人監督が辞任を表明した。「責任は私一人にある」と格好をつけた内田氏だが、事態は収まるどころか悪化する一方だ。
 当然だろう。反則を指示したのは、どう見ても監督自身。その点についての明言を避けたまま、アメフト部の監督だけ辞めるというのは、ただの責任回避に過ぎないからだ。さらに問題を深刻化させているのは、内田氏がオール日大の競技部を統括する保健体育審議会の局長で、常務理事という大学ナンバー2の立場にもあること。日大の経営陣や内田氏が本当に守ろうとしているのは、学生ではなく“体制”なのである。

◆日大の「保健体育審議会」とは
 アメフト部の監督である内田正人氏は、日大の人事担当常務理事。事実上のナンバー2である上に、同大学を代表する体育競技部を統括する「保健体育審議会」のトップである局長を兼任している。監督辞任は当然だが、それだけで事を済まそうとする日大の組織自体に、OBはもちろん、学内からも批判の声が上がる状況だ。

 日大は、17学部に75,000人の学生を抱えるマンモス大学である。学部ごとに、スポーツ系と学術系のサークル(同好会)がある一方、全学から優秀なスポーツ選手を集めて組織されているのが大学本部が統括する「保健体育審議会」だ。学内で「保体審」と呼ばれる保健体育審議会には、現在次の34の競技部が所属している。

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 保健体育審議会には、特定のスポーツ種目に優秀な競技記録を有する者のなかから、将来日本を代表するアスリートへの成長が期待できる者を選抜する推薦入学試験制度がある。合格した学生は、保体審各部に所属し、選手として自己研鑽に励むと共に学業に励むこととなる。保体審所属の学生は、“日大生の範”となることが要求される立場なのだ。

 その保体審の選手が前代未聞の悪質な反則を行い、指示を出したのが監督だったとすれば、どうなるか――。アメフト部は保体審に所属する資格を失うはずで、これは「廃部」を意味する。しかも、内田氏は保体審のトップである局長。「伝統あるオール日大の競技部を守る意思があるのなら、内田さんは保体審の局長も辞めるべき」(同大水泳部OB)といった声が上がるのは、当然のことだろう。だが、それだけでは済まない事情がある。

◆元凶は「田中体制」
 「内田氏は、監督、保体審の局長だけでなく、常務理事も辞任すべき」。そう断言するのは、日大OBの国会議員だ。日大は、1889年(明治22年)に、吉田松陰門下生の司法大臣(当時)山田顕義らが創設した「日本法律学校」が前身。1903年(明治36年)に日本大学へと名称変更して以来、総合大学として発展し、卒業生は100万人ともいわれる。マンモス大学だけに組織も巨大。腐敗の温床となりがちだ。現在の経営トップは相撲部の総監督を兼任する田中英壽理事長だが、黒い噂が絶えない田中体制に不満を持つ職員やOBは少なくない。

 日大理事長の下には、総務、人事、財務、企画広報、管財をそれぞれ担当する5人の常務理事がいる。アメフトの内田正人氏は、人事担当だ。理事は5人の常務理事を入れて34人。その下にはさらに、全国から選ばれた126人の評議員がいる。相次ぐ粛清で、田中体制に逆らう役員は少数となっており、組織の正常化は難しい状況だ。

 日大の内情に詳しい現役の評議員はこう話す。
「来年は、創立130年という記念すべき年だ。国内企業の社長の出身大学トップは、長年日大。校友同士の絆も強く、OBは日大出身ということに誇りを持っている。それが連日、テレビの報道番組やワイドショーで日大、日大……。問題を起こしたアメフトの監督は、追い込まれてようやく取材陣の前に出てくるという始末だ。日大の恥。そいつが常務理事だというのだから、話にならない。監督辞任は当然。大学としては、保健体育審議会の役職も、常務理事の肩書も、さっさと取り上げるべきだろう。できないのは、内田が田中理事長の側近だから。内田は、話されたらまずいことを知る立場なんだ。これでは、130周年を祝うことなんかできない」

 たしかに、内田氏は、田中理事長の側近中の側近。常務理事である内田氏を辞めさせた場合、同氏を重用してきた田中体制が揺らぐのは必至だ。田中理事長としては、内田氏を守らざるを得ない。今月18日に開かれた同大の理事会では、これだけ世間を騒がせているにもかかわらず、アメフト部の問題は議題にすら上らなかったという。大学組織がマヒしているのは確かで、すべての対応が世間の常識から外れていくのには、こうした背景がある。

 日大は、田中氏が理事長に就任してから、おかしくなった。理事長自身の反社勢力との関係が取り沙汰され、利権に関する話も絶えない。反則タックルの学生が在籍するスポーツ科学部は田中理事長が強引に作った学部だが、英語講師の雇い止めや、学習塾に授業を任せるという不適切な実態が明らかになっており、「スポーツ科学部と危機管理学部は失敗。教員不足で授業内容も大学レベルに追い付いていない」(日大職員)といった状況だ。かつての日大では、理事長の独断でムダな学部を作るなどという愚行は起き得なかった。それだけ組織が腐ったという証左だろう。学生不在の歪んだ権力を守るために内田氏を庇うというのなら、日大に“最高学府”としての資格はあるまい。

 ちなみに、記者も日大OB。内田氏だけでなく、田中理事長にも辞任勧告を出しておきたい。日大の歴史を汚したのは、間違いなくこの連中だからだ。



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