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僭越ながら:論

日大と安倍政権の共通性
― 責任を取らない大人たち ―

2018年5月24日 08:50

0524_utida_abe いやはや、泥縄式とはこのことだろう。日本大学アメリカンフットボール部の内田正人監督(日大理事)と井上奨コーチが23日午後8時ごろから、千代田区の日大本部で会見を行った。悪質タックル問題の「加害」当事者である学生(20)が前日に会見を開いたことを受けて、日大側が「回答」を出した形。学生の会見がなければ内田監督らの会見はなかったはずで、なんともお粗末な「危機管理」能力だ(日大は2016年に、危機管理学部を新設しているが……)。
 ほぼ同じ泥縄事件が、政治の舞台で起きていることに、大多数の国民は気付いているだろう。学校法人「森友学園」と「加計学園」の疑惑を巡る、首相及び政府・与党の対応だ。信じるに足る証言や証拠が次々に提示される度、言い訳と強弁を繰り返す首相……。汚れた権力を守ろうとして、また歪む権力者たちの姿を、国民はどう見ているのか。

◆矛盾だらけの前監督・コーチ会見 
 日大側は23日の会見で改めて、指導陣が関西学院大アメフト部QBをけがさせるように指示したことはないと主張。学生が「井上コーチから、『QBがけがをしたらこっちの得だ』と言われた」と話したことについても、井上コーチは「そんなことは言っていない」と明確に否定した。内田監督は記者からの質問に、何度も「信じてもらえないかもしれないが」と前置きしつつ、「(反則行為の)指示をしていない」と否定している。「信じてもらえないかも~」発言に、うんうんとうなずいた視聴者も多かっただろう。

 井上コーチは「自分の未熟さのせいだ」と、今回の問題の責任が自分にあるかのような発言を繰り返した。なるほど、自身の日大アメフト部時代の恥ずかしい過去をかばった内田監督に対する恩義をこうやって返すのかと、三文芝居を見るようで鼻白んでしまったのは記者だけではあるまい。

 では、この音声記録について内田監督はどう弁明するだろう。週刊文春は23日午後4時ごろ、「日大アメフト部内田監督『14分の自供テープ』を独占公開」とする記事と動画の一部を公開(http://bunshun.jp/articles/-/7477)している(全文は後日公開予定とのこと)。動画は、問題の試合の直後の内田監督の記者会見を録音したもので、「〇〇はよくやったと思いますよ」と得意げに語る内田監督の声がはっきりと残されている。同日夜の会見で内田監督は、問題の悪質タックルについて「自分はボールを見ていたので、反則行為は見ていなかった」と語ったが、見ていないプレーについて「よくやった」とはどういうことなのか。会見を見た日大のアメフト部員が「嘘ばっかり」と吐き捨てたことが、すべてを語っている。

■「誰も責任を取らない」日本社会
 米国在住の映画評論家・町山智浩氏は民放TBSのラジオ番組で、悪質タックル問題が注目を集める理由について、こう話している。

町山氏「なぜみんな、この日大のアメフトのニュースを非常に重要だと思って見ているかっていうと、やっぱり、ここに日本全体で起こっているすべての体質が象徴されているからだと思うんですよ。ずーっと前から起こってきたことが。上の者は下に押し付けて責任を取らないっていうことが。で、誰も責任を取らない状況がこのままあらゆる場所で続いていくということになると、まず若い人たちははっきり言って年上の人たち……50代以上の人たちを信用しなくなりますよ、本当に。だって自分たちは捨て石にされちゃうんだもん」

 日大アメフト問題と安倍政権を結び付けて批判することについて、「安直すぎる」「左翼の発想」などと嘲笑する意見がネット上にあふれているのは承知している。しかし、権力者の嘘の犠牲という意味では両者の構造は同じであり、腑に落ちることは確かなのだ。

 森友学園の国有地売却をめぐる決裁文書の改ざん問題では、直接改ざんに関わったとされるノンキャリア男性が自殺した。自殺した男性が遺したメモには「自分ひとりの責任にされてしまう」と書かれていたが、そのことを知りながら佐川元国税庁長官は証人喚問で「答弁を差し控える」と開き直った。自身が刑事罰に問われるのを言い訳に、改ざん指示の有無や改ざん経緯について語らず、最後まで自身が責任を取ることもなければ、元部下に対する弔意を表すこともなかった。

■犠牲になるのはいつも弱者
 すべての原点ともいえる、安倍首相の「(森友学園疑惑に)関連していたら総理を辞める」発言。決裁文書の改ざんはこの発言に文書を符合させるために行われた可能性が高い。23日には、破棄したとしていた森友学園関連の交渉記録が900頁以上、どこからともなく見つかって国会に提出された。要するになにもかもが無茶苦茶で、もはや秩序も規律もあって無いようなものだ。

 加計学園の獣医学部新設に関する問題も同じ。愛媛県が国会に提出した新文書には、安倍首相と首相の「腹心の友」である加計の理事長が、首相が獣医学部新設の件を「知った」と主張してきた2年も前に、学部新設について話し合っていたことが明記されている。しかし、首相は事実関係を否定し「話していない」と強弁する。

 そろそろ気づいてよいころではないか。安倍首相が粛々と進めてきたのは、「戦後レジームからの脱却」。つまり、「戦後」の破壊とファシズム的秩序の構築であり、その妄想の根源には、首相の憧れであるとともに最大のコンプレックスでもある祖父・岸信介との一体化という願望がある。そうした変態じみた国家の私物化こそ安倍政権の本質に違いなく、だからこそ戦後の歴代総理大臣と比較しても特筆すべき犯罪性を帯びているのだ。

 同じく、大学スポーツの目的や意義を見失い、自身の権威付け、権力基盤としてチームを私物化した成れの果てが日大アメフト部の内田体制であり、ひいては日大本体の田中英壽理事長体制といえる。大人たちが何を言い繕っても、若者1人が重傷を負い、別の若者も心に傷を負って「二度とアメフトはしない」と夢を捨てた事実が変わることはない。戦争で死ぬのはいつも若者と貧乏人だという真理の一端を、平成30年の日本で見た思いだ。



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