地方都市における商工会議所の存在は重く、会頭ともなれば地元の名士。大半の市民は、会頭が代表を務める会社を知っているものだ。ところが、誰に聞いても会頭の名前と会社名が一致しないという、珍しい商工会議所が存在する。
福岡県久留米市。県南に位置する人口約30万人の中核市だが、「久留米商工会議所」の会頭・本村康人氏の会社について訊ねると、ほとんどの市民が首をかしげる。「分からない」「?」――。実際の所属企業を告げても「知らない」「そんな会社聞いたことがない」という回答だ。
本村会頭の所属企業について取材したところ、同会議所の歪んだ実態が浮き彫りとなった。
■市民が知らない「会頭の会社」
久留米商工会議所の会員数は4,534。管内の組織率は50%近くで、県南第一の規模だ。議員は100名。役員のトップである会頭が本村康人氏である。平成17年に就任し、昨年11月から4期目に入った。久留米経済界の重鎮とも言うべき存在だが、本村氏の会社について聞くと、冒頭に記した通り、ほとんどの市民は正確に答えることができない。
かろうじて返ってくるのは「本村商店でしょう」。たしかに本村氏は酒類卸で3代続いた本村商店の会長として商工会議所の役員になっていたのだが、現在、本村商店という会社はない。商議所の会頭を出した本村商店は、今年8月に酒類食品卸大手の「イズミック」(本社:愛知県名古屋市)に買収され子会社化。「本村イズミック」という社名に変わっていた。
会社の登記簿を確認したところ、本村会頭自身は平成26年6月の時点で取締役を辞任していた。関係者の話によれば、25年頃から事実上の銀行管理状態になっていたという。本村氏は、本村商店の取締役辞任の時点で商工会議所会頭としての資格を失っていたと言うべきだろう。
■会頭の会社は実態不明 ― 住所地は個人宅
では、3代続いた老舗を潰した本村氏が、どうやって会頭の座に居座ることができたのか――。そこで登場するのが、「久留米業務サービス」という会社だ。下は、久留米商工会議所のホームページ上にある役員一覧(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。本村会頭の所属企業は、本村商店ではなく「久留米業務サービス」となっている。
久留米業務サービスという会社について調べてみると、ホームページもなく実態が分からない。登記簿上の目的欄には、ICカードサービスなど16項目もの業務が記されているが、久留米市内で聞いても「分からない」「知らない」という返事ばかり。本村氏は、平成27年12月にこの会社の取締役に就任していた。11日、同社の住所地を訪ねたところ、どう見ても個人の住宅兼事務所。「ニューフタマタ」という会社の看板はあるが、久留米業務サービスという社名の看板もなく、郵便ポストも見当たらない。インターホンのボタンを押してみた。(下が登記上、久留米業務サービスのある建物)
玄関まで出てきた年配の男性に、久留米業務サービスの所在地がここで間違いないか確認すると、怪訝そうに「はいそうです」。業務内容や社員数を尋ねたが、あとは「分かりません」の一点張りだった。電話番号さえ答えられないという。これが商工会議所会頭の会社というのだから、呆れるしかない。実態不明――。それが久留米業務サービスのという会社の実情なのだ。
■問われる「会頭」としての資格
なぜ、自分の会社を破たんさせ、実態の分からない会社の役員でしかない本村氏が、商工会議所の会頭でいられるのか?誰もが抱く疑問だろう。久留米業務サービスの実態を取材した上で、久留米商工会議所に直接話を聞いた。
会議所の事務局長(総務部長兼任)によれば、本村商店は平成28年3月末まで会員。一方、久留米業務サービスは平成27年4月に入会しており、本村氏は28年4月から同社から出た形で会頭を続けているという。加えて、本村氏は会頭が就くポストである久留米市の街づくり第3セクター「ハイマート久留米」の役員であるため、資格については問題がないと断言する。本当にそうか――。下に、本村氏の近年の経歴についてまとめた。
前述したように、本村氏は平成平成26年6月に本村商店の取締役を辞任。久留米業務サービスの取締役就任は平成27年12月だ。約1年6か月、同氏は登記簿上の取締役には就いていなかったことになる。一方、ハイマート久留米の役員は、会頭だからこそ可能な役職。会頭職を退いていれば、失っていたはずのポストだ。1年半もの役員空白期間があった人物が、中核市の商工会議所で会頭を務めるケースなど聞いたことがない。ハッキリ言って、異常事態だ。
それでは、本村商店の取締役を辞任した平成26年6月から久留米業務サービスの取締役になる平成27年12月までの1年半。本村氏はどのような立場で「会頭」にしがみついたのか。商工会議所の事務局長に確認を求めたところ「本村商店の会長」だったと言う。取締役の資格のない人間が会長だったと言うのである。これも、一般的にはあり得ない話だ。会長だったということを証明できるかと問うと、「できない」。公的には何の証拠もないということだ。開いた口が塞がらない。
一連の流れから推測すると――本村氏は、本村商店の破綻が確実となりつつあった時期から会頭職に留まることを画策。久留米業務サービスという知人のペーパーカンパニーを無理やり会議所の会員にし、自身が同社の取締役に就くことで「資格」が無くならないように偽装した――こういう見立ても成り立つ。
■会議所議員からも厳しい批判
「商工会議所は、地域の商工業者の世論を代表し、商工業の振興に力を注いで、国民経済の健全な発展に寄与するための唯一の地域総合経済団体」(久留米商工会議所HPより)なのだという。設立根拠は「商工会議所法」。億を超える公的な補助金の受給団体でもある。その商工会議所で、資格に疑義がある人物を会頭として留任させることが許されるのか?答えが「NO」であることは言うまでもない。
もう一度整理しておこう。自分の会社を破綻させ、1年半もの間会社の役員でもなかった人物が、今度は実態不明の会社の役員という形で地元経済界トップに居座り続ける――これが久留米商工会議所の現状だ。当然、批判はある。ある商工会議所の議員は、次のように話している。
「本村氏が衆議院選挙や市長選挙で暗躍するのは、自身の立場を政治力で強化するためだ。地元の代議士や市長を操ることで、力を誇示したいのだろう。本当かどうか分からないが、知り合いの社長は、本村氏から反社勢力との関係をひけらかされたという。そうした示威的な態度に、多くの人が『触らぬ神に祟りなし』という状態になっている。本村商店を潰したことや、“なんとかサービス”という会社に実態がないことなど、ほとんどの(商工会議所)議員が知っている。おかしい、間違いだと分かっているが、青年会議所(JC)時代の後輩たちを副会頭にし、批判を封じ込めている。歪んでいるのは確か。久留米商工会議所には、地域の事業所を指導する資格はない」