衆参両院で自民党が単独過半数を占めて迎えた今国会。7日にあった党首討論で民進党の蓮舫代表が追及したのは、自民党の国会軽視が目に余るカジノ法案だった。「わが党においては結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」。そううそぶく安倍首相を問いただすのに絶好のテーマと踏んだのだろう。野党第一党の党首が持ち時間の半分以上を費やしたものの、議論は深まらなかった。
参議院での論戦に期待したいが、先日の衆院内閣委員会を思い起こせば、ため息が出るばかりだ。自民党議員が般若心経について説き始める――という審議の実態については、先日の配信記事≪八百長審議でカジノ法案強行採決≫で詳報した通り。改めて調べてみると、この長崎3区選出の谷川弥一氏、国会で般若心経のありがたさを語ったのは、これが初めてではなかった。(写真は説教中の谷川衆院議員)
2004年予算委分科会でも般若心経
2004年3月の予算委員会第六分科会。谷川氏は、林業に所得保障や輸出補助金をつけるべきだと主張した上で、政府参考人として出席していた林野庁長官に、リーダーに求められる心構えを説いた。
リーダーに一番必要なことは哲学ですよ。哲学の背景には宗教心があるんです。その二つの後ろに伝統文化というのが生まれてくるんです。私の宗教である曹洞宗、教義の般若心経というのは、「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄」とずっと続いていきますが、一切の苦しみや災難から救われるよという意味なんです。どぎゃんすりゃよかとね――無念無想、無我夢中になって取り組みなさい、林業に。どぎゃんしたら無我夢中になれるんですか――それは般若波羅蜜多を修行しなさいということなんです。
谷川氏から「コメントがあったらどうぞ」と投げかけられた林野庁長官は、般若心経に基づくリーダー論には触れず、「何とか森林を将来に向けて維持していきたい、そういった思いの中で、我々としても精いっぱい頑張っていきたいというように思っている次第でございます」などと答えるしかなかった。
県議時代にも般若心経
さらにさかのぼってみると、谷川氏は長崎県議時代にも、般若心経を引き合いに県職員たちへ〝お説教〟をしていた。2002年3月の長崎県議会総務委員会での発言だ。その内容は、谷川氏ならびに自民党、安倍政権にこそ聞かせたいものだった。議案の採決を終え、県に対し、議案以外で意見や質問をぶつける場面。
その冒頭――
県庁の皆さん方には長所と短所がありますよ。特に短所についてはご理解を賜りたい、自分の欠点は自分で知っておいてもらいたい。
谷川氏によれば、時代は製造業中心から頭脳を使う知識社会に変わって行っており、世の中の動きを早く察知して手を打てば、どんどん経済成長できる。議員の提案を県庁が受け入れないのは、職員たちが「苦を避け楽を求める」からだ、と指摘する。
苦を避け楽を求める。それから、悪いことは人のせいにする。この人間が持っている根源的な本能が、多ければ多いほど、その組織というのは、国というのは衰えていくんですよ。苦を避け楽を求める。そうすると努力しないわけですから、チャレンジしないわけですから、人の行いというのには関心を示さない。唯我独尊、我が道を行く。権力を持っているがゆえにそう陥りがちだということだけは、頭にしっかり入れてくださいよ。
「苦を避け楽を求めるのが人間の本能」とは、カジノ法案審議でも言及した谷川氏の持論のようだ。続けて、般若心経を持ち出す。
それで、私が言いたいのは、薬師寺に高田好胤さんという人がおりましたね。「偏るな、こだわるな、とらわれるな。心を広く、広く、もっと広く。これが般若心経、空の心なり」と言った人です。日本人は宗教をものすごく嫌うけれども、特に政治の世界では嫌いますが、何の宗教をしろと言うわけじゃないんだから、己の心を律する何かを持っておけば、持たないよりいいんじゃないか。そういう柔軟な心を持たないと、天を恐れる心を持たないと、やっぱり謙虚になりませんよ、人間は。一番謙虚でなさそうに見える私が言うんですから、理解を賜りたいと思います。
「政治の政界では(宗教を)嫌う」と言うあたり、政教分離の原則は、谷川氏も知ってはいるようだ。にもかかわらず、自分だけは守らなくてよいと考え、「唯我独尊、我が道を行く」のは、なぜだろう。谷川氏が言う通り、「権力を持っているがゆえに陥りがち」な穴に落ちてしまっているのではないだろうか。例えば、公明党議員が、国民の不安の大きい法案に対し、通り一遍の質疑しかせず、「あまりにも時間が余っているんで」と「南無妙法蓮華経」と唱え出したとしたら、どうなるか。さすがの谷川氏でも、想像できるだろう。
谷川氏には、ぜひとも「権力を持っているがゆえにそう陥りがちだということだけは、頭にしっかり入れ」た上で、「謙虚に」政治に取り組んでいただきたい。〝お説教〟は、巨大な権力の上にあぐらをかき、強行採決を連発する安倍首相と自民党にこそ必要だ。