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出入国管理法改正案への懸念

2018年11月12日 08:00

8af47d3e1469444682567b07fd6704149c314769-thumb-230xauto-24414.jpg 新たな在留資格を盛り込んだ「出入国管理法改正案」が閣議決定され、13日以降の臨時国会に提出される見通しとなった。政府の骨子案によれば、新たな在留資格は介護、農業、建設、外食など14の分野において、「相当程度の知識または経験」を有する外国人労働者に在留が最長5年の「特定技能1号」を付与。さらに、「熟練した技能」があると判断され「特定技能2号」と認められると、在留期限無制限で家族の帯同も認めることになる。
 労働法の専門家の間では、単純労働者の受け入れを原則禁じてきた従来方針からの抜本的転換とみられているが、課題山積の法案に成立を危ぶむ声も上がっている。

■労働力不足の現実
 国会議員の事務所にも、多くの企業から技能研修制度に関する問い合わせが増えているといい、改正案への注目度が大きいことがわかる。政府がこの改正案の提出を急いだのは、国内の多くの業界が深刻な人手不足に悩まされているからだ。みずほ総研によれば、2016年に6,648万人だった日本の労働力人口は、2030年には5,880万人になると予測されており、単純計算で768万人の労働力減少が起きることになる。

 一方、労働者にすれば人手不足というのは悪い話ばかりではない。労働力の希少性が高まることによって給料が上がるという現実があるからだ。よく、「外国人留学生に頼らないと成り立たない」という経営者の悲痛な叫びを耳にする。「人手不足で企業がバタバタと倒れていくぞ」という人もいるが、それは低賃金労働を前提としているのであって、そもそも、そんな低賃金の業種には誰も集まらない。いくら探し回っても、安くこき使える労働者が確保できないので、実習生や留学生を拡充しようとするもくろみが透けて見える。若者の数が減るなか、安い賃金で働く有能な外国人労働者が増えれば、日本の若い労働者はいま以上に苦境に陥る可能性が高くなるという懸念もある。

■AIの活用で減る仕事
 今後、労働人口が急激に不足することは明らかだが、NRI・野村総合研究所からはAI(人工知能)の発達により、日本の労働人口の49%が不要になるというデータも発表されている。メガバンクは大規模な構造改革に踏み込み、主力3行はAIなどを活用して効率化をはかり、今後10年間で合わせて3万人分を超える業務を削減する計画を掲げている。。

 業務削減の動きは保険業界でも加速している。日本経済新聞2017年12月29日付けの朝刊は、生損保各社の業務効率化の取り組みを紹介しており、三井住友海上火災保険は「営業事務を9割削減。1.5万人の仕事見直し」、あいおいニッセイ同和損害保険は「全業務量を2割、営業事務を6割削減」と報じている。

 銀行でローン審査を担当してる人から聞こえてくるのは、「ローン希望者の職業や資産に点数をつけて総合評価をするのはAIです。私たちはその判断を確認して決済するだけ。重要な判断はプログラムに委ねているわけで、正直、機械に使われているような感覚に襲われます」という嘆きの声だ。

 三菱総合研究所は、全国31の自治体と協力し、育児やごみ出しなど住民からのさまざまな問い合わせに人工知能が応答するサービスの実証実験を始めた。住民はスマートフォンやパソコンを使った文字のやりとりで24時間気軽に質問でき、人手不足に悩む自治体側は電話応対業務などを効率化できるとされている。金融業だけでなく、公務員の世界も大きなリストラが迫っているのだ。業務が減るということは、人員削減にもつながる。経済産業省の試算によると、「2030年、国内バックオフィス要員は140万人消える」のだという。

 AIにより仕事が激減し、2割の人が失業したとする。すると8割の人が生き残るのかというと、それほど単純な話にはならない。2割の失業者といえば1929年に起きた大恐慌と同じレベルだ。失業者がそんな規模で発生したら社会が成り立たなくなってしまうだろう。AIに仕事を奪われる――つまりリストラされやすい――職業として、銀行員、スポーツの審判、レストランの案内、レジ係、保険の審査担当、電話オペレーター、弁護士助手、ホテルの受付、測量技術者、義歯制作技術者、彫刻師、塗装工など多くの業種があがっているが、こうした職業につく人たちの転職先が簡単に見つかるとは思えない。

 前述したみずほ総研の試算では、2030年に768万人もの人手不足が発生するということになっているが、人工知能が1,000万人分の仕事を消滅させただけで、この問題はあっという間に解決してしまう。実際には、AIがそれを上回るペースで人間の業務を効率化していくと予想されている。

 人工知能が労働を肩代わりしてくれ、外国人労働者がコンビニ・飲食店・宅配便・介護といった仕事を担当し、生活費の足りない高齢者が警備員・チラシのポスティング・清掃の仕事を請け負ってくれるのが未来の姿だと予測されているが、果たしてそれが理想の社会なのか疑問だ。

■移民法案への懸念
 労働人口減少の対策として、新たな「出入国管理法改正案」を成立させれば、短期的には多くの業界から歓迎され、企業の利益も増えるだろう。しかし、長期的には「移民」の存在が大きな問題となり、日本社会の混乱をもたらすこととなるのは目に見えている。

 政府は新たな出入国管理法改正案について、「多様性・オープンな社会」と謳っているが、どういう言葉で取り繕おうとも、事実上の移民法案であり、移民は認めないとしてきた政府見解に反する内容だ。一度受け入れてしまった外国人労働者を、追い出すとことはできない。日本で家族とともに生活をすればなおさらだ。

 今、欧米は大規模な難民流入という問題を抱えている。受け入れ準備が整わない状態で難民が急増したため、財政負担が想定以上に膨らみ、文化圏の違う人々との共存を余儀なくされた国民の不安が高まった。その結果、難民の流入を制御できない既存政権への不信感が高まり、ポピュリズム政党の台頭を招くなど、政治情勢が不安定化している。日本でも同様に、不満や憎しみを膨らませながら移民と対立するという、欧州と同様な状況になる可能性が高い。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルは今年6月、トランプ米大統領がカナダ・シャルルボワでの先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で「私が(日本に)メキシコ人を2,500万人送れば、君はすぐ退陣することになるぞ」と脅しともとれる発言をしたことを報じている。暴言だが、難民や移民が各国の政権を揺るがす問題であることは確かだ。労働力不足を安易に外国人労働者の受け入れで賄う手法が本当に正しいのかどうか――。出入国管理法改正案は、強行採決で決めるべきものではない。



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