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北朝鮮ミサイル “発射の兆候”隠した政府

2017年9月 5日 09:30

b3a29880c16e04d3007fee86fa34d9bb8e126132-thumb-230xauto-21842.png 8月29日早朝に、日本を騒然とさせた北朝鮮の中距離弾道ミサイル。Jアラートによるミサイル発射情報に、多くの国民が驚いた。とどまるところを知らない北朝鮮の蛮行だが、絶対的な迎撃システムなどなく、自分の身は自分で守るしかない状況だ。
 そこで重要な意味を持つのが、発射の兆候をつかんだ段階での情報開示。経済活動が滞ろうが、学校教育にマイナスになろうが、危ないと分かった時点で、外出を避けるなり頑丈な建物に身を寄せるなり、工夫するしかない。
 かねて「国民の生命・財産を守る」と断言してきた安倍政権だが、ミサイル危機で言行一致の対応をしたのか――。首相の一連の動きからは、事前情報を隠して、国民を危険にさらした嘘つき政権の実態が浮き彫りとなる。

■首相動静「公邸泊まり」の意味
 下は、西日本新聞30日朝刊の「首相動静」欄。北朝鮮のミサイル発射は、29日の午前5時58分頃。安倍首相は、そのわずか25分後の6時24分に官邸で記者団の取材に応えている。

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 早い対応を可能にしたのは、首相が官邸に隣接する「公邸」に居たからだ。西日本新聞29日朝刊の「首相動静」欄によれば、首相は前日28日の午後6時18分に公邸入りし、その後高村正彦副総裁、二階俊博幹事長、竹下亘総務会長、岸田文雄政調会長ら党幹部と会食。菅義偉官房長官ら官邸の主要メンバーも同席している。8時20分には全員公邸を出ているが、首相はこの日、“公邸泊まり”となっていた。首相の自宅は渋谷区富ヶ谷。この日は、異例の対応だったことが分かる。

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 政府関係者によれば、ミサイル発射の前日夜には「兆候を察知していた」。首相の公邸泊りはミサイル危機に対応するためだったという。政府は、ミサイル発射の兆候があることを知りながら、国民にその事実を伏せていたということだ。

■機能しない「Jアラート」
 北朝鮮が事前予告していたのは、米領グァム周辺海域へのミサイル発射。名指しされた日本の島根県、広島県、高知県の他、愛媛県の上空を通過することが予想されていた。しかし、29日に発射された北朝鮮のミサイルが飛んだのは北海道の上空。全国瞬時警報システム=Jアラートを使った情報伝達は効果を上げ得ず、課題ばかりが残る結果となっている。

 Jアラートによる情報発信はミサイル発射から約4分後の午前6時2分。ミサイルはその4分後には北海道襟裳岬上空を通過している。つまり、北朝鮮から発射されたミサイルは7~8分で日本に到達するということ。Jアラートによる緊急情報を受けてからだと、身を守るための時間は4分あるかないかだ。こうなると、ミサイル着弾地点周辺の国民は、僥倖を期待するのみ。命を守るためには、より早い時点で、発射の兆候を示す情報を得るしかない。Jアラートによる情報発信は、形式だけ。「やってます」という政府のアリバイ作りに過ぎない。

■誰のための危機管理か
 今回の北朝鮮ミサイルで何らかの被害が出ていたら、「なぜ、事前に情報を知らせなかったのか」と糾弾されていたはず。政府が事前に北朝鮮のミサイル発射の兆候をつかんでいたのなら、その段階で国民に知らせるべきだろう。「事前に情報を得ていたから、首相も公邸で待機していた。準備も万全だった」――こんな言い訳は通用しない。政府がやっていることは、国民のための危機管理ではなく、政権のための危機管理。発射の兆候を把握しながら、その事実を伏せるのは間違いだ。

 戦前の日本では、体面を取り繕うことに狂奔した軍部の大本営発表によって、国民は塗炭の苦しみを味わわされた。主権在民となった今の日本で、国民の安全に関する情報が非開示になるようなことがあってはなるまい。旧軍の流れをくむ防衛省だが、隠蔽体質まで受け継いでいることは、南スーダン派遣部隊の日報問題でも明らかだ。軍事情報であっても、特別扱いして良いものと悪いものがある。国民を危険に晒しておいて、何が危機管理か。



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