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トランプ ― 狂気の大統領

2017年2月 1日 09:50

20150623_h01-01t---2.jpg 戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。――ユネスコ憲章前文の一節である。
 「世界遺産」でなじみの深いユネスコは、教育、科学、文化の振興を通じて、国際平和と人類の福祉の促進を目指す国連の専門機関だ。第二次世界大戦後、そのユネスコや国連の創設に主導的な役割を果たしたアメリカの新大統領が、“平和のとりで”ならぬ「差別の壁」を建設するのだというから呆れるしかない。
 ドナルド・トランプ――狂気の政治家である。

■大統領令
 大方の予想を覆して第45代アメリカ合衆国大統領に就任したトランプ氏。大統領選で訴えた公約を、矢継ぎ早に発した「大統領令」の形で実現に移しつつある。

トランプ.png トランプの名を高めたメキシコ国境の壁、TPP離脱、難民受け入れ凍結、イスラム諸国からの入国禁止……。彼が掲げるアメリカ第一主義は、宗教を理由にした「差別」と表裏一体。ナチスドイツのアドルフ・ヒトラーは、ユダヤ人を迫害し大量虐殺まで行った人種差別主義者だが、トランプの方向性も同じである。いまや「人権無視」と「不寛容」は、トランプのための形容詞。近年の紛争が宗教に起因していることを思えば、アメリカは、国内外に戦争の火種をまき散らかす大統領を選んだということになる。狂気の政治家の側には、核ミサイルの発射ボタン。気違いに刃物とは、こういうことを言う。

■ツイッター
 非常識の塊とでも言うべきトランプは、情報発信の手法も異常だ。トヨタ自動車への脅し。ニューヨークタイムズをはじめとする批判的メディアへの攻撃。いずれもツイッターでの“つぶやき”を利用したもので、彼の思いつきに世界中が振り回される状況となっている。「計算された情報発信」だと持ち上げる向きもあるが、非公式発言で世の中を動かすなど、一国のトップがやることではあるまい。自国の利益だけを追求する姿勢は、国家間の格差拡大を助長し、新たな差別を生むに相違ない。大国の力を背景にしたトランプとその支持者のエゴが、自由の国アメリカを分断し、世界に不安をもたらしている。

■恫喝
 狂気の大統領に従う連中の発言も、また狂気に満ちている。アメリカの新国連大使になったヘイリー女史は、就任早々、「アメリカの力を示す」として国連を恫喝。アメリカが支払ってきた負担金の停止を示唆した。アメリカは毎年、国連予算の2割強、平和維持活動費用の3割近くを負担しており、トランプ政権の言うことを聞かなければ、これを停止するというのである。「同盟国がわれわれを支持しないならば、相応の対応をする」とも述べている。「かかってこい」と言わんばかりの凶暴さ。これはもう、国家というよりマフィア組織の姿と言うべきだろう。トランプ陣営の人々の心の中にあるのは、“平和のとりで”では決してない。

■理念なき指導者
 大戦後、アメリカが主導して起草されたものがもう一つ。「国連憲章」である。前文には、こう謳ってある。

 われら連合国の人民は、われらの一生のうち二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念を改めて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、並びに、このために、寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和および安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって確保し、すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いることを決意して、これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。

 ユネスコ憲章も国連憲章も、起草の中心となったのはアメリカだ。トランプに問いたい。≪基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念≫とやらは、どこに消えたのか?≪寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活≫するという理念は放棄するのか?≪すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いる≫努力はしないのか?

 トランプは、「偉大なアメリカを取り戻す」と叫ぶ。しかし、アメリカが偉大だったのは、世界の警察を自認し、自由と平和を守る番人としての地位を守り続けてきたからだ。アメリカさえ良ければそれでいいとするトランプ主義は、国際協調と無縁のものであり、宗教差別が紛争を引き起こす懸念さえある。理念なき指導者は、一体何を取り戻すそうというのだろうか。



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