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「育休」めぐる元総理次男の暴論 ― 劣化する政治(下)

2016年1月13日 09:05

国会議事堂 政治の劣化も、ここまでくると手の施しようがない。
 昨年12月、自民党の宮崎謙介衆院議員(京都3区)が、今国会で「育休」をとることを公表。育休を求める国会議員が現れたことにまず驚いたが、宮崎氏を擁護する同僚議員のブログに記された主張を読んで、この国の政治が崩壊段階に入っていることを確信した。
 ブログの主は橋本岳衆院議員(岡山4区)。橋本龍太郎元総理の次男である。

育休擁護で暴論展開
 事の発端は、昨年12月23日に宮崎議員が自身のブログ上で公表した「育休」。同僚議員でもある妻が妊娠中で、出産間近であるとした上で、『私は産後一カ月は妻を助け、子供を育てるために育児休暇をとる決意をしました』と宣言。連日、ブログで「育休を取る」と判断した訳を、くどくどと説明した。

 国会議員の育休は前代未聞。賛否両論飛び交うこととなり、自民党幹部から宮崎議員に苦言が呈される事態に――。そうしたなか、橋本議員がブログで宮崎氏擁護のとんでもない主張を展開する。

 ブログを書いた橋本岳衆院議員は当選3回。父は橋下龍太郎元総理、祖父は橋下龍伍元厚生大臣という政治エリートの家系に生まれた政治家3世である。代々の強固な地盤に加え「橋本」の看板、資金に困るということもなかったはずだが、小選挙区での落選が2回。不思議に思っていたが、本人の程度の低さを地元民が察した結果だったとすれば、納得がいく。下は、橋本氏のブログの画面。≪宮崎謙介議員の国会議員育休宣言をめぐる議論について≫として、長々と彼の主張が展開されている。

橋本氏のブログ画面

 橋本氏のブログを読んで、それでも一票を投じようという人がいれば、よほど龍太郎氏に恩を受けた方か、「誰でもいいから自民党」と固く決意している人のどちらかだ。とにかく、同氏の主張のお粗末さには唖然。“三代目は家を潰す”とは、よく言ったものである。

 まず、冒頭は「育休」についての解説。“育休は「育児休暇」に非ず”として、育休の根拠法は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」だから「育児休暇」は間違い、正確には「育児休業」なのだと有難いご教授。たしかに、ここまでは良かった。問題は、次からだ。

●国会議員の仕事は、義務ではなく権利である

 小見出しには、そう明記されている。橋本氏の言い分をまとめるとこうなる。

  • 国会議員は、衆議院または参議院に「使用される者」ではない。
  • 衆議院や参議院と契約して議員になっているわけでもない。
  • 労働者なら労働することが義務付けられており、例外として育児休業が法律で保障されるが、国会議員は労基法における「労働者」でもない。
  • 国会議員には、国会法のどこを眺めても課せられる義務はない。例外は(国会の)応召義務と、行為規範の遵守義務くらい。
  • 法律的には、国会議員の議会活動は、法的には義務ではなく、権利にすぎない。
  • 本会議や委員会にどれだけ休もうと、寝ていようと、法的には全く何の問題もない。
  • もちろん、投票して下さった有権者のご期待に応えるという道義的責任があるが、それは次の選挙により選択されるべきこと。

 育休・宮崎の擁護である以上、結論は「国会議員の育休を認めるべき」のはず。それを導き出すために並べた前提が、「国会議員の仕事は、義務ではなく権利」という主張だ。おぼっちゃんには、“国民の負託に応えよう”という義務感はないのだろう。案の定、高額な歳費が「税金」を原資としていることなど、お構いなしの見解が続く。小見出しが、これ。

●歳費は賃金ではない

 ―― 以下、記された橋本氏の説を、そのまま紹介しておきたい。

 同様に、歳費は日本国憲法第49条で保障された権利です。「労働の対償として支払われる」ものではないので、賃金ではありません。これは国会議員の活動の自由を保障するための規定だと考えます。同時に、労働の対価ではないので、どれだけ議員活動をサボっていても受け取ることのできるものという表現も可能です。しかし、これが憲法の規定なのです。国会議員は、それだけ活動の自由を認め保障して頂いていることは肝に銘じなければなりません。

 橋本氏を選んだ岡山4区の有権者には悪いと思うが、「お前はアホか」――電話してそう言ってやりたい心境になった。国会議員に求められているのは国の舵取り。国民は、そのために高い歳費を容認しているのであり、“労働の対価”を支払っているなどと思っている人は少ないだろう。国民の政治不信は、高い歳費に見合った活動をしていない低レベルな国会議員に向けられたものなのだ。安倍首相に同調して改憲を叫びながら、都合のいい時だけ「憲法」の規定を持ち出してくる神経には呆れるしかないが、橋本氏は「国会議員」が国家と国民に仕える身だということが理解できていない。特権階級意識むき出し。これほど国民を愚弄する政治家はめったにいないだろう。

 以下、≪育休が法律で定められている精神は酌むべき≫、≪(地元の有権者の声を国政に届けるためには)秘書の出番。電話やファックスやネット等もあるから、本人も在宅でサポートできる。宮崎議員の場合「一か月程度」とのことで、大きな支障が出るとは思えない≫などと続き、最後は「やっぱり」の結論となる。

 ゴールは極めて簡単なことです。本会議への出席は義務ではなくて権利なので、本人は欠席届を提出して休めばよいその他のことは法的には何の義務もないし、党内的には差し替え等同僚がフォローすればよいだけです。

 このおぼっちゃんには、国会が「国権の最高機関」であるという自覚が欠如しており、“育休とって何が悪い”と言わんばかりの暴論だ。これほど程度の低い国会議員が存在すること自体が、政治劣化の証明であるとも言えよう。

 橋本議員が持論の拠り所としたのは憲法、ならば次の条文をかみしめるべきだろう。
すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない』(日本国憲法第15条2)



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