食品などのラベルや包装紙によく見かけるのが「モンドセレクション○賞受賞」の表記。モンドセレクションがどのような賞か知らなくても、「金賞受賞」などと記されていれば、ついその商品を手に取ってみたくなるものだ。受賞商品のあまりの多さに賞の価値を疑うこともあったが、政治や行政のネタばかり追う記者にとっては専門外。たいして気にも留めていなかった。
だが、食べ物を対象とした賞だとばかり思っていたモンドセレクションが、「石鹸」まで評価の対象にしていたことを知って再認識。さらに、数年前に健康被害を引き起こし、いまだに消費者との裁判を抱えている企業が製造した「石鹸」が、金賞とやらを連続受賞していたことに驚いた。以下、モンドセレクションへの疑問。
モンドセレクションとは
モンドセレクションのホームページによれば、≪毎年87カ国以上から3230に及ぶ商品がモンドセレクションにて評価≫されているのだという。審査カテゴりーは次の通りとなっている。
毎年10月から応募が受け付けられ、12月から4ヶ月間、応募商品の品質が審査・評価されるという。詳しい審査基準までは公表されていないが、各商品が得た得点に従い、次の各賞が贈られるシステムだ。
優秀品質賞を25年間連続達成した企業には「25周年記念トロフィー」、10年間連続達成した企業には「クリスタル・プレステージ・トロフィー」が与えられ、金賞または最高金賞を3年連続達成した“商品”には「インターナショナル・ハイクオリティー・トロフィー」が与えられる。優秀品質賞のラベルは3年間、受賞商品の広告用として印刷などに利用する事が許されている。
「賞」に弱い民族性ということなのか日本における受賞のご利益は絶大。かくして、モンドセレクション受賞商品が氾濫する状況だ。同賞のホームページには、受賞メリットが堂々と掲載されている。
これだけご利益があるのなら、売上げアップを狙う各企業が勇んで応募するのもうなずける。だが、世の中は甘くない。これほどメリットのある賞を、ただでいただけるわけがないのだ。各商品の応募費用は、次のように定められている。
1200ユーロは、現在の相場でおよそ16万円。日本の企業は、毎年15~16万円を支払って、モンドセレクションの審査を受けているということだ。ここまで調べたところで、「モンドセレクション金賞受賞」のありがたみが薄れてきたが、同賞の審査・評価自体に疑問が生じるケースがある。
悠香「石のしずく」に連続金賞?
下は、福岡県内の主婦に送られてきたダイレクトメールの一部。三つ折りの各面はハガキ大で、あて名面の下のスペースに『速報! 5年連続 モンドセレクション 金賞受賞』とある。
別の面には、さらに詳しい紹介(下参照)。5年連続のモンドセレクション金賞受賞は、『悠香の石鹸』が『国際的に認められた証』なのだという。さらに、10年連続で受賞した企業に与えられる「クリスタル・プレステージ・トロフィー」を授与されたとある。知らない人が見れば、この石鹸とその製造企業「悠香」が、国際的に高い評価を得ているとしか思わないだろう。本当にそうか?
このダイレクトメールを発送したのは「悠香」。モンドセレクション金賞を受賞したのは、このDMで購買を誘っている「悠香の石鹸」で、写真をよく見ると石鹸本体に「茶のしずく」とある。ご記憶の読者も多いはずだ。「茶のしずく」は2005年から悠香が販売してきた石鹸。2009年から2010年にかけて、「茶のしずく」が原因とみられるアレルギー症状を訴える事例が出始め社会問題化。製品に含有される小麦加水分解物が皮膚から浸透し、強い小麦アレルギーを発症することが分かり、国が同様製品の規制に乗り出すきっかけとなった。
悠香は、小麦由来成分をを含有しない新製品に切り替えるとともに、旧製品の自主回収を行ってきたが、約4,650万個も売れたとされる商品だっただけに被害者が続出。旧製品を使用したことで呼吸困難などのアナフィラキシー症状を発症する例も報告され、国民生活センターが旧製品の使用中止を呼び掛ける事態となった。その後、被害にあった原告1,330人以上が各地で損害賠償を求めて集団提訴。和解が成立したケースを除き、現在も係争中である。
ざっと悠香をめぐる動きを記したが、「石のしずく」問題が報じられるようになったのは2010年。翌2011年までに、被害状況の深刻さが認識されるようになっていたのは確かだ。一方、前掲のダイレクトメールには、悠香の石鹸がモンドセレクション金賞を「5年連続」で受賞したとある。金賞を含む受賞自体は「10年連続」とも記されている。つまり、健康被害を出して大きな社会問題を引き起こした企業の製品が、騒ぎの渦中も「平均得点80%から89%」の評価を得ていたことになる。モンドセレクションは、一体何を審査しているのだろう?
被害拡大で問われる責任
前述したように、モンドセレクションは、受賞を示す≪ラベル≫が≪高品質の象徴≫だとした上で、≪消費者は受賞ラベル付き商品を好む為販売促進に繋がる≫と宣伝している。受賞が10年連続というのなら、悠香側はこの間、高品質であることを示すモンドセレクション受賞ラベルを使用し続け、販促の道具にしていたはず。モンドセレクションが、健康被害の拡大に手を貸したと言われてもおかしくない格好だ。
悠香の姿勢にも問題がある。ダイレクトメールで「金賞受賞」を強調しておきながら、健康被害についての説明はなし。DMの内面に―大切なお知らせ―として記されているのは、「現在の『悠香の石鹸』は、小麦由来成分を一切含んでおりませんので、どうぞご安心くださいませ」(下参照)。
その後に小さな字で、「旧悠香の石鹸(平成22年12月まで販売していた旧製品)をお持ちの場合、新しい石鹸への交換をさせて頂いておりますので、ご連絡頂けますと幸いです」……。ここは、「回収」と書くべきで、「交換」などという都合の良い表現で済ます問題ではなかろう。少なくとも記者は、責任意識の希薄なこうした企業を信用することはできない。もちろん、モンドセレクションも。