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知っていますか?イスラム教

2015年2月 9日 09:35

世界史教科書1.jpg かなり以前の話になるが、世界史の授業で習ったイスラム教の内容といえば、唯一絶対の神「アラ―」の啓示を記した「コーラン」を信奉する宗教で、教組は「マホメット」、教義を広めるにあたっては「右手に剣、左手にコーラン」というスローガンを掲げた、という程度のものだった。もっと濃い内容だったのかもしれないが、世界史が苦手だった記者には、それくらいの記憶しかない。
 世界三大宗教といえば、キリスト教、仏教、イスラム教。だが、それぞれの由来や教えについての詳細な知識を、日本人全体が有しているとは言い難い。とくにイスラム教については、キリスト教、仏教ほど生活に根付いていないため、もっとも遠い宗教だったというのが正直なところだろう。
 拘束した人質の殺害を繰り返し、世界を震撼させている「イスラム国」。“イスラム教スンニ派の過激組織”と紹介されることが多いが、『イスラム教』そのものについて、私たちはどれほど理解しているのだろうか。
(写真は、現在使われている教科書「高校世界史A」)

宗教にうとい日本だが…
 イスラム教に限らず、日本人の個別の宗教に関する知識はそれほど豊富ではなさそうだ。神社、仏閣、教会はあまたあるが、それぞれの宗教を漠然と知っているに過ぎない。なにせ、正月には神社で柏手を打ち、盆には先祖と仏様に手を合わせ、クリスマスにはケーキを買ってキリストの誕生を祝うといった忙しい民族。いちいち各宗教の詳細にかかわっていては、行事の消化はおぼつかない。なじみのある仏教やキリスト教にしても、来歴や教義を述べろと言われてスラスラ説明できる人は決して多くはあるまい。とりわけ西アジアを中心に東南アジア、アフリカまで広がったイスラム教は日本との結びつきが弱く、異文化としてとらえられてきたのではないだろうか。しかし、「知らない」では済まされなくなった。日本はいま、イスラム世界とどう向き合うべきか問われているのである。

 マホメットといえば「ああ、聞いたことがある」とうなずく世代がある。かつて高校の世界史の授業では、大半の学校がイスラム教について冒頭のような内容を教えていたからだ。いつ頃から変わったのか分からないが、現在の高校世界史の教科書は、さすがに以前ほど大雑把な記述ではなくなっている。マホメットは標準的なアラビア語の発音に近い「ムハンマド」、神であるアラ―は「アッラー」になっており、歴史や教義、宗派などについても詳しく紹介する内容となっている。以下、本稿も教科書や報道の呼び方に従って「ムハンマド」「アッラー」で統一する。

教義、戒律
 イスラムの信者ムスリムが信仰の対象とするのは神(アッラ―)、天使(マライーカ)、預言者(ナビー)、啓典(キターブ)、来世(アーヒラ)、天命(カダル)で、「六信」と称される。信仰の証しとして求められる義務が、信仰告白(シャハーダ)、礼拝(サラート)、喜捨(ザカート)、断食(サウム)、巡礼(ハッジ)の「五行」。まとめて「六信五行」ともいう。

 早朝、昼、午後、日没後、就寝前の1日5回、聖地メッカに向かってひざまずき行われる独特の礼拝や、イスラム暦で9番目の月となる「ラマダン」の30日間、日の出から日没まで、一切の食と性行為を絶つことも知られている。豚肉や異教徒が殺した動物を食べない、禁酒、女性は夫以外の男性に顔や素肌を見せない、貸付利息の禁止等々、独特の決まりもある。他宗教のような聖職者を認めていないことも特徴の一つといえる。

 こうした信仰上の決まりから社会規範、さらには政治の在り方などについて定めたのが「イスラム法(シャリーア)」。アッラーの啓示をまとめたコーランと、ムハンマドトの言行に関する伝承(ハディース)が基になっている。もちろん、殺人をはじめとする犯罪行為は否定されている。

 タリバンやアルカイダといった過激派組織の台頭で、イスラム教は戦闘的で危険な宗教だとみなされがちだ。学校の授業で、「右手に剣、左手にコーラン」というスローガンを教えられた人にとってはなおさらである。「預言者」と称される教祖ムハンマドが、イスラム教信者(ムスリム)を率いて多神教徒が支配していたアラビア半島を征服したこと、さらにはイスラム教が、異教徒に対する聖戦(ジハード)や殉教という考え方を支持しているため、こうした印象を与えてきたのではないだろうか。イスラム教に対する誤解があるのは事実だ。

イスラム教、キリスト教、ユダヤ教 帰依する神は同じ
 世界三大宗教としての発祥は、仏教、キリスト教、そしてイスラム教の順。前述の通り、イスラム教は預言者ムハンマドが開祖となって600年代に確立されたものだ。聖地は、ムハンマドに関係する場所で、生誕の地とされるメッカ(サウジアラビア)、迫害されて移り住んだメディナ(サウジアラビア)、昇天したといわれるエルサレム(パレスチナ・イスラエル)がイスラム教内の共通認識となっている。エルサレムは、対立し合うユダヤ教、キリスト教も聖地にしているという複雑な場所だが、これは三つの宗教が、同一の「神」を帰依の対象としていることと無関係ではない。

 もともとユダヤ民族の宗教だったユダヤ教からキリスト教が生まれ、さらにイスラム教が派生した。ユダヤ教とキリスト教が神だとするエホバ(ヤハウェ)を、ムハンマドはアラビア語で「アッラー」と定義したのである。このため、キリスト教との関係ばかりが想起される出エジプト、十戒で知られるモーゼやキリストも預言者とされており、ムハンマドはその後に続く、最後で最大の預言者という位置付けだ。イスラム教にとって最大の拠りどころはコーランであるが、旧約・新約聖書の一部も、イスラム教の啓典の一つとして認知されている。

 ちなみに、イスラム関連で、私たちの日常に溶け込んだものもある。メッカがイスラム教の聖地であることから転じ、「湘南はサーフィンのメッカ」といった具合に使っている。

スンニ派とシーア派
 イスラム教に関する報道で、必ずといってよいほど出てくるのが「スンニ派」「シーア派」という宗派名。イスラム教ではムハンマド亡き後の後継者を「カリフ」と呼び、4代目までが正統カリフとされる。シーア派は、4代目カリフの子孫も指導者(イマーム)であるとする一派。対してスンニ派は、ムハンマドの言行(スンナ)にのみ従うとする教徒たちのことだ。イスラム教全体の9割をスンニ派が占めているとされ、シーア派、スンニ派それぞれに分派した組織が存在。さらにそれぞれの宗派内には、イスラム原理主義を掲げて勢力拡大を図り、ために異教徒の殺害や殉教を厭わない過激派テロ集団が存在する。この連中は、コーランの教えを曲解し、異教徒の殺害なら許されると考える狂信集団といえよう。問題の「イスラム国」はスンニ派とされるが、同派にはアルカイダ、タリバンといった過激組織も――。シーア派にも過激組織は存在している。

 以上、イスラム教についての簡単な解説。さらに詳しく説明するとなれば、1回の配信記事のなかでは到底納まりきれない。この機会に、イスラム世界をながめてみることをお勧めしたい。



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