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作品捏造 ― 書道界と賞状ビジネス

2014年3月18日 08:55

龍源斎大峰氏の名刺 先月28日、文化庁後援の公募美術展「全日展」の知事賞受賞者が架空人物だった問題で、主催者である「全日展書法会」(東京都豊島区)の前会長が、文化庁を訪れ謝罪。問題の受賞作品は、前会長自身が書いて捏造していたことを明らかにした。
 全日展書法会は、1970年代前半から書道を中心とする公募展をから年1回開催。入選者に、内閣総理大臣賞や都道府県知事賞などを与えていた。
 ところが、昨年の公募展において、書道部門で少なくとも13県の知事賞受賞者が架空の人物だったことが発覚。2月17日には、龍源斎大峰(りゅうげんさいたいほう)前会長が辞任を表明する事態となっていた。賞状ビジネスに成り果てた書道界の現状について取材した。

曖昧な書道界の段位認定
 龍源斎大峰(本名:田代正一 74)氏は福岡県八女市出身。 書道団体「全日本教育書道連盟」会長として、全国の書道教室を指導、月刊誌発行と会員提出作品に級・段などの認定を行ってきた。

 書道の場合、簿記や珠算などの検定と違い、俗に言う「書道○級や○段」の認定に厳密な規格がない。あくまでも団体独自の判断で級や団が決まる。全国にある書道教室や学校のクラブ活動で使われる、級や段の取得方法も似たようなものであり、とくに全日本教育書道連盟が特殊というわけではない。基本的に書道業界の格付けは曖昧なのが現実だ。

政治家と持ちつ持たれつ
 その格付けを巧妙に利用して、全国から高額の出品料で作品を集めていたのが全日展である。龍源斎氏は70年代から政治家に接近。その紹介をもとに、文部科学大臣賞・内閣総理大臣賞などの賞状を手に入れてきたという。

 内閣総理大臣賞といっても総理大臣が選ぶわけではない。国の機関が直接発行する賞と違い、各種団体主催の賞状は、総理大臣秘書官室に大会の内容と受賞者を報告し、団体が自分で作った賞状を提出。その賞状に大臣の「私印」を押してもらうのである。他の「○○大臣賞」と称する賞状も同じだ。

 じつは、この賞状が、政治家の地元後援会や団体から支援を得るための便利なアイテムになっている。ある政治家が大臣(または副大臣・政務官)になると、地元の行事や団体に○○大臣賞を創設することが多い。 たとえば「○○神社書道展」や「○○菊花賞」などと称するものがそうだ。

 龍源斎氏も、政治家に近づくことにより、全日展主催の賞状を増やしていったという。それが公募展の権威を押し上げ、出品料、参加費の増加に直結していたからだ。毎年、年末に開かれる表彰式・懇親会には、小野清子元参議院議員や佐藤正久参議院議員といった有力議員のほか、多くの地方議員が招待されていた。政治家側は、力を貸す代わりに全日展書法会側から票やカネを得ていたということだ。

 全日展は有力政治家と接触することで「賞」の数を増やし続けたが、少子化など様々な要因で会員数は減少の一途。そのため、各県からの出品数が足らず架空人物の受賞報告をしたものと見られる。

政権交代の度に揺れる「賞」
 毎年公募展を開いていた全日展に、激震が走った時期がある。それは2009年の政権交代の年だった。それまで無条件で、申請すれば押印されていた総理大臣賞にストップがかかったのである。 

 民主党政権は、自民党政権時代に出されていた総理大臣賞を一旦全て停止。自民党との関わりや紹介者を調べ、関係がある団体からの申請を受け付けないと決定したのだ。そのため、この年は多くの団体で混乱が生じたが、全日展は会長と関係のある民主党議員を動かし、総理官邸に申請することで何とか総理大臣賞を確保することができたという経緯がある。

 皮肉なもので、民主党政権時代に前政権との関係を絶つために事務方に指示した命令は、一昨年の自民党への政権交代後も生きることとなってしまった。全国の団体からの賞状申請に対し、官邸の秘書官室から「与党議員の紹介でないと受け付けません」と明確に断りが入るようになったのである。

 民主党政権時に総理大臣賞を申請していた団体は、今度は自民党議員に紹介してもらう努力をしなければ賞を受けられないという状況。政権側の指示によってしか賞を出さないという官邸職員による不文律(内部規約)ができてしまっている。賞の権威などあったものではない。 

「全日展」―金儲けの実態
 全日展は昨年、東京・上野の東京都美術館で11月26日から12月3日まで開催。約600点が展示された。この時の「出品料」や「賞」は以下の通りだ。

【出品料】(消費税含む)
 (1) 公募出品 1点=14,700円
 (2) 外国出品(外国人の出品料) 1点=6,000円
 (3) 生涯学習科出品料 1点=9,450円
 (4) 複数出品料(2点目以降)の場合 1点=5,250円(外国人は5,000円)
 (5) 役員、会友の出品料は別途料金

【各賞】
 ◎会長特別表彰(特別功労褒章)=多数出品団体責任者を対象)
 ◎役員特別賞 (会友特別賞・特別審査会員賞・審査会員賞・無鑑査会員賞)
 ◎特別賞 (内閣総理大臣賞・外務大臣賞・文部科学大臣賞・全日展大賞・国際芸術大賞・全日展準大賞・国際芸術準大賞)
 ◎都道府県知事賞(全都道府県)
 ◎全日展特別褒賞 (国際書芸賞・国際美術賞・全日展芸術賞)
 ◎新聞・放送・出版関係賞 (産経新聞社賞・北海道新聞社賞・東奥日報社賞・河北新報社賞・北國新聞社賞・秋田魁新報社賞・福井新聞社賞・四国新聞社賞・埼玉新聞社賞・神奈川新聞社賞・静岡新聞社賞・静岡放送賞・山梨日日新聞社賞・山梨放送賞・信濃毎日新聞社賞・信越放送賞・長野放送賞・長野朝日放送賞・新潟日報社賞・富山新聞社賞・茨城新聞社賞・下野新聞社賞・京都新聞社賞・岐阜新聞社賞・神戸新聞社賞・新日本海新聞社賞・徳島新聞社賞・西日本新聞社賞・宮崎日日新聞社賞・美術新聞社賞・月刊書道界賞)

 全日展は、「全日展書法会」が展開する書道ビジネスにとって重要な道具立て。書法会は、政治と密着して数多くの賞を作り出し、それを会員増に結び付けていくという手法で成長した。全日展での儲けなどかわいいもの。級や段位認定などでも多額の利益を得ていた可能性が高い。賞状ビジネスと結びついた「書道」の在り方に、疑問が投げかけられているのは言うまでもない。



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